第78話

Episode70 調理実習(後編)
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2026/02/09 11:27 更新
オーブンの前で、颯斗がしゃがみ込むようにして中をのぞき込んでいた。
ガラス越しにうっすら色づき始めたグラタンを見て、体を小刻みに揺らしている。
東雲颯斗
東雲颯斗
まだかな、まだかな~。
待ちきれない様子でつぶやく。
颯真はタイマー表示を確認し、腕を組んだ。
家門颯真
家門颯真
気が早ぇよ。
家門颯真
家門颯真
あと十分くらいあるからな。
東雲颯斗
東雲颯斗
えー! もういい匂いしてるんだもん!
鼻をひくひくさせる。
東雲颯斗
東雲颯斗
こういうのは“もうすぐ”って言うんだよ!
家門颯真
家門颯真
言わねぇよ。
そこへ、冷蔵庫にゼリー液を入れ終えた響斗が戻ってくる。
二人の様子を見て、肩を揺らして笑った。
桝岡響斗
桝岡響斗
結局待たなきゃいけないんだから、座って待ってようぜ。
通りがけに、ぽん、と自然な手つきで颯斗の頭を撫でる。
東雲颯斗
東雲颯斗
じゃあ響斗の上に座って待つ!
間髪入れずに言った。
桝岡響斗
桝岡響斗
はいはい。
迷いゼロで椅子に腰を下ろす。

颯斗は当然の権利のように膝の上に乗った。
すっぽり収まり、背中を預ける。

体格差のせいで、抱え込まれているような形になる。
それでも響斗の視線は颯斗の頭越しに前を見下ろしていた。
家門颯真
家門颯真
……颯斗あやすの慣れすぎだろ、響斗。
桝岡響斗
桝岡響斗
もう日常だからなぁ。
手つきが本当に慣れている。
肩の位置を直し、落ちないよう軽く腕を添える動きまで自然だった。
東雲颯斗
東雲颯斗
こうしてるのが一番落ち着くからね!
桝岡響斗
桝岡響斗
それは俺が一番よくわかってるよ。
間髪入れず返す。
颯真はその様子を数秒見てから、小さく息を抜いた。
妙に納得した顔になる。
その空気を割るように声が上がった。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
コンソメスープ完成したぞー!
湯気の立つ鍋を掲げている。
八幡葵
八幡葵
こっちもコールスローできたよー!
ボウルを見せながら笑う。
墓守めめ
墓守めめ
じゃあ、お皿持ってきますね。
落ち着いた声だった。
颯真はすぐに顔を上げる。
家門颯真
家門颯真
墓守さん、俺も行くよ。一人じゃ全部はきついだろ。
めめは少し驚いたように瞬きをしてから、やわらかく微笑んだ。
墓守めめ
墓守めめ
ありがとうございます。
二人で配膳棚へ向かう。

