

⚠️主はそこまでVに詳しくありません。
⚠️特に箱は知らん。
⚠️遊びまくってやったのでだいぶ適当。
⬇️提供元
朝6時。
一つの通知音がまだ薄暗い部屋に響いた。
すぐさま充電器に挿しっぱなしのスマホを起動させ、通知へと飛んだ。
黒猫が左から右へトコトコ歩きながら夜から朝になる背景を繰り返している待機画面が明るいBGMとともに流れている。画面下のコメント欄には『待機』の文字か朝の挨拶が少しずつ増え、やがていつものように水の如く滑らかに流れるようになった。その勢いに隠れて私も挨拶のコメントを残した。
そして三分ほどが経つと、歩いていた黒猫がこちらを向いてバサリと傘をひらきくるりと回す。すると画面が切り替わって配信画面が提示された。
『みなさんおはよう!五月雫です!今日も配信すんよー!』
そんな元気な声とともに、青髪の女の子がにこりと笑った。
とあるVTuber事務所に所属している配信者、五月雫の配信が始まったのである。
『みんなもう起きてる?今日も朝早くから見てくれてありがとね』
画面左に表示されているコメントを読むようなアングルでニコニコと笑う雫は、朝6時からお昼前ほどの時間を定期配信として配信している。
朝6時でこんなにも元気に声を出しコメントを読み反応できているのだから、彼女はもっと早くに起きているのだろう。私はまだ眠い目をこすりながらスマホの音量を下げた。
彼女の配信はリスナーの目覚ましに使われることが多い。学校や仕事の準備をしながらの視聴が主だからだ。なので視聴者数は多いものの、コメントをする人は半分かそれより少し多いくらいな気がする。
私は最初の挨拶以外はあまりコメントせずにひっそりと見ている派だ。
『じゃあ早速やるか!でん!今日のお天気のコーナー!』
黒猫の傘が回る。画面が切り替わってテレビで見るような大きい画面にお天気マークを浮かべた日本地図が映っていた。
雫の配信の中で一番人気で有名で十八番のお天気コーナーだ。テレビの天気予報より当たると噂のコーナーで、他推しのリスナーも見に来るほどだ。
『今日はちょっと寒いかも?乾燥にも気をつけてね。あとこの辺は夜に雨が降るかも!外いるなら傘がいるよー』
どうやら今日は雨の地域が多いみたいだ。私のところは曇りみたいだけど。
『以上!今日のお天気コーナーだよ。いつもと同じくサラッと終わるよー。あ、話変わるけどさぁ。明日の定期配信はお休みなんだぁ』
コメント欄に疑問の声があがる。彼女は滅多に配信を休まない。大きなコラボとかがあると準備で休んだりはするものの、そんな予定は今のところ無い。どうかしたのだろうか。
私は鏡の前で髪に櫛を通してまとめ上げながら耳を澄ませた。
『みんな不思議がってんね〜。全然たいしたことないんだけどちょっとね。友達と遊びに行くもんだから配信できる時間ないかなーって感じでさ。配信は余裕持ってやりたいじゃん』
青髪のポニーテールが揺れて頷いてるように動く。チャームポイントの雫型ピアスが光っていた。
『だから明日の朝は配信無し!ゆっくり寝てなね。明日土曜でしょ?あ、そうだ。今日の紫音の配信行って夜更かししなよ。確か今日ゲーム配信じゃなかった?』
紫音。
その単語が出たときのコメント欄は流れが早い。なぜなら彼女の配信でその言葉が出た回数がとてつもなく多いからだ。でてきた回数まとめやその時の話の切り抜き動画を見たことあるけど、切り抜きのはずなのに一時間はあった。おかしい。
そんな『紫音』の正体は、雫と同期で同じ事務所に所属し、非公式だが大型企画でほとんど雫とペアとして扱われる配信者だ。
朝に配信をする雫とは反対に、夜10時ごろから本人が満足するまでを定期配信としている。主にゲーム配信をしている。
『アイツ今回はちゃんと告知してた?……してた?あーよかった。いっつも忘れるじゃんあの子。私がずっと言ってんのに告知する癖つけないんだよね。みんなも欲しいよねぇ?告知』
この配信もきっと切り抜かれてショート動画にでもなって流れて来るのだろう。全部見るけど。
私はチン、と音がなったトースターからパンを取り出した。
『見に行ってみようよ告知。どんな告知してんだろーね。拡散してあげなきゃね。ほら、広めるのは大事なことだもんねー』
たぶんすごく悪い顔をしてマウスを触っているんだろう。
紫音はマイペースすぎて公式が雫に丸投げするくらいだ。告知も雫が言い続けなかったらしなかったに違いない。
配信画面上に某SNSが映し出される。紫音のアカウントを覗いているようだ。下の方へとスクロールすると告知したついでに事務所公式アカウントで告知されていたものを拡散しまくったようだ。なかなか本題の配信告知にたどり着かない。
『これ絶対紫音の通知つけてた子通知音やばかったでしょ!しすぎじゃない??全然本題にたどり着かないんだけど!しかもこの公式で出た情報の日付見てみ?一ヶ月前だって!!今拡散してどうする!!あと同期や先輩後輩のも拡散してやりなよ!私以外全く無いんだけど?!』
惚気だろうか。雫の声もすこし嬉しそうな気がするのは気のせいだろうか?
