第4話

4
736
2025/10/20 09:00 更新
「それ、荷物上にあげるからちょうだい」

『ありがと~、こういうとき背高いといいよね』



出張当日。
朝からずっと同じ動線上を辿ってきた私たちは
電車の上部の荷物棚に荷物をあげたあと、
向かい合わせの席にどかっと腰を下ろして天を仰いだ。



涼しくなってきたとはいえ、
昼間に近づくにつれ日差しは強くなっていく。

冷房が肌に馴染むまで、と羽織ったカーディガンを脱いで、
間のテーブルに先ほど買ってきた駅弁を並べた。



『美味しそう~!』

「ほんとこういう流行りもの見つけるの上手いよね」

『広報だからね』
『っていうのは建前で~、SNS で見て
ここ来たら食べたいって思ってたら出張決まって大騒ぎ』

「素直でよろしい笑」



ホクホクと湯気を立てる駅弁を数枚写真に収めて、
テヒョナと顔を見合せた。

いただきます!の声のあと、
パキッと割りばしを割る音が重なる。

口に入れたお肉とお米はホロホロと溶けていって、
あまりの滑らかさに2人そろって目を見開いた。



『おいしい…!!!』

「最高、肉…」

『出張の醍醐味だよねぇ…』

「お酒飲みたくなるね」

『明日の商談終わったら居酒屋行くかぁ…』

「ホテル近くの居酒屋探しとくよ、
こういうのはあなたの方が得意かもだけど」

『大丈夫、テヒョナは美味しいお酒に
吸い寄せられる運命にあるから』

「その心は?」

『テヒョナはお酒に貪欲だから』

「失格」

『えぇ』



顔を見合せて、笑う。

車窓の奥で長閑な風景が色を変えて、形を変えて。

ゆったりと流れていく時間に 2 人で息を吐く。

ここまで駆け抜けてきたのはテヒョナも同じ。
忙しさで隠れていた心のわだかまりすら
溶かしてしまいそうなほど綺麗な紅葉がそこにはあった。



「もう、秋なんだね」

『…ねー…』

「あなたと出張でよかった」

『なに、まだ仕事始まってないけど?』

「うん、でも…」
「帰りもそう思う気がする」

『…私も、テヒョナとでよかった』



2人顔を合わせて、また一口。
話しては途切れ、話しては途切れ…を
繰り返す会話が心地いい。

テヒョナとは昔からそうだった。
途切れるたびに話題はコロコロと変わって、
結局同じところへ帰ってくる。

私もテヒョナも、話したいことが多すぎる。



毎日顔を合わせて、毎日同じ会社に通う。
部署も違えばフロアも違うので
一度も会わない日だってあるのだけれど、
そんな日の翌日は缶コーヒーを片手に
うちのフロアをフラフラとしている。

人懐っこくてフレンドリーで気さく。

でもどこか一線を引いていて、
関係を割り切っているテヒョナを
本当の意味で理解しているのは私しかいないと
自負せざるを得ない。



私はきっとこの恋を後悔する。

今すぐじゃなくても、いつかそう遠くない未来。

…そんな考えを、
高校時代から変わらず持ち続けている。



今のところ、後悔したことは一度たりともない。



「?どうしたの?」

『…別に』

「なに拗ねてんの笑」

『拗ねてない~』
「あなた、拗ねたら『別に』っていうの癖でしょ」

『ヨンジュン先輩にも言われたよそれ』

「…ヨンジュニヒョン、あなたのことよく知ってるね?」
「あなたのこと好きなんじゃない」

『…知らない』



ちらり、私へ視線を流してテヒョナは小さく笑った。
それが何の意図を含んだものだったのかはわからないけれど
心の奥底がチリチリと火花を散らしたのに私は気づいた。



気づいてしまった。
我儘で傲慢な私を閉じ込めるようにした駅弁の蓋は、
大きくへこんでいた。

プリ小説オーディオドラマ