通路は思ったより人の出入りが多い。
出来上がった料理を運ぶ生徒が行き交っていた。

その角を曲がった瞬間だった。

皿を取ろうとした男子が、不意に振り返る。
ちょうどその背後を、スープを運ぶ女子が通過しようとしていた。

距離がない。
家門颯真
家門颯真
(まずい。)
颯真の体が先に動いた。

めめの肩に手をかけ、後方へ引く。
同時に、自分が一歩前に出る。

布が触れるほどの近さで位置を入れ替えた。
次の瞬間、男子と女子が軽くぶつかる。
器が揺れ、スープがはねた。
女子
あっ。
床に広がったのは茶碗一杯分ほど。
湯気がふわりと上がる。
颯真はめめにかかっていないか視線で確認する。
家門颯真
家門颯真
墓守さん、火傷ないですか?
めめは目を丸くしたまま、数秒遅れて答えた。
墓守めめ
墓守めめ
は、はい……私は大丈夫です。
まだ状況が追いついていない様子だった。
颯真はすぐ視線を切り替える。
家門颯真
家門颯真
そっちは?
男子
俺も大丈夫……
女子
え、あ、うん……大丈夫。えっと、ごめんね。
男子
いや、俺がちゃんと周り見てなかったのが悪いっていうか……
言葉が絡まる。
空気が少し重くなりかけたところで、颯真が軽く言った。
家門颯真
家門颯真
まぁ、誰にもかからなかったからセーフだろ。
近くのバケツから雑巾を取り、男子に手渡す。
家門颯真
家門颯真
とりあえず拭き取ろうぜ。
男子
りょ、了解。
それから、めめへ視線を戻す。
家門颯真
家門颯真
ここ二人でやっとくから、墓守さんは先に皿運んどいて。
めめは少しだけ迷いを見せたあと、静かに頷いた。
墓守めめ
墓守めめ
......わかりました。
足早に棚へ向かう。
床を拭き終えた男子が、肩の力を抜いた。
男子
サンキューな、家門。おかげで助かったわ。
家門颯真
家門颯真
どういたしまして。
床の後始末を終え、颯真は手を洗ってから自分の班の調理台へ戻った。

作業台の上には、すでに料理が並び始めている。
グラタン、コールスロー、コンソメスープ。

ぶどうゼリーだけがまだ空席だった。
八幡葵
八幡葵
おかえりー。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
ヒーロー様のお戻りだ。
からかうような口調だった。

颯真は椅子の背に手をかけながら答える。
家門颯真
家門颯真
……無駄に疲れた。
軽く首を回す。
さっきの一瞬の判断が、思ったより神経を使っていた。

葵がにやっと笑う。
八幡葵
八幡葵
かっこよかったじゃん。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
珍しく大胆だったな。
家門颯真
家門颯真
めんどくせぇ......
即座に返すが、声にはいつもの切れ味が少し足りない。

周囲の班にも何人かがちらちら視線を向けているのに気づき、
颯真はわざとらしく肩をすくめた。

少しだけ声を大きくする。
家門颯真
家門颯真
あれは仕方ないだろ。墓守さんにかかったら大惨事だろ。
あくまで合理判断、という言い方だった。
その言葉に、めめが手を止めて顔を上げる。
一拍置いてから、静かに言った。
墓守めめ
墓守めめ
私としてはありがたかったです。
視線はまっすぐだった。
墓守めめ
墓守めめ
とても感謝しています。
小さく頭まで下げる。

予想外に真っ直ぐな礼に、颯真の動きが止まる。
家門颯真
家門颯真
……それならいいけど。
目をそらしながら答える。
指先で机の縁を軽く叩いた。

耳がわずかに赤い。

それを見て、葵の目がきらっと光る。
八幡葵
八幡葵
いや今の反応――
口角を上げて踏み込もうとした、その瞬間。
東雲颯斗
東雲颯斗
ぶどうゼリー持ってきたぜ!
勢いよく声が飛んできた。

全員の視線がそちらへ向く。

颯斗が得意げな顔でトレーを掲げ、
響斗が横で落ちないようにバランスを支えている。

透明なカップの中で、ぶどう色のゼリーがぷるんと揺れた。
八幡葵
八幡葵
ナイス!
柊鳴流翔
柊鳴流翔
いいタイミング。
東雲颯斗
東雲颯斗
冷え具合も完璧!
桝岡響斗
桝岡響斗
それは今から確認な。
温度差のある返事だった。
葵はぱっとスマホを取り出す。
八幡葵
八幡葵
食べる前にみんなで写真撮ろ!
柊鳴流翔
柊鳴流翔
出た、イベント係。
八幡葵
八幡葵
こういうのは残しとくもんでしょ!
テーブルの端にスマホを置き、角度を調整する。
料理と顔が全部入る位置を何度も微調整した。
八幡葵
八幡葵
はい、もっと寄って寄って。
自然と距離が縮まる。

