第4話

窓の外
1,030
2018/08/18 04:18
次の日
サナ
サナ
ユンギユンギ!すごいよ!
お昼ご飯を食べ終えた少年がぼうっとしているとサナが隣でさわぎだした
ユンギ
ユンギ
なに?
サナ
サナ
窓の外をさボンレスハムみたいな男が歩いてるんだよ!えっ、まさか!?
ユンギ
ユンギ
な、なんだよ
何が起きたのだろうか。少年が驚いてはね起きる。すると答えの代わりにパチパチパチと拍手が返ってきた
サナ
サナ
いやぁ、見事だった!
ユンギ
ユンギ
何がだよ?
サナ
サナ
その男、転んだと思ったら大きなお腹でバウンドして飛び起きたんだよ。
サナ
サナ
こうぽーん、ぽーん、トーンって感じで。実に見事な着地だったよー
ユンギ
ユンギ
なにそれ
思わず吹き出しそうになって少年はお腹に力をこめた。なんだかしゃくだった
こいつの前で笑うなど
目になってから毎日、サナは窓の外を眺めて外で起こっていることの報告をつづけた
サナ
サナ
ユンギユンギ!
サナ
サナ
今日は外でお弁当を広げている女の子達がいるよ!
ユンギ
ユンギ
昼なんだからお弁当ぐらい食べるだろ
サナ
サナ
それがさー
サナ
サナ
そのお弁当まっ茶色なんだよ!
ユンギ
ユンギ
はぁ?だからなんだよ?
一体どんなお弁当なんだろう?言葉とは裏腹に興味津々な少年に向けてさなは言葉を続けた
サナ
サナ
あ!トンビが急降下してきた!弁当に突っ込むよ!
サナ
サナ
あ、分かった
サナ
サナ
あの茶色やつ全部唐揚げだったんだㅎㅎ
ユンギ
ユンギ
それを言うならトンビに油揚げだろ?
ユンギ
ユンギ
それに、お弁当がまっ茶色に見えるまでつめるなんてどんだけ唐揚げ好きの女の子だよ
少年がプッと吹き出す
彼はあわてて口元を手で隠したが遅かった
サナ
サナ
今!笑ったよね?( ̄▽ ̄)ニヤリッ
サナがニヤリとわらうのが気配で分かった
ユンギ
ユンギ
……気のせいだよ
顔をそむけて布団をかぶろうとする。その動きをふたたび上がったサナの声がとめた
サナ
サナ
ユンギ!
ユンギ
ユンギ
今度はなんだよ?トンビが、また何かしたか?
サナ
サナ
ううん。違うよ
今、私が見てるのはね
サナ
サナ
部屋のすみっこなんだけど
サナ
サナ
何もない所に、花束があらわれたんだよ!
サナ
サナ
魔法かな?
ユンギ
ユンギ
はぁ?花束?
サナ
サナ
あれ?花束にメッセージが書いてある!
サナ
サナ
「ごめん。元気だして」だって!心当たりある?
ユンギ
ユンギ
知るわけないだろ!そんなの
少年は怒ったように言うと、野球ボールを握って今度こそ布団に潜り込んだ
サナのとまどう気配が伝わってくる。けれど、少年は無視して目をつぶった
次の日は腹立たしいくらいに暑い日だった
サナ
サナ
ユンギ!ユンギ!
ユンギ
ユンギ
うるさいな!今日はなんだよ!?
少年が起き上がるといつもよりさらに元気な声で話しかけてきた
サナ
サナ
今、すごい剛速球を投げた小学生が窓から見えたんだよ!
サナ
サナ
ユンギにも見て欲しかったな
ユンギ
ユンギ
なんで俺に見せたいんだよ?
サナ
サナ
だって、ユンギは野球が好きなんでしょ?
まるで答えを知っているようなさなの問いかけに、少年はピクリと動きを止めた
ユンギ
ユンギ
……野球なんて大嫌いだよ
サナ
サナ
どうして?それじゃあどうしていつも野球ボールを
さなは少年と野球の関係を聞こうとして途中で急に言葉を飲みこんだ
ユンギ
ユンギ
どうしたんだよ?
