部屋の片付けの途中で見つけた、本棚の1番下の端にポツンと置かれている、埃まみれの一冊の絵本。
ふと手に取って、その表紙を撫でる。
幼少期の私はこの本が大好きだった。
『しあわせなふたり』という題名で、タッチのやわらかく可愛い絵が描かれた表紙。
それと裏腹に、愛し合っていた二人の子供が死ぬ話。
グリム童話のプリンセスより、名前すら出てこない可哀想な女の子が好きだった。
やっぱり、
できる限り荷物を処分して、必要なものは分かりやすいように纏めた。
二度と戻ることのない家にさよならを告げて、小さなリュックを背負う。
最寄駅まで、いつもの風景をぼうっと眺めて歩く。
大した思い出のない都心の街は、やたらと人が溢れていて、狭苦しい毒が蔓延っている。
改札を通り、各駅停車の電車がやってきた。
次に来る電車は快速だけど、急いでいないし、悲劇のヒロインみたいに感傷に浸っていればいいから、そのまま乗り込もう。
ゆっくり車窓から景色が流れていく。
海。トンネル。次は山。海…じゃなくて湖。またトンネル。
太陽は電車と同じ方向に走っている。
…あなたの幼少期のニックネームおる?なぁあなたの幼少期のニックネーム、いっしょ行こ!
あれ見てや。すっごく綺麗やろ!
あなたの幼少期のニックネーム、ごめんな…
知らない間に夕方になっていた。見た夢にはやっぱり彼が出てきた。
県境の山脈地帯にある一つの無人駅に着いた。乗客も乗ってくる人もいない。
私の目的はこの駅。
懐かしい山道を通ると、村に続く橋がある。
これは無視して奥に進む。
しばらく進むと開けた場所に着く。
昔、彼とよく来ていた場所。
岩を乗り越えると、そこが切り立った崖であることが分かる。すぐに落ちそうなほど、足場が狭い。
今日ここに来たのは、自殺するため。
そして私は崖から落ちていった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!