第14話

静かな揺さぶり
27
2026/03/30 14:09 更新
 
   









 
 二人はそれ以上、何も言わなかった。












 会話は穏やかで、


 ときどき笑い声もあった。


 まるで、さっきのやりとりなど存在しなかったかのように。













 私は距離を保ったまま、


 ただ店員として動く。












 彼は会計を済ませるとき、


 一瞬だけこちらを見た。













 何も言わない。


 何も残さない。













 そして、ドアベルが鳴る。


 二人は並んで、夜の街へ消えていった。
 












 ――それで終わるはずだった。
 












 閉店作業を終え、エプロンを外す。


 外はすっかり夜。


 春の風は、まだ少し冷たい。


 カフェの扉を押し開ける。


 そして、足が止まる。













 街灯の下。













 彼が立っていた。


 ひとりで。
















 スーツの上着を脱いで、腕にかけている。






 あの夜と同じ目。


 でも、今は逃げ場がない。
 








あなた
……どうして












 私の声は、思ったより静かだった。


 彼はすぐに答えない。


 数歩、距離を詰める。


 近すぎない。


 でも、遠くもない。









送る




プリ小説オーディオドラマ