めめは少し遠慮気味に立ち、
その横に颯真が並んだ。

肩がわずかに近い。
八幡葵
八幡葵
いくよー、はいチーズ!
シャッター音。
すぐに画面を確認した葵が、目を見開いた。
八幡葵
八幡葵
ちょっと待って!
柊鳴流翔
柊鳴流翔
ブレたか?
八幡葵
八幡葵
違う。これ見て。
画面をみんなに向ける。
八幡葵
八幡葵
レアだよ。颯真の笑顔が写ってる。
家門颯真
家門颯真
は?
自分でも意外そうな声だった。
確かに写真の中の颯真は、わずかに口元が緩んでいる。
東雲颯斗
東雲颯斗
ほんとだ!
柊鳴流翔
柊鳴流翔
保存案件。
桝岡響斗
桝岡響斗
颯真が笑ってるとこ何気に初かもしれん。
めめは画面をのぞき込み、ほっとしたように微笑んでいた。
どこか嬉しそうに。

その表情に気づき、颯真は視線を外す。
八幡葵
八幡葵
写真は後で送っとくね♪
家門颯真
家門颯真
……そんなことどうでもいいから、早く食べよう。
少し早口だった。

逃げに入っているのが丸分かりで、
流翔が肩を揺らして笑う。

全員が席につく。

手を合わせる動きがそろった。
全員
いただきます!
最初にスプーンを入れたのは流翔だった。

表面の焼き色を崩し、大きめにすくって口へ運ぶ。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
……うまっ!
目を少し見開く。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
普通に店レベルじゃね?
大げさではなく、本気のトーンだった。

葵も続いて一口食べる。
八幡葵
八幡葵
え、ホワイトソースめっちゃなめらか!
スプーンをもう一度入れて確かめる。
八幡葵
八幡葵
これ誰作ったのか聞かれたら自慢できるやつ!
めめの方を見る。
墓守めめ
墓守めめ
いえ、みなさんで作ったので私の力だけじゃありませんよ。
控えめに言いながらも、どこか嬉しそうだった。

颯真も一口食べる。
熱さに少しだけ眉を動かしつつ、味を確かめる。
家門颯真
家門颯真
……ちゃんとグラタンだな。
八幡葵
八幡葵
何その感想。
家門颯真
家門颯真
いや、俺が関わってこれは上出来......いや、奇跡って意味。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
自己評価が終わっていやがる......
響斗は味を確かめるように、ゆっくり咀嚼した。
桝岡響斗
桝岡響斗
バランスいいな。
スープも口に運ぶ。
桝岡響斗
桝岡響斗
塩気ちょうどいいし、飲みやすい。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
そこ俺担当だからなもっと褒めろ。
桝岡響斗
桝岡響斗
よくやった。
柊鳴流翔
柊鳴流翔
軽い.......
颯斗は一口食べた瞬間、顔を輝かせた。
東雲颯斗
東雲颯斗
うわ、これ好き!
声が一段大きい。
そしてすぐに二口目へ行く。
桝岡響斗
桝岡響斗
火傷するぞ。
東雲颯斗
東雲颯斗
もうした!
八幡葵
八幡葵
学習しなさいよ。
めめはコールスローもつまむ。
墓守めめ
墓守めめ
シャキシャキしてますね。
食感を確かめるようにゆっくり噛む。
墓守めめ
墓守めめ
味付けもやさしくて、とても食べやすいです。
葵が少し得意げに胸を張った。
八幡葵
八幡葵
でしょ!
最後にゼリー。

スプーンを入れると、きれいに形が崩れる。
東雲颯斗
東雲颯斗
成功してる!
桝岡響斗
桝岡響斗
固まり具合合格だな。
一口食べて、颯斗が満面の笑みになる。
東雲颯斗
東雲颯斗
冷たくて最高!
桝岡響斗
桝岡響斗
デザート担当の面目は保てたな。
颯真はゼリーを口に運び、少しだけ目を細めた。
家門颯真
家門颯真
締めにちょうどいい。
めめは小さく頷く。
墓守めめ
墓守めめ
最後まで美味しいですね。
六人分の「うまい」が自然に重なった。

笑い声と感想が行き交うまま――
調理実習は、大成功で幕を閉じた。
実際のやつ
↑これ急にグラタンのときの写真ある?って言われたとき何すんだろと思ってたけどここで使うんかい。
コールスローとコンソメスープが映ってないのは神鳴のカメラワークが悪いからです。
↑ざけんなや
写真すら撮れん
ドブカスが

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