目が見えないとこうゆう時に不便なのだろう
何がおきているのか分からず、尋ねるしかない少年に向けてさなは楽しそうに答えた
サナ
サナ
ユンギ!また花束が現れたんだよ!
ユンギ
ユンギ
花束って、また誰かが置きに来たっていうの?
サナ
サナ
うん!きっとそうだよ
ユンギ
ユンギ
なんだよ、それ!花束なんかいらねーよ!
サナ
サナ
どうしたの?
少年が急に怒りだしたことに驚いてサナが心配そうに声をかける
少年は無視して、きつくくちびるをかみしめた
下を向く。どこを向いても何も映らない目にはいま、行き場を失った大粒の涙がたまっていた
ユンギ
ユンギ
なんでだよ!なんで来るんだよ!俺、あんなに酷いこと言ったのに
叫ぶと同時にこらえきれなくなった涙がはらはらと少年の頬をつたい落ちた
サナ
サナ
この花束はユンギの友達が置いていったものなんだね
ユンギ
ユンギ
友達なんかじゃない!
サナ
サナ
どうして?ユンギの事を思わない人間が、毎日花束を届けに来るはずないよ
サナ
サナ
もしよかったら、私に何があったか話してくれない?1人で抱え込むより楽になるよ?
ユンギ
ユンギ
……
サナ
サナ
ユンギ
サナが少年の名前を呼ぶ。少年は何かと戦うように虚空をじっと睨んでいたが、何度も名前を呼ばれるうちに我慢できなくなったかのようにポツリとこぼした
ユンギ
ユンギ
…俺、酷いこと言っちゃったんだ
サナ
サナ
ひどいこと?
ユンギ
ユンギ
うん、多分世界で1番ひどい事だよ
ユンギ
ユンギ
俺、急に目が見えなくなったせいで毎日イライラしてたんだ
ユンギ
ユンギ
だから「またすぐに野球をできるようになるよ」って毎日なぐさめに来てくれたジミンに
ユンギ
ユンギ
「目が見えなくなって嬉しかった事が一つだけある。それは、ウザイお前の顔が見えなくなったことだ」って言っちゃったんだ
ユンギ
ユンギ
あの時、ジミンの顔は見えなかったけどすごい傷ついてるって分かったんだ
ユンギ
ユンギ
俺、本当ジミンにあんな顔させたかったわけじゃないのに!本当はあんなこと言うつもりじゃなかったのに
サナ
サナ
大丈夫だよ、ユンギ。悪いことをしたなら謝ればいいんだよ
ユンギ
ユンギ
謝ったって許してくれるわけない
サナ
サナ
結果を心配するまえにまずはやってみなよ。上手くいくから
ユンギ
ユンギ
知ったようなこと……
少年は二人の言い返そうとして口をつぐんだ
頭をなでる手が気持ちよかった
その手は冷たく細いくせに、どこか力強く
不安を吸い取られていくのを感じた
ユンギ
ユンギ
こ、子供扱いするな!////
サナ
サナ
(o´罒`o)ヘヘッ
次の日、少年はサナと顔を合わせるのが気まづかったけど
サナはとくにかわった様子もなく、張り切って少年の、目の代わりを続けていた
サナ
サナ
ユンギ!今日もまた、花束が現れたよ!
サナ
サナ
あっ!しかも今窓の外にこっちに向かって手を振った子がいた!
サナ
サナ
ユンギと同じくらいの子だったよ
サナ
サナ
もしかしたらあの子がジミン君か……
楽しそうに話していたサナの声が急に途切れた
ユンギ
ユンギ
どうしたの?
サナ
サナ
待って!!
サナの声が部屋に響いた
初めて聞く大声だった
思わず首をすくませる。その隣でサナがあわただしく立ちあがる気配を感じた
ユンギ
ユンギ
急にどうしたの!?あんまり動いちゃダメなんだろ!?