紫音は自分から他配信者と絡もうとしないし話せば毒舌が飛び出てくるのだが、雫には他に比べ若干、本当に比較的優しめな口調になることを、二人の沼にどっぷりとつかったオタクたちは知っている。そのうちの一人は私だ。
初見の人達は紫音の毒舌と冷たく突き放す態度に驚いて雫の配信を見るようになるが、結局雫は紫音の話を死ぬほどするし配信にも呼び出すので嫌でも紫音のことを知ることになる。
結果二人にハマるというループに陥る。ほとんどのリスナーは紫音の配信を寝落ちに、雫の配信を目覚ましに生活している。
『あぁあったあった…。お、サムネ付きだよ!ふざけまくってんねwwてかこれサラッと新規差分の立ち絵では??いつの間に??私が知らない立ち絵がいつの間に??これの一個前のやつはわざわざ私に自慢しに来たのに??』
タップされたサムネが表示される。いつものんびりやっている銃撃戦のゲーム画面とロゴ、その右にそっと置かれるくせ毛な紫髪の立ち絵。
そして極めつけに。
『あ!!!!!紫音コメ欄にいるじゃん?!?!起きてたん?!?!もうすぐ7時!!7時だよ!!昨日の夜も配信してたじゃん!!いつまでやってたん??』
リスナーの笑いが溢れた。紫音は『うらやましかろう』とだけコメントした。おそらくリスナーの殆どがスクショしただろう。私もした。
『起きてんなら呼んでやるんだからな!出なさい!!今日は寝かせないぞ☆』
『徹夜で配信するなんてありえないんでやめてくださいやかましい』
雫が画面を操り紫音に通話をかけたらしい。ほぼワンコールででた紫音は呆れたように笑った。
この流れは稀に見る光景だ。紫音は配信が終わったらすぐに寝てしまうから、雫が配信する時間にはぐっすり眠っているのが常だ。
だが本当に稀に、こうしてコメント欄に現れては通話に引き上げられている。
今日はいいことがある日かもしれない。私はパジャマをぬいで用意してあった服に着替えた。
『紫音!!告知してるじゃん!!偉いじゃん!!やればできるじゃん!』
『あざーっす』
『でもこの立ち絵はなに!!』
『新規差分です』
『くれ!!!!』
『素直すぎる。しょうがねぇな』
スマホで通話にでていたんだろう。ガサゴソと布の擦れる音が聞こえたあと、音質がいつも通り綺麗になった。うっすらマウスの音とキーボードの音が聞こえる。
『ほいよ』
『ぬおー!!やったよみんな!!紫音ゲットだぜ!』
『うるっさい……朝ですよ?』
『朝だよ??起きる時間だよ??』
『やかましい。俺は寝る時間だわ』
『すぐ寝ないじゃん。あ、今日の夜ちゃんとこれやりなよ?』
ぽん、とサムネと同じ紫音の立ち絵が画面に配置される。こういうときの定位置に置かれた。通話のアイコンは違うイラストのようだが。
『告知したからにはやるけど……なんで?』
『明日私やんないからさ。今日の夜に紫音とこに行くよう言っといたもん』
『えぇ……リスナー層ほぼ一緒じゃん』
『みんな紫音の配信で寝落ちしてね♡』
『きっつい。夢に出る』
『夢でも会おうね♡』
『お前は俺のなんなんだよ』
『そうだ紫音の配信に飛べるようにしとくね。チャンネル登録しといてね。通知入れといてね』
『……俺の配信人を選ぶで有名じゃないですか』
『私はいいと思うけどなぁ。寝落ちに』
『……アンタもしかして』
『寝落ちしてます✌』
『なのにこの時間から配信とか頭おかしすぎる。馬鹿なんじゃないの』
『心配ありがとう!大丈夫だよ!』
『さすが箱一の健康体』
『心配だったのか』『ツンデレ乙』『どこに心配隠してた?』『今日も朝からありがとう』というコメントが流れる中、紫音は他にもいろいろ雫に送り付けてるようだ。ピロンピロンと雫の通知音が鳴っている。
『は?この差分もあるの?』
『いいだろ』
