寝間着のまま部屋から出て
離の小屋へ向かう 。
こんな山の奥に立つ屋敷の前を通る子供などおらず
外を出歩いても人とすれ違うこともない 。
なので寝間着のまま外に出ることに
特に抵抗は無かった 。
そもそも庭を囲む塀のお陰で
外から中は見えないくなっているので問題は無いが
カポーン カポーン
一定のリズムでなる水琴窟の音は
私の心に安らぎを与えてくれる 。
その音を聞いている時だけ 、
こんな大嫌いな家に生まれたことを
ほんの少しだけ良かったと思えるから
離は私の服が何枚か置かれている部屋以外
全て物置となっている 。
人も私以外は殆ど来ず 、
私だけの秘密基地みたいで幼心を擽られたのも
今でも鮮明に覚えている 。
昨日 、雨が降ったのか 。
少しじめっている部屋は
電球も切れかけで薄暗くしか照らされず 、
余り手元が見えないのも
相まって着替えるのに手間取った 。
『この洋服何回着ても着慣れないわね…
難しすぎるのよ』
白衣 … 巫女が着ている服の上半身の白い部分、
と言った方が伝わりやすいか 。
白衣を纏ったあと、その上から赤色の服を着る 。
そのまま 、布のかかった
大きな塊の前まで足を進めるとそっと布を退かした 。
線密な模様の掘られた
何処か貫禄のある木に縁取られた大きな姿見 。
それはいつも 私 " ではない " 少女を映し出す
そっと 姿見に触れる 。
そこに映る少女も 同じ動きをした 。
「御神木様 、時間ですよ」
そんな声でハッとした 。
余裕を持って着替えに来たのに 、
いつの間にか時間も忘れて
姿見と見つめあっていたようだ 。
意識が無理矢理引っ張られたように
かき混ぜられ 、少しの痛みが脳を叩く 。
慌てて姿見から離れ 、
私を呼びに来た信者に大声で分かりましたと
返事をした 。
「大声は はしたないですよ 。
では 、 先に向こうで準備をして起きますので」
唯の1信者がはしたないとか偉そうに …
そんな気持ちが湧き出てきたので 、
慌ててガムを噛むように噛み砕く 。
ガムは噛めば噛むほど味が薄くなる
それと同じように 、負の思いが薄まるようにと
ぎゅっと手を握りしめた 。
ふわりとまた布を被せる 。
私が触れていた場所に指紋は付いていなかった
『今日もまた 、虚しい時間が訪れるのね … 』
いつも通りに進む日常に
私はもう 、抗う気力すらなかった 。
↬ 神の成り代わりと崇められる少女を
信者は皆 、 御神木様 と呼ぶ
↬ 身内 、 又は神に近しい役目を持つ人は
巫女 と呼ぶ
↬ どちらも 恋結 あなた のことを指す











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。