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第30話

29,巡る心覚え
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2023/02/27 02:07 更新





 *




『イフ』
それで、会話は終わっちゃったの?
大葉 冴
うん。まぁ自分で言うのもなんだけど、年頃だし……
自分の父親と話すの、気まずくない?
大葉 冴
それに久しぶりのことだったし……
イフがコテッと首を傾げて、そう言う。
頬を掻いて、苦笑しながらイフに事情を伝えた。
……年頃の娘が父親と口をきかない、そんなことはよくあることだが、
私は少し特殊だ。だっていじめられてることいえないじゃん……?
最近になっては減った気がしなくもないけど、
それでもいじめられていることには変わりがない現状だ。
大葉 冴
親に言えないことがあると、やっぱり気まずいもんだよ
『イフ』
お父さんに言えないことって……?
いじめられている事情を知らないイフが、
興味津々そうに私にズイと近づいて聞いてくる。
あ、そっか……イフにはまだ話してなかったもんな……
ただ、自分より小さい、その上こんな幼い子に話しても、
分からないだろうし、そもそも無駄に心配をかけたくない。
大葉 冴
ええっと……
大葉 冴
成績面とか。
ね? よくあることでしょ?
――私は適当に誤魔化すが、イフはそれを捉えて逃さなかった。
『イフ』
他にもあるんじゃないの……?
誤魔化しきれないか……あはは、と笑ってその場を取り繕う。
大葉 冴
…………





……そういえば、イフ。
会った初期の頃よりも、少し大人びた気がする。
見た目は変わらないけど、口調や言動が。
以前のイフなら「おしゃべり」なんて言うはずだろうに、今は「会話」になっている。
イフが、何故だか成長している…………?
『イフ』
……でも、お姉ちゃんが言いたくないなら、イフ我慢する。
大葉 冴
……ありがとうイフ、イフは優しいね
私の表情に、イフが察したように離れる。
なんだか申し訳ないな……こんな小さい子にまで気を遣わすなんて。
その分、今日は今まで経験してきた事を思い出して、
うんとイフと遊んであげよう。
大葉 冴
それじゃあ、今日は何して遊ぼっか。
大葉 冴
……あ、イフ。イフは海って、知ってる?
『イフ』
うみ?
ふと思い出して、イフに言ってみる。
今朝、バスの中で開いたリュックの奥底に、
消えかけのイニシャルが刻まれていたことを思い出す。
貝殻で、海を思いつきイフに提案してみた。
記憶どおりに再現されるかはわからないが、海くらいなら……
大葉 冴
物凄く大きな水溜りみたいな……
お魚さんがいっぱい泳いでるところだよ、綺麗なところ。
『イフ』
…………
イフのキョトンとした様子に、さすがに分からないか‥…と苦笑いする。




――が、そんなことはなかったらしい。
イフが目を見開いたまま、俯いていた。
心配になって、イフに話しかける。
大葉 冴
えっと……イフ? 大丈夫?
『イフ』
――イフ、知ってる。
途端、イフが急に立ち上がって、そう呟く。
目は遥か遠くを見ているようで、ポツポツと零し始めた。
『イフ』
遠い……遠い、昔に…………
『イフ』
海……見たこと、あるかも。
大葉 冴
え、本当?
『イフ』
うん……
私がそう言うと、イフが寂しそうに俯く。




『イフ』
キラキラしてた……青い……ぴかぴかで……
『イフ』
砂のお城を作ったの……貝殻も乗せて……
『イフ』
――じんわりと、砂浜の熱さが、足裏越しに伝わってきた……
大葉 冴
い、イフ?
イフの言葉に戸惑いが隠しきれず、慌てて声をかける。
すると、くるりとこちらを向いて、突然飛びついてきた。
よく分からないイフの言動に動揺していると、ニコッと笑いかけてくるイフ。
『イフ』
えへへ、イフも海知ってるよ!
『イフ』
今日は海にするの?
イフ、楽しみ!
大葉 冴
あ……えっと、
色々聞きたいことがあったが、そこで口を紡いで笑い返す。
大葉 冴
そうだね……海、行こっか。





 *




大葉 冴
…………学校行きたくないな〜……
いじめが嫌だから休みたい、それに変わりはない。
ただ――それともう一つ、言葉にはできないけど、嫌だという感情があった。
めんどくさいから? 違う、ならとっくに休んでる……
同情が嫌だから? もうそんなの気にしてない……
ただ、ここで私の悪いところが出た。
そうだ、塾を無断で欠席してる事すら知らないんだ。
学校を一回くらい休んだって、気づかれないはず。
大葉 冴
…………
……朝、悠に会えないのは、ちょっぴり寂しいけど。









大葉 冴
( 悠も、私に会えなくてどう思ってるんだろう…… )





――まだ少し、期待している自分がいる。





 *




大葉 冴
予想通り、やっぱり相変わらず人気が少ない
学校の登校方面とは、正反対に方向に向かう。
別に、行きたいところも特に決まっていなかった。
ただ何かブラつきたくて、意味もなく街をさまよっていた。
忙しく働くサラリーマンに、片手にスマホを持ってはしゃぐ女性たち。
通学する生徒を見かけるたび、知り合いがいたらどうしようと心臓がドギマギする。
大葉 冴
……ん?
交差点のところで、向かい側にいるある集団に目が留まる。
取り巻き
え〜〜、そんくらい良いじゃ〜ん
取り巻き
ちょ、やめろって馬鹿!
お前犯罪者なるぞ!?ww
取り巻き
キャハハ、マジでウケるんですけど〜
大葉 冴
…………
ヨレヨレの服に無駄な装飾、大げさに露出している肌から見えるタトゥー。
染め上げた金髪も相まって、ひときわ目立っていた。
私が苦手な部類の人種だ……あまり関わりたくはない。
大葉 冴
……?
その集団の中に、ある人物の目が留まる。
大葉 冴
……あ、あれは…………










嫌ってくらいに見慣れたツインテールに、あの長いネイル。
いつもよりも更に濃い化粧に、派手な服装。




――見間違える訳がない。あれは……










有村 鏡花
昼間っから酒呷んなよ〜笑
大葉 冴
…………っ!










――私をいじめている一人、有村鏡花がいた。




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