サナ
サナ
じっとしてられるか!だって、来たんだよ?
サナ
サナ
ジミン君に違いない!
ユンギ
ユンギ
えっ?待てよ!
少年の制止を振り切って、サナは部屋を飛び出した
少年はあわててあとを追った
目は相変わらず見えない
壁に肩をぶつけながらそれでも、一生懸命足音を頼りに追いかけた
そんな時廊下の向こうから突然ユンギ!と自分を呼ぶ声がした
サナではない
それよりもっと聞きなれた声だった
ユンギ
ユンギ
ジミン?ジミンか?
近づくと、答えの代わりに横でこっくりとうなずく気配がした
ジミン
ジミン
ごめん。僕、顔を合わせるつもりはなかったんだけど
ジミン
ジミン
この女の子が
顔は見えない。けれどきっとあの時のように泣きそうな顔をしているのだろう
ユンギ
ユンギ
ジミン、ごめん。酷いこといってごめん
ユンギ
ユンギ
俺、頑張るから。頑張って絶対もう一度見えるようになるから
ユンギ
ユンギ
そしたらもう1回野球を
最後は言葉にならなかった。けれど二人の間ではそれで十分だった
ジミン
ジミン
約束だよ!絶対にキャチボールをしよ!
ユンギ
ユンギ
あぁ!
少年は何度もうなずく。目が見えなくなってからはじめて、少年は心の底から笑顔になれたきがした
サナ
サナ
よし!これでまた友達に戻れたね!
ユンギ
ユンギ
サナ、ありがとう
サナ
サナ
(´>∀<`)ゝ))エヘヘ
ユンギ
ユンギ
あのは、俺お前がs
少年が何かを言い終える前に
ドサリ
と、重たいものが床に倒れる音がした
ジミン
ジミン
ユンギ!大変だよ!女の子が!
周りがざわめき大勢の人が駆け寄ってくる足音がする
ユンギ
ユンギ
おい!どうしたんだよ
ユンギ
ユンギ
しっかりしろよ
床にしゃがんだ少年が手探りでサナの肩を揺さぶる
しかし、サナが目を開けることはなく、その日以来彼女が少年の目を務める事もなかった
ユンギ
ユンギ
💭最後まで言えなかった。" 好き "って
次の日、少年の隣には新しい目がやってきた
ジミン
ジミン
いい子だったね…
ユンギ
ユンギ
うん
何度思い返してみても
彼女は変なやつだった
目の見えない自分を心配して、勝手にいつもはしゃいで、目の代わりをしてくれた
何度も酷いこと言ったのにそれでも自分と向き合ってくれた
そんな彼女にいつしか俺は恋をしていた
ふわりと優しい風が窓から吹き込む
少年は見えない目を窓の外に向けて、窓枠に手を伸ばした
きっかけはさなの窓の外の話をしてくれた事だった
毎日、あまりにも変なものばかり見つけるものだから
気になってしょうがなくて、つい自分もサナと話すようになっていた
ジミン
ジミン
ユンギ、窓開けてて寒くない?大丈夫?
ジミンが気遣わしげに聞いてくる
少年は静かに微笑むと外の空気を肺いっぱいに吸い込んでジミンに問いかけた
ユンギ
ユンギ
なぁ、ジミン。今日はこの窓から何が見える?
ジミン
ジミン
え?
ジミンは驚いたような声をあげた
またよほど変な光景でも見ているのだろうか?
ユンギ
ユンギ
まさか今日はボンレスハムみたいに太ったやつがカラスに襲われているとか言うんじゃないだろうな?ㅎㅎ
少年の言葉にジミンが困ったように身じろぎする気配がした
ユンギ
ユンギ
どうしたんだよ?
長く続く静寂に、さすがに違和感を覚えた少年が問う
ジミンは一瞬ためらったのちに、ハッキリと答えた
ジミン
ジミン
何も見えないよ。だって、窓の外には壁があるだけだもん
❦ℯꫛᎴ❧

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