本編の過去話です、黒尾がひよりに恋心を抱いた時の話を書こうと思い立ち執筆してみました。
黒尾と研磨、ひより達の家がご近所同士で子供の頃から知っているという設定です。
初めて見たとき彼女は『蝶』のようだと思った、軽やかな羽が生えたように地面を蹴り宙を飛び上がる姿は誰もが圧倒されるほど高く羽ばたいていた。それがいつの間にか頭にこびり付いて、離れなくなったのだろうか。
黒尾と研磨がバレーを始めた頃、近所の体育館でバレーの練習をしている同年代の子や先輩達の姿を見ている中一人だけ雰囲気が違う女の子を見付ける。
男の中に混ざっても人一倍背丈が小さく、ネットなんて越えられないだろうと感じさせられるのに彼女の瞳は一点に集中している。
先生が打ち上げたボールを見上げ、コートを走り地面を蹴り上げた時の音が体育館に響き渡り女の子は宙を飛んだ。高いネットさえ軽々に超えるほど飛び上がりボールを見定めると、その勢いのままに腕を振り下ろし相手のコートに叩きつける。
これが初めて黒尾とひよりが出会った日でもあり、研磨を含めて三人のバレーが始まったのである。
中学生に上がる頃にはメキメキと力を付け始めた黒尾と研磨、そしてひよりはと言うと女子バレーのエースとして類稀なる才能を開花させていた。
体育館の練習の際に見える隣で高く飛び上がり、強烈なスパイクを繰り出すひよりは誰よりも輝いていて練習中にも関わらず黒尾は視線を逸らせなかった。
だが、そんな彼女が抱えている葛藤は誰も知ること無く黒尾が中学三年生の頃の冬に知ることになった。
まだ雪が降らない十一月、その日は女子バレー部の練習に姿を現さないひよりが気になり仲が良い女子に聞くと「分からない」と言われてしまった。
部活後の帰り道、ひよりの家に訪ねると少し困った表情を浮かべる母親に出迎えられ部屋に訪ねると暗い部屋のベッドの上には蹲るひよりが居た。
無理やり笑顔を作っているのだろう、今にも泣きそうな表情に黒尾はベッドに座ると小さな身体を抱き寄せ肩に顔を押し付けさせる。突然の抱擁にひよりの思考は固まり身体を強ばらせると、優しく頭を撫でられる。
黒尾の肩に顔を埋めて笑うひよりだったが、その言葉を聞くと着ているジャージが湿り気を帯びて行くのを感じ取る。声を出さず、静かに泣いているであろう彼女に黒尾は心の中で呟く。
細い身体に腕を回し力を込め抱き締めると、黒尾は何も言わずただずっとひよりの背中を撫で続けるのだった。
あれから月日が流れ黒尾達は高校生になった、ひよりは女子バレーを辞め男子バレー部のマネージャーとして黒尾達を支える方になるのだった。
あの頃の輝きとは変わらず、ひよりの笑顔は太陽のように温かくて黒尾はいつか想いを告げられたらと思いながら隣を歩くのだった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!