第4話

第三章 闇の底に触れる
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2025/11/15 11:25 更新
「話さない?玲くん。」

玲はしばらく黙っていた。

目だけが、ゆっくり瞬いた。

「……なんで。」

その声は弱くて、諦めに沈んでいて、でもどこか甘えるような響きがあった。

私はゆっくり息を吸って、答える。

「…なんとなく。ほっとけなかっただけ。」

「ほっとけない?」

玲は鼻で笑った。

その笑い方は、痛々しいほどひねくれていて。

自分を守るための武器みたいだった。

「俺のことなんか、どうでもいいだろ。」

「どうでもよくないよ。」

その瞬間、玲の肩がビクッと揺れた。

“どうでもよくない”という言葉が、予想外だったらしい。

彼はゆっくり顔をそむけた。

「優しくするなよ。期待するだろ。」

囁き声のようなその言葉が、胸に刺さる。

(この子…本当にずっと誰にも愛されたことがないんだ。)

私は玲の横に立ち、少しだけ距離をあけて座り込んだ。

「好きだったんだよね。紫苑のこと。」

玲は黙った。

でも、答えが“はい”だってことは表情で十分わかった。

「紫苑は悪くないよ。」

「…わかってる。」

「玲くんも悪くない。」

「……は?」

玲が私を見る。

驚きと困惑が入り混じった顔で。

「好きなだけじゃ、どうにもならないことだってある。紫苑にも…好きな人がいるから。」

玲は唇を噛む。

「……知ってるよ。橘だろ?優しいよな。あいつ。」

そう言う声はひどく震えていた。

「俺、ずっと……誰かに必要とされてみたかっただけなんだ。」

目の奥に渦巻いていた闇が、ひとつ涙として落ちた。

その涙を見た瞬間、私は思った。

(未来では、この孤独が爆発して、母を傷つけてしまったんだ…)

「玲くんは…変われるよ。」

「変わる?俺が?今さら?」

「うん。だって、話している今の玲くんは…誰も傷つけようとしてない。」

玲がゆっくり私を見る。

その目は、ほんの少しだけ色が戻りかけていた。

「…空見って、不思議なやつ。」

「よく言われる。」

「普通言われねぇだろ。」

ふ、と玲が微笑む。

今まで見たことがないような微笑みだった。

私は確信した。

(この子は変われる。未来は変えられる。)

そう、思った。

このときは、まだ────

「私自身」が変わってしまうことに、まったく気づいていなかった。

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