いつもより遠くまで足を伸ばしていた。
夕暮れは群青へと溶けはじめ、街灯が一つ、また一つと灯る。
一定のリズムで刻んでいた足音に、不意に別の足音が重なった。
背後から聞こえた声に、颯真は減速する。
振り返ると、ランニングウェア姿の響斗が立っていた。
色こそ違うが、同じような格好だった。
胸を押さえ、ほっと息をつく。
響斗はじっと颯真を見る。
観察するような目。
核心を突く問い。
颯真は一瞬だけ視線を逸らした。
めめの姿が脳裏をよぎる。
けれどそれは、今ここで話すものではない。
響斗は数秒見つめたあと、小さく笑った。
問い返すと、響斗の表情がわずかに変わった。
沈黙。
遠くで車の走る音がする。
夜風が、二人の間を静かに通り抜ける。
その声は、軽さを装っているが、奥は静かだった。
颯真の胸が、わずかにざわつく。
空気が一段、重くなる。
颯真は息を飲んだ。
響斗は遠くを見るように続ける。
言葉は静かだが、指先はわずかに震えている。
具体的に語らないのは、語りたくないからだろうか。
短い一文。
けれど十分だった。
拳が強く握られている。
その横顔は、迷いがなかった。
颯真は、何も言えなかった。
胸の奥に沈めてきた記憶が、かすかに揺れる。
笑われた声。
向けられた視線。
教室のざわめき。
何もなかったふりをして、平気な顔を覚えた日々。
――守る側ではなかった。
ただ、耐える側だった。
あの頃の自分は、誰にも守られていないと思っていた。
今なら違うのかもしれない。
けれど、あの時間は確かにあった。
颯真はその記憶に、そっと蓋をする。
それだけ言う。
喉の奥が少しだけ重い。
響斗は穏やかに笑う。
夜風が少し強く吹いた。
重たかった空気が、ほんの少し和らぐ。
そのあと二人は他愛のない話をした。
走る距離のこと。
筋トレのこと。
どうでもいい話題で、空気を元に戻す。
響斗は再び走り出す。
迷いのない背中。
守ると決めた人間の背中。
夕闇の中、その姿はひときわ大きく見えた。
颯真はその背をしばらく見つめたあと、静かに前を向く。
足を踏み出す。
守るために走る者と。
変わるために走る者。
夜の道に、二つの足音がそれぞれの方向へと消えていった。
いつに投稿してんねんって話ではある。
今回大分重要回。結構核心ついてるとこ多いと思うよ













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!