第84話

Episode76 守る理由
395
2026/02/22 14:27 更新
いつもより遠くまで足を伸ばしていた。

夕暮れは群青へと溶けはじめ、街灯が一つ、また一つと灯る。
一定のリズムで刻んでいた足音に、不意に別の足音が重なった。
桝岡響斗
桝岡響斗
……颯真?
背後から聞こえた声に、颯真は減速する。
振り返ると、ランニングウェア姿の響斗が立っていた。
色こそ違うが、同じような格好だった。
家門颯真
家門颯真
響斗?
桝岡響斗
桝岡響斗
やっぱり颯真か。びっくりした……
胸を押さえ、ほっと息をつく。
桝岡響斗
桝岡響斗
颯真もランニング?最近始めたの?
家門颯真
家門颯真
まあな。ちょっと前から。
今日は少し遠くまで走ろうと思って、こっちまで来た。
桝岡響斗
桝岡響斗
へぇ……
響斗はじっと颯真を見る。
観察するような目。
桝岡響斗
桝岡響斗
正直びっくりしてる。颯真ってあんま運動するイメージなかったからさ。
……もしかして、なんかあった?
核心を突く問い。
颯真は一瞬だけ視線を逸らした。

めめの姿が脳裏をよぎる。
けれどそれは、今ここで話すものではない。
家門颯真
家門颯真
……ちょっと変わろうと思ってな。頑張ってるだけだ。
響斗は数秒見つめたあと、小さく笑った。
桝岡響斗
桝岡響斗
ふーん。
家門颯真
家門颯真
そう言う響斗も、理由とかあるのか?
問い返すと、響斗の表情がわずかに変わった。

沈黙。

遠くで車の走る音がする。
夜風が、二人の間を静かに通り抜ける。
桝岡響斗
桝岡響斗
……まあ、颯真なら言ってもいいかな。
その声は、軽さを装っているが、奥は静かだった。
桝岡響斗
桝岡響斗
純粋に鍛えてるってのもあるけど。一番は――颯斗を守るためかな。
颯真の胸が、わずかにざわつく。
家門颯真
家門颯真
どういうことだ……?
桝岡響斗
桝岡響斗
颯斗はね、中学の頃……いじめにあってたんだよ。
空気が一段、重くなる。
颯真は息を飲んだ。
桝岡響斗
桝岡響斗
今でも男子にしたら髪は長いほうだけど、昔はあれ以上に長くてさ。
女の子みたいな見た目で、可愛いものが大好きだった。
響斗は遠くを見るように続ける。
桝岡響斗
桝岡響斗
小学校までは何もなかった。でも中学ではだめだった。
言葉は静かだが、指先はわずかに震えている。
桝岡響斗
桝岡響斗
男子からいじられたりしても、颯斗は気にしてなかった。
でも……それが気に食わなかったのか、どんどんエスカレートしていってさ。
桝岡響斗
桝岡響斗
落書きとか、物を隠されたりとか……水かけられたりとか……いろいろあった。
具体的に語らないのは、語りたくないからだろうか。
桝岡響斗
桝岡響斗
それで、颯斗は壊れちゃった......
短い一文。
けれど十分だった。
桝岡響斗
桝岡響斗
あのとき俺、何もしてやれなかったんだ。
颯斗は“響斗は悪くない”って言ってくれたけど……俺は自分が許せなかった。
拳が強く握られている。
桝岡響斗
桝岡響斗
だからさ。今度こそ守れるようにって思ってる。
その横顔は、迷いがなかった。

颯真は、何も言えなかった。
胸の奥に沈めてきた記憶が、かすかに揺れる。

笑われた声。
向けられた視線。
教室のざわめき。

何もなかったふりをして、平気な顔を覚えた日々。
――守る側ではなかった。

ただ、耐える側だった。

あの頃の自分は、誰にも守られていないと思っていた。
今なら違うのかもしれない。

けれど、あの時間は確かにあった。
颯真はその記憶に、そっと蓋をする。
家門颯真
家門颯真
……そうか。
それだけ言う。
喉の奥が少しだけ重い。

家門颯真
家門颯真
……ごめん。
桝岡響斗
桝岡響斗
別に颯真が謝ることじゃないよ。
響斗は穏やかに笑う。
桝岡響斗
桝岡響斗
いつか話すつもりだったし。
桝岡響斗
桝岡響斗
あ、でも颯斗には内緒でね。
家門颯真
家門颯真
ああ、わかった。
夜風が少し強く吹いた。
重たかった空気が、ほんの少し和らぐ。

そのあと二人は他愛のない話をした。

走る距離のこと。
筋トレのこと。

どうでもいい話題で、空気を元に戻す。
桝岡響斗
桝岡響斗
じゃあな、颯真。
家門颯真
家門颯真
ああ。
響斗は再び走り出す。

迷いのない背中。
守ると決めた人間の背中。
夕闇の中、その姿はひときわ大きく見えた。

颯真はその背をしばらく見つめたあと、静かに前を向く。
足を踏み出す。

守るために走る者と。

変わるために走る者。

夜の道に、二つの足音がそれぞれの方向へと消えていった。
いつに投稿してんねんって話ではある。




今回大分重要回。結構核心ついてるとこ多いと思うよ

プリ小説オーディオドラマ