4月下旬。教室の窓が都合よく開いていて程よい風が入ってきていた。目の前のクラスメートの勧誘も漫画やアニメなんかじゃ感動的なシーンだと思う。
けど、現実はこうだ。
そもそもこの子はまだクラスに残っている人に片っ端から声をかけてたから、感動も何もないけどね。
まあ、クラスでの様子を見るに、この子は神経図太いだろうから大丈夫でしょ。そのまま無視して帰宅することにする。
桜もだいぶ散った帰り道。花にはあまり興味がないからか、桜が咲いていたはずの木ももうすっかり他の木と見分けがつかないくらいになっていた。
家路なんていつも大体同じで変わり映えがしない。だからその時も「今日の夕飯なんだろうなぁ」とか「帰ったらちょっと寝ようかなぁ」とかそんなことを考えてたんだけど、ふと違和感を覚えた。
そこはそのまままっすぐ進めば立ち入り禁止とされているエリアだ。この街は何故かそう言う場所が多い。そこもそのひとつ。
昨今だとクマとかイノシシが街中にでるとかよく報道してるし、おそらくその類でしょ。ここら辺、どっちかいうと田舎だし。
そう思いながらもその子から目を離すことができなかったのは、その子が幼いながらも白色という世間一般では珍しいとされる髪色をしてたからだ。
人間は歳をとると白髪になる人が多いけど、そういうのじゃなくて、初めからその色だったみたいにもっと綺麗な色だ。
しばらく立ち止まってその子を眺める。と、その少女が動いた。_____立ち入り禁止区域内に向かって。
迷子とか看板の字が読めなかったのかもしれないし、とりあえず走って追いかけてみる。……なんか追いつけない。
別に体力に特別自信があるわけじゃないけど…でも、見たところ保育園児くらいの子の歩きに負けるほど遅すぎるわけは無いと思う。でも事実、差はあんまり縮まってない。
追いつけないなら、声をかけてみることにする。
女の子、無視。ガン無視。僕の声聞こえてると思うけどトコトコ歩いてる。短い足してるのに意外と速いよね。
なかなか追いつけずに息が切れてきたころ、小さな広場に着いた。
そこは周りの木が避けたように一本の桜しかない。木どころか雑草の一本だって生えてなかった。
そこでふと気がついた。……桜?なんでだ?
別に桜があるのはおかしいことじゃない。周りにも木は生えてるんだし、生えててもおかしくない。おかしいのは、僕が桜だとわかったことだ。
4月ももう下旬。ここが北海道だとか遅咲きの桜でもない限り、桜はもうとっくに散っている。さっき見かけたあの木も面影はなかった。
でも、その木は___満開だ。
何かがおかしい。紛れもなく入学式に見た時にすでに少し散っていた桜と同じものだ。普通はありえない。
しばらく見つめていると、白いものが視界に入る。
そうだ、あの子追いかけてたんだっけ。
その子はというと、おもむろに木の幹に触れて、そのまま木のぼりでもするのかと思いきや、そのままの体制を維持している。
さらに、おでこも幹につけ始めた。ここって実はパワースポットだったのかもしれない。立ち入り禁止の。力もらってるのかも。
……帰っていいかな?ダメ?
割と本気で検討してたら、サクラちゃん(仮)は奇行をやめ、こちらを振り返った。
風を孕んでふわりと揺れる綺麗な白髪。その年齢にしては落ち着いた光を宿した紅色の瞳。ショートケーキと同じ配色をしたその子は、フラフラとこちらに歩いてくる。
あれ、ここってパワースポットじゃなかったの?なんかそっちがパワー取られてそうだけど。
サクラちゃん(仮)はふらふらとした足取りでこちらへ向かい、僕の目の前で倒れた。とりあえず受け止めた腕の中でサクラちゃん(仮)は、掠れた声でこう言った。
そのまま意識を失った。残ったのは僕と、風に揺れる桜の大木。
うーん……これ……

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!