次の日
お昼ご飯を食べ終えた少年がぼうっとしているとサナが隣でさわぎだした
何が起きたのだろうか。少年が驚いてはね起きる。すると答えの代わりにパチパチパチと拍手が返ってきた
思わず吹き出しそうになって少年はお腹に力をこめた。なんだかしゃくだった
こいつの前で笑うなど
目になってから毎日、サナは窓の外を眺めて外で起こっていることの報告をつづけた
一体どんなお弁当なんだろう?言葉とは裏腹に興味津々な少年に向けてさなは言葉を続けた
少年がプッと吹き出す
彼はあわてて口元を手で隠したが遅かった
サナがニヤリとわらうのが気配で分かった
顔をそむけて布団をかぶろうとする。その動きをふたたび上がったサナの声がとめた
少年は怒ったように言うと、野球ボールを握って今度こそ布団に潜り込んだ
サナのとまどう気配が伝わってくる。けれど、少年は無視して目をつぶった
次の日は腹立たしいくらいに暑い日だった
少年が起き上がるといつもよりさらに元気な声で話しかけてきた
まるで答えを知っているようなさなの問いかけに、少年はピクリと動きを止めた
さなは少年と野球の関係を聞こうとして途中で急に言葉を飲みこんだ
目が見えないとこうゆう時に不便なのだろう
何がおきているのか分からず、尋ねるしかない少年に向けてさなは楽しそうに答えた
少年が急に怒りだしたことに驚いてサナが心配そうに声をかける
少年は無視して、きつくくちびるをかみしめた
下を向く。どこを向いても何も映らない目にはいま、行き場を失った大粒の涙がたまっていた
叫ぶと同時にこらえきれなくなった涙がはらはらと少年の頬をつたい落ちた
サナが少年の名前を呼ぶ。少年は何かと戦うように虚空をじっと睨んでいたが、何度も名前を呼ばれるうちに我慢できなくなったかのようにポツリとこぼした
少年は二人の言い返そうとして口をつぐんだ
頭をなでる手が気持ちよかった
その手は冷たく細いくせに、どこか力強く
不安を吸い取られていくのを感じた
次の日、少年はサナと顔を合わせるのが気まづかったけど
サナはとくにかわった様子もなく、張り切って少年の、目の代わりを続けていた
楽しそうに話していたサナの声が急に途切れた
サナの声が部屋に響いた
初めて聞く大声だった
思わず首をすくませる。その隣でサナがあわただしく立ちあがる気配を感じた
少年の制止を振り切って、サナは部屋を飛び出した
少年はあわててあとを追った
目は相変わらず見えない
壁に肩をぶつけながらそれでも、一生懸命足音を頼りに追いかけた
そんな時廊下の向こうから突然ユンギ!と自分を呼ぶ声がした
サナではない
それよりもっと聞きなれた声だった
近づくと、答えの代わりに横でこっくりとうなずく気配がした
顔は見えない。けれどきっとあの時のように泣きそうな顔をしているのだろう
最後は言葉にならなかった。けれど二人の間ではそれで十分だった
少年は何度もうなずく。目が見えなくなってからはじめて、少年は心の底から笑顔になれたきがした
少年が何かを言い終える前に
ドサリ
と、重たいものが床に倒れる音がした
周りがざわめき大勢の人が駆け寄ってくる足音がする
床にしゃがんだ少年が手探りでサナの肩を揺さぶる
しかし、サナが目を開けることはなく、その日以来彼女が少年の目を務める事もなかった
次の日、少年の隣には新しい目がやってきた
何度思い返してみても
彼女は変なやつだった
目の見えない自分を心配して、勝手にいつもはしゃいで、目の代わりをしてくれた
何度も酷いこと言ったのにそれでも自分と向き合ってくれた
そんな彼女にいつしか俺は恋をしていた
ふわりと優しい風が窓から吹き込む
少年は見えない目を窓の外に向けて、窓枠に手を伸ばした
きっかけはさなの窓の外の話をしてくれた事だった
毎日、あまりにも変なものばかり見つけるものだから
気になってしょうがなくて、つい自分もサナと話すようになっていた
ジミンが気遣わしげに聞いてくる
少年は静かに微笑むと外の空気を肺いっぱいに吸い込んでジミンに問いかけた
ジミンは驚いたような声をあげた
またよほど変な光景でも見ているのだろうか?
少年の言葉にジミンが困ったように身じろぎする気配がした
長く続く静寂に、さすがに違和感を覚えた少年が問う
ジミンは一瞬ためらったのちに、ハッキリと答えた
❦ℯꫛᎴ❧
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。