『なんで一人なんだよーなんで私に頼まないんだよー』
『お前に頼んだらだいたい二人揃って描いてくるからだろ。一人のが欲しかったの。しゃちょーに頼んだの』
『初期のあるじゃーん』
『初期じゃねぇか。朝からめんどいぞ』
『ファンアート描くね』
『好きにしてそれは』
「ちょっとー、学校遅刻するよー」
「あやっべ」
部屋の外からお母さんの声が聞こえる。時計を見れば本当にそろそろやばい。
スマホを掴んで玄関に走る。配信では紫音との通話が切れて雫一人になりまた雑談配信が再開したのだった。
夜10時。もう外は真っ暗で、私もお風呂と夕飯を済ませて準備万端である。明日は朝に雫が言っていた通り土曜なので学校はない。宿題が少しあるくらいか……まぁいいや。明日やろう。
ササッと机の整理をしてベッドに寝転がる。と同時に通知が来た。当然紫音の配信の通知である。
飛んでみると、朝から夜に向かって左に歩く黒猫が眠そうにあくびをする。そうして傘を開いて回転させる。
そう、雫と紫音は黒猫が歩く方向以外おそろいの待機画面である。揃えにいったのは紫音だという噂がある。
『……どーもぉ。おはようさん』
眠そうな声が聞こえる。カチカチと画面を変えてから準備される紫音の体とコメント欄。雫は青い髪のストレートロングなのに対して紫音は紫髪のくせ毛短髪。またその対比が……対比が……。
『今日は人多い……な。あれか。ちゃんと雫さんとこから来てる人いんのか。真面目だね』
画面端で下を見ながらゲームの準備をしているようだ。夜はやはりコメント欄も元気で挨拶で溢れている。私も挨拶だけしておこう。
『……地味に初見がいるな……。雫さんのか……。雫さんとだいぶ配信スタイル違うと思うから、頑張ってね。……よし、準備できたべみんな』
コントローラーの音がする。画面が動き始めて、紫音のV体にコントローラーの差分がついた。
『この前は惜しくも優勝できずに終わちまったんで、優勝目指しつつだらだら話していこ。みんな今日はなんかあった?それともニート?』
『ニートも自宅警備という予定はある』とか『仕事ですけどなにか?』という、なんだか友達みたいな距離感のコメントが多い。雫のところは歌のお姉さんと子供たちみたいなイメージがないでもないけど、紫音のところはこづきあいの連続のイメージだ。
『……あ、今日の集まりいいね。ゲームやってる人多くて嬉しみ。お前らやんないのこれ。時間ない?お前らほぼニート様方ではなくて?……やっべ雫さんとこから来てる人はお仕事帰りか。おつかれさんです』
比較的優しめな声のねぎらいの言葉に、コメント欄もだがSNSが大騒ぎだ。こんなことめったにないので。
『今日はいい音の武器選ぶか。お疲れの人が寝落ちに来てるんしょ?え、普段の俺と違う?外行きの俺を楽しめ馬鹿野郎』
ジャキンジャキンとゲームの選択音がもういい音である。紫音もこの音が好きなのか、ボタンを押すタイミングは考えてるようだ。
『……ん?あ、え、お前ら、これあれ、雫さんじゃね?見ろってお前ら見てる?!』
紫音の表情が珍しく大きく動いた。
チームで戦うゲームに、雫の文字が見える。この前紫音とのコラボで見たスキンそのまんまだ。投げてくるチャットも本人だろう。何をしてるんだあの人は。
『アイツ明日早いとか……いやいつも早いけど……予定あんじゃないの……何してんの……死んだら殺すけどさ……』
『死んでるんだよなぁ』『オーバーキルで草』のコメントが流れる中、紫音はほんの少しだけ笑ったあと、始まったゲームに向き直った。
『さて……みんなゆっくり寝ていってね。俺は早く寝ない雫さんをぶち殺しに行きます』
銃が構えられる。すぐさまその標準が雫に合って、しばらく追いかけっこをしていた。たまに足元を撃って威嚇していたみたいだ。私は背景に海が見えた。なんて物騒な海なんだろう。
