あなた said
そろそろ試合が始まるからと
日向と一緒にトイレへ向かった。
あの狭い通路は高校時代と大して変わっていない気がする。
まさか影山と遭遇するとは思わなかったけれど。
視線がぶつかる。
日向は妙に堂々とした顔で言った。
プロになってまで腹を下されたら、
味方としてはたまったもんじゃない。
日向は影山の反応に目を輝かせながら、
大人になったなと感動していた。
たしかに前の影山ならもっと大声で怒鳴っていたはずだ。
そんなことを言う日向に影山は無言で拳を振りかざす。
大人になってまで何やってんだか、と僕はため息をついた。
日向が腕をまくる。
どうせまた変な勝負をふっかけるんだろうと思った矢先、
影山が冷静に腕を見せつける。
その筋肉量と顔つきに、日向はスッと袖を下ろした。
戻すんかい。
急に両肩に腕が回ってきたと思ったら宮侑だった。
相変わらずの距離感で、
僕と日向の間にズケズケと割り込む。
案の定、騒がしいのがやって来た。
木兎だ。
いつも通りテンションMAXで場をかき回す。
影山は影山で律儀に説明する。
いや、そうじゃなくて。
静かな圧をまとって牛島が現れた。
いやもう、どこから出てくるんだよ。
人の密度も情報量も多すぎる。
日向は律儀に訂正し続ける。
ほらややこしくなった。
牛島が僕の方を向く。
軽く会釈すると、牛島はほんの数秒僕を見つめてから、
今日も勝つと言ってきた。
きっと高校時代の決戦のことを言っているのだろう。
日向にも「今日は勝たせてもらう」と宣戦布告していた。
木兎はもう黙ってて欲しい。
ほんと頼む。
赤葦か華救か柚先輩、
誰でもいいから連れて帰ってくれ。
またうるさいのが来た。
星海だ。
宮侑はあからさまに嫌な顔をした。
情報過多にもほどがある。
星海は日向と身長勝負を始めるし、
ほんと騒がしい。
てか日向、170cm代か。
僕なんて160cmになったばかりなのに。
リベロより低いの、僕くらいだよ。
やってきたのは佐久早聖臣。
相変わらず潔癖の権化だ。
宮侑はもう半泣きだ。
関西の人間はツッコミで疲弊する宿命でも
背負っているのか。
騒がしい再会だった。
懐かしい声が背後から届いた。
振り返ると、そこには穂乃真が立っていた。
僕は思わずニヤリと笑う。
ほんの一瞬だけ、あの頃に戻ったような気がした。
互いに小さく笑い合う。
宮侑に理不尽に怒られ、僕と穂乃真は思わず吹き出した。
騒がしい。息をつく暇もない。
だけど──心のどこかで、この空気を懐かしいと思った。
高校時代とは違う場所で、
それでも変わらない仲間たちの声が響く。
まもなくコートの照明が明滅し、
試合開始のアナウンスが流れ始めた。
誰もが自然と口を閉じ、視線を前へ向ける。
熱と期待で満ちた、あの独特の空気。
僕たちは大人になったけれど──こうしてまた、
同じ場所に集まり、同じものを見つめている。
胸の奥が少しだけ熱くなった。
さあ、試合が始まる。
ここから先は、また新しい物語だ













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。