震える指で、裏口のドアを施錠する。
ドンッ…ドンッ!!
ドンドン!と、ドア全体が揺れたのは、その直後だった。
それからドアノブが動き、鍵に阻まれてガチャガチャと固い音を立てる。
もう少しで男に入られるところだった。
肝心な問題が頭に浮かんだ。
二カ所ある出入り口は塞いでしまっている。
僕は立ち上がり、バックヤードからそっと店内の様子を窺う。
…………窓の外に男がいる。
僕の姿を求めて、店を覗きながら足早に歩いている。
________駄目だ。
あいつが外にいる限り、ドアからは出られない。
考えるうちに、一つ思い浮かんだ。
例のハッチだ。
あそこは倉庫の奥だから、窓からは見えない。
僕は倉庫に置いた梯子を担いで、奥へと向かった。
開け放たれたハッチから、冷え切った外気が雪崩れ込んでいるのが分かる。
ハッチの真下に立ち、梯子を壁に押し付けた。
足元が安定していることを確かめ、僕は再び屋上へと向かった。
ヒューーー…(寒風
目を細めて、雪の上に這い上がる。
そのまま姿勢を低く保ちつつ、レンガの手摺りからそっと顔だけを覗かせる。
…………飛び降りるには高い。
倉庫内と違って足掛かりになるものがないし、下はアスファルトだ。
軽傷ではすまないだろう。
せめて、分厚い雪の上にでも着地できれば良いのだけど…………
そう思って雪の位置を確かめようとした時、僕の目に、とんでもないものが飛び込んできた。
それは、街灯の下、道路脇の雪の上に、静かに横たわっていた。
仰向けの姿で、乱れたブラウンコートを、大量の血で染めて。
__________一吾さん!!
僕は心の中で叫んだ。
遠目にも、すでに彼が事切れていることは理解できた。
…………あの男にやられたのだ。
頬が濡れ、ピリピリと痛む。
いつしか溢れていた涙を手で拭い、僕は今一度、下の様子を窺った。
男は相変わらず、エントランスと裏口の間を行ったり来たりしている。
これでは降りる隙などない。
たとえ無傷で下りられたとしても、すぐに捕まってしまう。
もう残された手段はなかった。
…………ただ、ある一つを除いては。
一瞬ためらったが、もう他に助かる道はない。
僕は覚悟を決め、雪の上を静かに移動した。
積まれているコンクリートブロックの一つを手に取る。
持ち上げると、ゴツゴツとした表面に皮膚を削られるかのような、嫌な触感が走った。
ずっしりとしたブロックを抱え、僕はもう一度、手摺りから下の様子を窺った。
……すぐ真下に男がいる。
立ち止まって、窓から店の中を覗き込んでいる。
________と、その視線が、不意にこちらへ向けられた。
見つかった________!!
もう躊躇っている暇はない。
僕はブロックを抱えた両手を手摺りから突き出し、そのまま手を離した。
ブロックは、一瞬風の抵抗を受けながらもそれを無視して、まっすぐに落ちていった。
グシャリ、と鈍い音がした。
見下ろすと、男が雪の上に倒れていた。
僕はハッチから倉庫に戻った。
震えと涙が止まらない。
よたよたと裏口から外へ出て、そのまま近くの交番に向かった。
その後僕は交番で、警察に事情を話した。
警官は、僕を連れてカフェへと向かった。
________男の死体は、どこにもなかった。
それどころか、探偵の死体すらない。
雪の上に広がっていた大量の血痕も、跡形もなく消え失せている。
…………どう言うことだろう。
また悪い夢でも見ていたのだろうか。
とにかく警察は、「事件性なし」と判断したらしい。
動転する僕をパトカーで家まで送り届け、後のことは任せてくれと言って、去っていった。
これで________終わったのだろうか。
もう何も、怖いことは起こらないのだろうか。
分からない。
ただ、今は早く日常に戻りたかった。
家でゆっくりと休みたかった。









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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。