『このステージ……工場やん。足音いいとこ多いよ良かったね。俺は町中のほうが好きだけど。あ、敵いんね。……えー雫さん気付いてないやーん。志村後ろならぬ雫後ろやん。教えたろ』
銃弾が敵に向かって放たれる。雫も銃声と軌道で敵が近くにいることが分かったようだ。紫音の方が立地的には高所にいるので有利だと思うが雫も応戦するらしい。
紫音がもう一つの銃に持ち替えて一発ずつ撃ち込んで行く。私は銃の種類がわからないので音と撃ち抜く爽快感を楽しんでいる。
『……これ何発か雫さんに当たってんなワロス。倒した倒した。敵の持ち物で回復してくれるでしょ。他探すべ。みんなどこいる?俺の代わりに見つけて』
その後も銃声と足音、紫音のぽつりぽつりと雑談する声が穏やかに聞こえている。音量のバランスに気を使う紫音の配信は眠くなりやすい。一定の音が耳に入って……だんだんとまぶたが降りていく。眠い眠い……でもこの試合の結末くらいはみたい……残りは録画をみるから……。
『……あっぶね、いっちょ上がりよ。死にかけだけど勝ったべみんな。褒め給え崇め給え。……あ、雫さん死んでない?ギリ生きてんのこれ?死んでるのと同じだろ体力ゲージに残り残量見えないですけどww』
勝ったらしい。拍手だけ送って、本格的に寝るとするか。垂れ流したままで。
布団を被り直して、スマホを隣に置いて目を閉じた。
『待って?同じ事務所の違うやついんだけど。気まずいんだけど』
また目を開けることにした。
『……てことでぇ、みんな一日ぶり!朝の配信のお時間だよー』
雫の配信が始まっている。今日は日曜だ。まだ寝てても大丈夫。まどろみながら聞くとしよう。
昨日の夜は紫音の配信も最後まで見ちゃうくらい夜ふかししてしまったのでものすごく眠い。一昨日早めに終わったからファンサービス的ななにかだったのか……なんなのか……。
『配信おやすみごめんねー遊びにいってたよ。その話しよっか。えっとねー今回は紫音といっしょにメイドカフェというものに行ってみてー』
待たんか我。またか。
紫音の配信、メイドカフェいったあとの配信にしてはいつもと変わらなすぎたが……?しかもそうなると殆ど寝ていないのでは?
『しおんったらほんとwwメイドドレスしか見てないのwwまぁ合ってんだけどさwwピンポイントで服なわけ。もっと料理とか見なよってねw』
楽しそうな雫によると、メイドカフェのあとは猫カフェにもいったそうな。猫と戯れているときの紫音が一番穏やかなんだそうだ。
『紫音の方に全然猫懐いてくれなくてさー。拗ねると紫音大変だからさ、私がなんとか捕まえた猫を触らせてやってね?』
二人でカフェ巡りをした話を聞いたコメント欄は、いつもより流れが早いし投げ銭も多い。この調子だと今日の夕方辺りに切り抜き動画が上がるかもしれない。見逃した話がないかどうか知るためにも見なければ。
私の一日は、この二人によって回っているといっても過言ではない。隙のない二人。
今日も私は、二人の底なし沼へと沈んでいくのであった。
なんかグダグダになって気がするしコメントとかももっと反映させればよかったかなってのとVの要素を入れたほうがよかったなと。Vの要素が分からんけど。
書きたかったのは「片方が休んだらもう片方にリスナーを誘導する」です。今回は雫さんが休んでましたね。
休んだ理由は朝いつもの時間に起きて準備して紫音の家に迎えに行くからです。関西関東住みなのかな?わかんないけど。そんな約束をしていたのにもかかわらず、金〜土曜の夜も土〜日曜の夜も配信していた紫音は、体力オバケか配信狂いです。
乾燥待機なう。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。