第78話

#57/忘れちゃうかもしれない。
87
2025/10/17 11:00 更新
僕はまだまだできる事の少ない

この身体のまま

長かった病院生活が

ようやく一区切りを迎えた。


白い壁に囲まれた毎日から

外の光へ。


手元には

使い込まれたメモ帳と

短くなった鉛筆。


幾度もぐしゃぐしゃにして

それでも捨てられなかったページがある


そこには

震える字で刻まれた「ら」の文字。

僕はこの努力を残しておきたかった


記憶だけはまだまだだけど

みんなの名前を忘れることだけは

無くなった。


医師はそれだけで充分成長だと

言ってくれた。


家に帰り僕は着替えることにした

僕が着替えていると

僕はボタンにつまずいてしまった

ボタンを留めるだけなのに

指先が思うように動かず

僕は何度もつまんでは落とし、

つまんでは落とした。

どんどん焦り、震えも強くなっていた

その時、
宇佐美リト
レイー
そう言ってリトくんが

僕の部屋に入ってきた

そして僕の様子を見てリトくんは

少し目を見開いた気がした。
宇佐美リト
着替えてたんか!
成瀬來生
そ、そう!
あ、あと、すこし、な…の!
宇佐美リト
…ボタン留められないんか
そう事実を口に出されると

僕は何も言えなくなった
宇佐美リト
よし!んじゃ俺と一緒にやろう!
そういうとリトくんは

僕の後ろに立ち

僕の手を優しく包んだ


そして僕の手に触れながら

優しく優しくひとつずつ

ボタンを留めてくれた

そして最後の1個だけは

僕に1人でやらせてくれた

僕は上手に留めることができた
宇佐美リト
よし!できたな!
成瀬來生
ッご、ごめ、んね。
宇佐美リト
謝らなくていいんだよ!
できないことは悪くない
ゆっくりゆっくり、
俺らと進んでくって決めたろ?
成瀬來生
うん。
そして僕は服を畳もうとすると

もう畳んでくれていて

リトくんは僕の手を取り

リビングまで連れてってくれた


するとみんな集まっていて

みんなで僕の名前を呼ぶ

僕はこの温かな場所に

戻ってこれたことが

何よりも嬉しかった
小柳ロウ
レイ活動はどうするんだ?
成瀬來生
あッ、あし、あしたね
じむ、しょ行って
かつ、活動、ほう、しん
はな、話して、来る
星導ショウ
誰かと行くんですか?
成瀬來生
マ、マナくん、と
緋八マナ
そう!俺と行くんよね!
成瀬來生
うん
赤城ウェン
ファンの子も楽しみにしてるよ!
成瀬來生
こ、こんな、
ぼく、を?
伊波ライ
ファンの子も俺たちと一緒だよ
來生がレイであること
それだけでうれしいの
成瀬來生
そ、そっか
そしてゆっくり話してるうちに

