第11話

隣にいた君へ11
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2026/05/13 01:00 更新


 昼休みの終わり。

 教室にはまだ、ざわめきが残っていた。



 あなたは、自分の席で静かに手を握りしめていた。



(……言う)



 決めたはずなのに、心臓が落ち着かない。



 ふと、教室の扉の方を見る。



 そこに、黒尾がいた。



 誰かと話している横顔。

 少し笑っていて、いつも通りで。



(……あの中に、入っていく)



 喉が、少しだけ乾く。



 立ち上がる。

 一歩。

 もう一歩。



「……鉄くん」



 声をかけると、黒尾が振り向いた。



「お、あなた。どした?」



 軽い調子。

 けれど、その目はちゃんとこちらを見ている。



「ちょっと、いい?」



「おう」



 周りの会話が少し遠くなる。

 二人で、廊下に出る。



 窓から入る光が、やけに明るい。



 少しだけ沈黙。



「……昨日のことなんだけど」



「おう」



 黒尾は、急かさずに待つ。



 その余裕に、少しだけ救われる。



「マネージャーの話」



 言葉にすると、少しだけ現実味が増す。



「……やる」



 短く、はっきりと。



 一瞬。

 黒尾の表情が止まる。



「……まじで?」



 思わず、少しだけ前に出る。



「うん」



 頷く。



「ちゃんとできるか、わかんないけど」



 少しだけ視線を揺らしながら、



「でも、やりたい」



 まっすぐ、そう言う。



 黒尾は数秒、何も言わなかった。



 それから。



「……っしゃ」



 小さく、でも確かに声を漏らす。



「ありがとな」



 いつもより少しだけ低い声。



 その一言に、胸がじんわりと温かくなる。



「こっちこそ」



 少しだけ笑う。



「よろしくお願いします」



「おう、任せとけ」



 軽く言いながらも、その顔はどこか嬉しそうで。


「今日、部活来れるか?」



「……うん」



「じゃあ放課後、体育館な」



「わかった」



 会話が終わる。

 けれど、どちらもすぐには動かなかった。



 少しだけ、間が残る。



「……じゃ、あとでな」



「うん」



 黒尾が先に背を向ける。



 その背中を見ながら、

 あなたは小さく息を吐いた。



(……言えた)



 それだけで、少しだけ世界が軽くなる。



 放課後。



 体育館の扉の前。



 あなたは、少しだけ立ち止まっていた。



 中から、ボールの音が聞こえる。

 声が飛び交う。



(……ここに入る)



 手が、少しだけ強くなる。



「あなた」



 後ろから声がして、振り返る。



 鉄くんがいた。


「来たか」



 自然な笑顔。


「……うん」



「大丈夫。そんな固くならなくていいって」



 軽く言われて、少しだけ肩の力が抜ける。


「行くぞ」



 扉を開ける。



 体育館の空気が、一気に流れ込んでくる。



「おーい、黒尾ー!」


「なんだよ」



「遅ぇ——」



 声が止まる。



 視線が、あなたに向く。



「……誰?」



 その一言に、空気が少しだけ変わる。



 黒尾は、軽く肩をすくめた。



「マネージャー」



 一瞬の間。



「は!?」



 声が上がる。



「まじで!?」



「ほんとかよ!」



 一気にざわつく体育館。



「ちょ、うるせぇな」



 黒尾が軽く制しながら、



「今日から来てくれることになった」



 そう言った。



 視線が一斉に集まる。



 あなたは少しだけ緊張しながら、



「埴谷あなたです」



 小さく頭を下げる。



「よろしくお願いします」



 一瞬の静寂。



 そして。



「よろしくー!」



「助かる!」


「黒尾ナイス!」



 一気に空気が和らぐ。



 その中で、

 あなたはほんの少しだけ息を吐いた。



(……大丈夫そう)



 そう思えた瞬間。



「こっち」



 黒尾が軽く手を振る。



「最初は適当でいいから、見てればいい」


「……うん」



 頷いて、その隣に立つ。



 ボールの音。

 走る足音。

 声。



 全部が、少しだけ眩しい。



「無理すんなよ」



 ふと、鉄くんが小さく言う。



「……うん」



 その一言が、やけに優しくて。



 胸の奥が、少しだけ温かくなる。

 その様子を。



 少し離れた場所で、研磨は見ていた。



(……やるんだ)


 静かに、そう思う。



 視線を少しだけ細める。



(……大丈夫、かな)



 言葉にはしない。

 ただ、見ているだけ。



 それでも。



 その視線は、確かに“気づいている側”のものだった。



 体育館に、夕方の光が差し込む。



 新しい居場所が、静かに形になっていく。

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