新城の兄貴の異様な雰囲気を肌で感じ取った彼女は反射的に眉を吊り上げ警戒する。
恐怖で立ち竦んでしまい、もはや見守る事しか出来ない2人。
なんと、新城の兄貴は彼女の性別など意に介さず、あろうことか戦いを誘ってきたのだ。
その様子は半ば強引でもあった。
新城の兄貴の行き過ぎた発言に思わず半笑いになり、冗談だろうと思い込んでいる二人だが…
2人とは真逆の反応を見せ、まるで獲物を追う獣の視線に彼女の本能が危険の警笛を鳴らし、思わず一歩後ろに下がってしまう彼女。
確かに彼女も戦闘はできる方である。下っ端、または舎弟の中では最強の名を持つ彼女だが、まだこの実力では兄貴には叶わない事を悟っていた。そう判断した彼女はきっぱりと断る。
そう思った彼女は彼から目を離さずにゆっくりと後退しはじめる。
だが…
声のトーンは優しいが、それとは裏腹に常人は震えるような狂気的な笑みを貼り付けながら後退りする彼女をジリジリと確実に距離を潰していく新城の兄貴。
どういう訳か、彼はわざと横にズレたりと定期的に位置を変えながらどんどん距離を詰める
居ても立っても居られなくなったのか、宮戸が彼女の元へ駆け寄る。
彼女はすぐさま宮戸を後ろに回した後、ゆっくりと後ろに下がりながら彼だけに聞こえる声でこう囁いた
そう言うと彼は足早にその場を後にした
その瞬間、一瞬の静寂の後に突如、風を切り裂くような豪快な音と共に新城の兄貴の前蹴りが襲いかかる!!!
しかし、間一髪、彼女はその前蹴りをバックステップで躱す
組の女。だが女であろうが新城の兄貴がにとっては関係ない。
そして強引に、容赦なく。
そう言うと彼は彼女の背後に指を指す
今の状況は彼女にとっては極めて危険な状態だ…
なぜなら振り向いた先にあったのは逃げ場のない閉塞感のある壁の入隅。つまり、壁の角。新城の兄貴の策略によって彼女の体が無意識にそこへ導かれていたのだから…
彼の策略というのはこうだ。
まず、彼は後退りする彼女に容赦なく詰め寄る時、彼女が壁の入隅に背を向けさせる為に、時折位置を調節しながら距離を縮めて行く。
彼女は視界を埋め尽くす新城の兄貴の姿を頼りに後退する。だが新城の兄貴を視界のど真ん中に入れなければ後退する事は難解。
となると、新城の兄貴の接近に、彼女は無意識に視線を向け、体ごと彼の方へ自然と傾く。
まだ気づいていない彼女はそれを繰り返し、次第に壁の入隅に背を向けることになる。
まるで手のひらで踊らされてるようになってしまうのだ…
そして背中が入隅まできたら前蹴りで彼女を後ろに下げる。仮に受けたとしてもその反動で後ろに下がってしまうのが大半だ。どの道避けようが受けようが壁との距離が一気に近くなるだけでその運命は変わらない。
この兄貴の策略に彼女はまんまと引っかかったのだ…
……となると残された彼女の運命は
もう、彼に捕まる事だけだ…
長らく戦いから離れていたせいか、彼女は空間把握能力が鈍っていた。
すぐに離れようとする彼女…しかし
彼女は両手首を掴まれており、身体も壁の入隅に押しつけられるように収まっている。時すでに遅し、もう抵抗できないように徹底的に追い込まれていたのだ。
何度、力を振りぼって動こうが新城の兄貴の力にはもう勝てない。
そう言うと彼は拳をギュッと強く握りしめる。
そのまさかのまさかだ……
その瞬間、彼は彼女に拳を振り翳したのだ!!!!!!
花沢はもう叫ぶ事しかできない
彼女は目をギュッと閉じ、息を呑む。
状況が状況だ。片手は解放されても壁が邪魔をして避ける事が出来ないし屈むことも難しい。だからもう大人しく殴られるしかない……
……と思ったが
なんと拳は彼女の顔の前でぴたりと止まったのだ
すると新城の兄貴はケロッとした笑みを浮かべ、先程まで緊張感で重苦しかった空気がほぐれていくのを感じた。
全くの予想外の展開と直前の新城の兄貴のあまりの雰囲気の変化に大きく戸惑う彼女。
それをよそに、花沢はあまりの安堵感に溶けてしまいそうになっていた。
そして新城の兄貴が話を続ける
なんて思ったその瞬間…
ドス黒いオーラを纏わせながら新城の兄貴にブチギレている一条の兄貴と汗だくの宮戸が慌ただしく部屋に入ってきた
その手と言うのは何だろうか?新城の兄貴が自身の手に視線を移す。
見ると、まだ彼女の手を軽く掴んだままではないか…
だが口先だけで、一向に離そうとしない新城の兄貴。
なんというか「わざと」そうしてるような気さえもしてくる…
先ほどより声のトーンが低くなり、明らかに怒りが増している一条の兄貴
すると新城の兄貴はそっと彼女の腕を離し、悪戯っぽい笑顔を浮かべながら一条の兄貴の方へゆっくりと歩み寄る。
そして一条の兄貴の耳元でこう囁いたのだ。
一条の兄貴のみに聞こえる極めて小さな声。
当然彼女らが聞き取れるはずもない。
沈黙を破るように、彼は唐突に一条の兄貴に問いを投げかける。
不意に問われて一瞬戸惑いを見せた一条の兄貴だが、反抗的な態度で応じつつもその答えに飾り気はなく、純粋に正直な答えであった。
一条の兄貴のあっさりとした返答。一方で何故かニヤニヤとしている新城の兄貴は、彼女達がまだ状況を把握しきれていない中、予想が見事に的中したことに高揚感を味わっていた。
※ 詳しくは87話をご覧ください
なんか勝手にバチバチになってる2人
喧嘩の火種を摘み取り、彼らが仲裁に入ろうとしたその時だった
みたらし団子を片手に、ため息をつきながら佐古が部屋に入ってきたのだ
彼はまだ温かいみたらし団子を口にくわえたまま質問する
佐古の兄貴を見て何故か怯える二人。そのうちの一人がガタガタ震えながら彼の手にあるみたらし団子を指さす
みたらし団子片手に絶叫する佐古
新城の兄貴はニコニコ笑顔ではあるが、その片手には強く拳が握られている…
そう言うと彼は光を裂くような凄まじい速さで勢いよく部屋を飛び出して行った。
まるで忍術でも習ってるんかと言わんばかりに、音もなく彼らの側に来た守若の兄貴
すると新城の兄貴が何か思い出したかのように口を開く
彼女が疑問を口に出したと同時に新城の兄貴は守若の兄貴の肩を組みながらこう言った
改めて同期が彼女で本当に良かったと思い、そっと胸を撫で下ろした花沢くんであった
まぁ何は共あれ、無事で済んだしすぐに打ち解けて良かったね結愛ちゃん

























編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。