夜になり僕らはご飯を食べることにした
MECHATU-A
いただきます
成瀬來生
いた、いただきます、
僕が箸を持つと

その指が思うように動かず

ただ白いご飯を口に運ぶだけなのに

腕が震え、米粒は落ちていってしまうし

箸も手から落ちてしまった。

僕はそんな自分が情けなくて
成瀬來生
ッ……。
声にもならず、思わず下を向いた。


その瞬間

隣に座っていたテツくんが

スッと手を伸ばし

僕の落とした箸を拾い上げてくれた。
佐伯イッテツ
はい。
……大丈夫
もう一回やってみよ
茶碗を持ち直そうとすると

指先に力が入らない。


落としそうになった瞬間

カゲツくんが茶碗の底をそっと支えてくれる。
叢雲カゲツ
ん!これなら
溢れんやろ!
成瀬來生
……ありがとう、
小さく呟く僕に

ロウくんがふっと笑った。
小柳ロウ
お前この様子リスナーに見せたら
絶対『かわいい』って言われるぞ
成瀬來生
…かわいくなんかない
悔しさと恥ずかしさで

つい声が震える。


でも、再び箸を動かし

ゆっくりご飯をつまむ。


震える指先の先で

たった一粒の米が箸に乗った。


そして

それを口に運んで噛みしめた瞬間

胸の奥がじんわり熱くなる。


マナくんが笑顔で言った。
緋八マナ
ちゃんと食べれたな!
ショウくんは頷いて
星導ショウ
大丈夫ですよ
レイはちゃんと前に
進んでます

涙がこぼれそうで、僕は慌てて下を向いた
成瀬來生
…あ、ありがと
ご飯の温かさが

いつもよりずっと深く心に沁みた。


ご飯を食べたあとみんなで

リビングで落ち着いていると

僕は静かなこの空間で声を発した
皐月レイ
…ッそばにいたいよ🎶
君のために出来ることが🎶
僕にあるかな🎶
そう僕は歌えた

するとみんながこっちを見つめていた

僕はニヘリと笑うと
緋八マナ
歌はレイくんの芯なんやね
伊波ライ
ッもう、聞けないと思ってた。
宇佐美リト
最初に歌う曲
ずるすぎだろッ。
小柳ロウ
レイの声はやっぱり
唯一無二だな
赤城ウェン
やばァ、久々に聞いたなぁ
叢雲カゲツ
レイの歌声ほんま好きやわ
星導ショウ
ファンの子もびっくりでしょうね
佐伯イッテツ
ずっと聞いてたい
あっそだレイくん
そういうとテツくんは

僕に耳打ちをして

僕は曲を調べて頭の中の

メロディーを遡り歌った

その曲は僕のオリジナル曲…

テツくんは自分でリクエストしたのに

泣いていて

みんながお前はなくなや!

などとツッコミをしていて

とても暖かかった。






次の日僕はマナくんと

事務所に向かっていた

まだ電車は厳しいので

タクシーを呼んで

僕らは事務所まで向かっていた


事務所につき

僕らはゆっくりと

入るとそこには見覚えのある先輩が

立っていた
???
ッレイくん?!
良かった!
活動再開するの!?
皐月レイ
あ、あ、えッ…
緋八マナ
明那さん
久しぶりです!
三枝明那
マナくん!
皐月レイ
あきッ、明那先輩、
三枝明那
レイくんやっほ!
僕はペコッと挨拶をして

マナくんの袖口を引いた
緋八マナ
ッ…!
あの、レイくん今日
事務所の人と
活動再開も視野に入れて
お話するんです!
三枝明那
あっ!そうなんだ!
皐月レイ
マ、マナくん、
あッあの、言って、
だい、じょうぶ…ッだよ、
三枝明那
ん?
緋八マナ
…あの、レイくんが急遽
休止してた理由なんですけど
三枝明那
うん
緋八マナ
脳梗塞になってしまって、
三枝明那
え、?
緋八マナ
それで、病院に行った時には
手術でしか治らんくなってて、
手術したんですけど、
後遺症が残ってしまって、
三枝明那
そう、だったんだ。
緋八マナ
脳梗塞の影響で
短期記憶の定着が難しい状態にあって。
新しく起きた出来事を
覚えておくことが困難で。
言葉を思い出す力にも障害が出ていて。
特に名詞が出てこない
言いたい言葉が見つからない
そういった症状で。
三枝明那
だから最初、
皐月レイ
また、わ、わす、れちゃうかも
しれないん、です
ご、ごめ、んなさい。
三枝明那
レイくん大丈夫だよ!
次から会う時
名札付けてこようかな!
皐月レイ
あ、あ、ありがたい、です。
三枝明那
それなら良かった!
俺も吃音だから
出したい言葉出てこない気持ち
少なからずわかるよ
よく頑張ってるね!
皐月レイ
あ、ありが、とございます。
三枝明那
んじゃ俺はそろそろ行くね!
緋八マナ
はい!ありがとうございます!
そして僕らはマネに連れられ

会社の人達と話すことになっていた


会社の人たちはみんな

名札を付けていた。

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