「俺に全部……見せて」
「……先輩。」
彼と距離が近すぎて
頭回らなくて
言葉が出ない
彼の目にかかった前髪
少し乱れたそのスーツ
あの時と同じ。
会社で
夜
あの夜と同じ。
その姿に思わず
吸い込まれそうになる
そして近づいてくる彼の手。
長尾くんに……なら
ふいにそう思った
でも
その顔に近づいてくるその手が
大吾くんと重なって
無意識に
身構えてしまった。
身構えるつもりなんて……無かったのに、
そう話す彼の声は
優しくて
暖かかった。
全てを。
本当は
全てを晒して
楽に……なりたい
誰かに……知って欲しい
けど
でも…
怖い
彼の反応が
彼の表情が。
怖いから……
でも
本当は……
違う……
長尾くんが起き上がろうと
体制を変え始めた。
俺は…………
行ってしまいそうやったから
俺は長尾くんの襟を掴んで
引き寄せた。
さっきより距離が近くて
息が苦しい
けど
俺は、
長尾くん……に、
「嫌なんて……言ってへん…」
本当はもっと
ちゃんと
……知って欲しい
「……」
「 ?」
この夜瞳に……光がさした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!