オーブンの前で、颯斗がしゃがみ込むようにして中をのぞき込んでいた。
ガラス越しにうっすら色づき始めたグラタンを見て、体を小刻みに揺らしている。
待ちきれない様子でつぶやく。
颯真はタイマー表示を確認し、腕を組んだ。
鼻をひくひくさせる。
そこへ、冷蔵庫にゼリー液を入れ終えた響斗が戻ってくる。
二人の様子を見て、肩を揺らして笑った。
通りがけに、ぽん、と自然な手つきで颯斗の頭を撫でる。
間髪入れずに言った。
迷いゼロで椅子に腰を下ろす。
颯斗は当然の権利のように膝の上に乗った。
すっぽり収まり、背中を預ける。
体格差のせいで、抱え込まれているような形になる。
それでも響斗の視線は颯斗の頭越しに前を見下ろしていた。
手つきが本当に慣れている。
肩の位置を直し、落ちないよう軽く腕を添える動きまで自然だった。
間髪入れず返す。
颯真はその様子を数秒見てから、小さく息を抜いた。
妙に納得した顔になる。
その空気を割るように声が上がった。
湯気の立つ鍋を掲げている。
ボウルを見せながら笑う。
落ち着いた声だった。
颯真はすぐに顔を上げる。
めめは少し驚いたように瞬きをしてから、やわらかく微笑んだ。
二人で配膳棚へ向かう。
通路は思ったより人の出入りが多い。
出来上がった料理を運ぶ生徒が行き交っていた。
その角を曲がった瞬間だった。
皿を取ろうとした男子が、不意に振り返る。
ちょうどその背後を、スープを運ぶ女子が通過しようとしていた。
距離がない。
颯真の体が先に動いた。
めめの肩に手をかけ、後方へ引く。
同時に、自分が一歩前に出る。
布が触れるほどの近さで位置を入れ替えた。
次の瞬間、男子と女子が軽くぶつかる。
器が揺れ、スープがはねた。
床に広がったのは茶碗一杯分ほど。
湯気がふわりと上がる。
颯真はめめにかかっていないか視線で確認する。
めめは目を丸くしたまま、数秒遅れて答えた。
まだ状況が追いついていない様子だった。
颯真はすぐ視線を切り替える。
言葉が絡まる。
空気が少し重くなりかけたところで、颯真が軽く言った。
近くのバケツから雑巾を取り、男子に手渡す。
それから、めめへ視線を戻す。
めめは少しだけ迷いを見せたあと、静かに頷いた。
足早に棚へ向かう。
床を拭き終えた男子が、肩の力を抜いた。
床の後始末を終え、颯真は手を洗ってから自分の班の調理台へ戻った。
作業台の上には、すでに料理が並び始めている。
グラタン、コールスロー、コンソメスープ。
ぶどうゼリーだけがまだ空席だった。
からかうような口調だった。
颯真は椅子の背に手をかけながら答える。
軽く首を回す。
さっきの一瞬の判断が、思ったより神経を使っていた。
葵がにやっと笑う。
即座に返すが、声にはいつもの切れ味が少し足りない。
周囲の班にも何人かがちらちら視線を向けているのに気づき、
颯真はわざとらしく肩をすくめた。
少しだけ声を大きくする。
あくまで合理判断、という言い方だった。
その言葉に、めめが手を止めて顔を上げる。
一拍置いてから、静かに言った。
視線はまっすぐだった。
小さく頭まで下げる。
予想外に真っ直ぐな礼に、颯真の動きが止まる。
目をそらしながら答える。
指先で机の縁を軽く叩いた。
耳がわずかに赤い。
それを見て、葵の目がきらっと光る。
口角を上げて踏み込もうとした、その瞬間。
勢いよく声が飛んできた。
全員の視線がそちらへ向く。
颯斗が得意げな顔でトレーを掲げ、
響斗が横で落ちないようにバランスを支えている。
透明なカップの中で、ぶどう色のゼリーがぷるんと揺れた。
温度差のある返事だった。
葵はぱっとスマホを取り出す。
テーブルの端にスマホを置き、角度を調整する。
料理と顔が全部入る位置を何度も微調整した。
自然と距離が縮まる。
めめは少し遠慮気味に立ち、
その横に颯真が並んだ。
肩がわずかに近い。
シャッター音。
すぐに画面を確認した葵が、目を見開いた。
画面をみんなに向ける。
自分でも意外そうな声だった。
確かに写真の中の颯真は、わずかに口元が緩んでいる。
めめは画面をのぞき込み、ほっとしたように微笑んでいた。
どこか嬉しそうに。
その表情に気づき、颯真は視線を外す。
少し早口だった。
逃げに入っているのが丸分かりで、
流翔が肩を揺らして笑う。
全員が席につく。
手を合わせる動きがそろった。
最初にスプーンを入れたのは流翔だった。
表面の焼き色を崩し、大きめにすくって口へ運ぶ。
目を少し見開く。
大げさではなく、本気のトーンだった。
葵も続いて一口食べる。
スプーンをもう一度入れて確かめる。
めめの方を見る。
控えめに言いながらも、どこか嬉しそうだった。
颯真も一口食べる。
熱さに少しだけ眉を動かしつつ、味を確かめる。
響斗は味を確かめるように、ゆっくり咀嚼した。
スープも口に運ぶ。
颯斗は一口食べた瞬間、顔を輝かせた。
声が一段大きい。
そしてすぐに二口目へ行く。
めめはコールスローもつまむ。
食感を確かめるようにゆっくり噛む。
葵が少し得意げに胸を張った。
最後にゼリー。
スプーンを入れると、きれいに形が崩れる。
一口食べて、颯斗が満面の笑みになる。
颯真はゼリーを口に運び、少しだけ目を細めた。
めめは小さく頷く。
六人分の「うまい」が自然に重なった。
笑い声と感想が行き交うまま――
調理実習は、大成功で幕を閉じた。

実際のやつ
↑これ急にグラタンのときの写真ある?って言われたとき何すんだろと思ってたけどここで使うんかい。コールスローとコンソメスープが映ってないのは神鳴のカメラワークが悪いからです。
↑ざけんなや
写真すら撮れん
ドブカスが


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!