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イフがコテッと首を傾げて、そう言う。
頬を掻いて、苦笑しながらイフに事情を伝えた。
……年頃の娘が父親と口をきかない、そんなことはよくあることだが、
私は少し特殊だ。だっていじめられてることいえないじゃん……?
最近になっては減った気がしなくもないけど、
それでもいじめられていることには変わりがない現状だ。
いじめられている事情を知らないイフが、
興味津々そうに私にズイと近づいて聞いてくる。
あ、そっか……イフにはまだ話してなかったもんな……
ただ、自分より小さい、その上こんな幼い子に話しても、
分からないだろうし、そもそも無駄に心配をかけたくない。
――私は適当に誤魔化すが、イフはそれを捉えて逃さなかった。
誤魔化しきれないか……あはは、と笑ってその場を取り繕う。
……そういえば、イフ。
会った初期の頃よりも、少し大人びた気がする。
見た目は変わらないけど、口調や言動が。
以前のイフなら「おしゃべり」なんて言うはずだろうに、今は「会話」になっている。
イフが、何故だか成長している…………?
私の表情に、イフが察したように離れる。
なんだか申し訳ないな……こんな小さい子にまで気を遣わすなんて。
その分、今日は今まで経験してきた事を思い出して、
うんとイフと遊んであげよう。
ふと思い出して、イフに言ってみる。
今朝、バスの中で開いたリュックの奥底に、
消えかけのイニシャルが刻まれていたことを思い出す。
貝殻で、海を思いつきイフに提案してみた。
記憶どおりに再現されるかはわからないが、海くらいなら……
イフのキョトンとした様子に、さすがに分からないか‥…と苦笑いする。
――が、そんなことはなかったらしい。
イフが目を見開いたまま、俯いていた。
心配になって、イフに話しかける。
途端、イフが急に立ち上がって、そう呟く。
目は遥か遠くを見ているようで、ポツポツと零し始めた。
私がそう言うと、イフが寂しそうに俯く。
イフの言葉に戸惑いが隠しきれず、慌てて声をかける。
すると、くるりとこちらを向いて、突然飛びついてきた。
よく分からないイフの言動に動揺していると、ニコッと笑いかけてくるイフ。
色々聞きたいことがあったが、そこで口を紡いで笑い返す。
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いじめが嫌だから休みたい、それに変わりはない。
ただ――それともう一つ、言葉にはできないけど、嫌だという感情があった。
めんどくさいから? 違う、ならとっくに休んでる……
同情が嫌だから? もうそんなの気にしてない……
ただ、ここで私の悪いところが出た。
そうだ、塾を無断で欠席してる事すら知らないんだ。
学校を一回くらい休んだって、気づかれないはず。
……朝、悠に会えないのは、ちょっぴり寂しいけど。
――まだ少し、期待している自分がいる。
*
学校の登校方面とは、正反対に方向に向かう。
別に、行きたいところも特に決まっていなかった。
ただ何かブラつきたくて、意味もなく街をさまよっていた。
忙しく働くサラリーマンに、片手にスマホを持ってはしゃぐ女性たち。
通学する生徒を見かけるたび、知り合いがいたらどうしようと心臓がドギマギする。
交差点のところで、向かい側にいるある集団に目が留まる。
ヨレヨレの服に無駄な装飾、大げさに露出している肌から見えるタトゥー。
染め上げた金髪も相まって、ひときわ目立っていた。
私が苦手な部類の人種だ……あまり関わりたくはない。
その集団の中に、ある人物の目が留まる。
嫌ってくらいに見慣れたツインテールに、あの長いネイル。
いつもよりも更に濃い化粧に、派手な服装。
――見間違える訳がない。あれは……
――私をいじめている一人、有村鏡花がいた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!