第7話

6. ハメられた悪役、今日も平和です
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2026/05/18 11:49 更新
足を引っ掛けられたところを、トントンさんに助けられてから、その日を境に俺への嫌がらせがぐんと増えた。

別に俺は、怒っているわけでも憎んでいるわけでもないけど、一人にしてほしい。

最近は一人の時間が本当に少ない。
教室にいる間はゾムさん達の誰かが一人は居るし、外へ出たら、ここぞとばかりに色んな人がやってくるのだ。

いま覚えてる、最近あったことと言えば…




先々週は… ________


今は移動教室からの帰り道。
ゾムさんとは取っている授業が違うので、一人でAクラスへと帰っているところだ。


ん?廊下にめちゃくちゃ教科書がばら撒かれとる…。
可哀想に。…拾うか。


『って俺のやないかーい!』


ちょっとツッコんでみたりもした。


自分の大量の教科書を抱えて教室に帰ると、びっくりして目を見開いたゾムさんに

「ショッピくんの取った授業そんなに教科書使うん?」

なんて言われた。
その時は笑って誤魔化した。

『はは、そっすね。』





先週は… ____________




「すみませ〜ん。わざとじゃないんです!」
「殴らないでぇ〜泣 いやー!!」


何言っとんこの人。

俺はトイレ帰りで、この人とすれ違ったところ、わざとらしく水をかけられた。
いまは昼休みなので、周りにはたくさんの人がいる。

周りからは、あの子可哀想に、絶対嫌悪の象徴が悪いわ、殴るなんてサイテー! とか言う声が聞こえる。
俺を心配する声は一つもない。
てか、殴ってへんわ。

『別にいいっすよ。殴ったりせえへんし。』
『じゃ。』



あーどうしよ。替えの服なんてもってないんやけど。
このまま教室帰っても迷惑やんな…。



「ショッピくーん?」
「遅いなーとおもって見に来た!」

シャオロンさんだ。
わざわざ見に来てくれたみたい。
ありがたいが、少しタイミング悪いかも…。

「どしたん?! それ!!」

『あー…』

「イヤー!!!! もうしないから泣」
「謝ったじゃない!!!」


「どういうこと?」

『さあ?』

俺だってわからない。
水かけられただけだし。


「ショッピくん風邪引くよ?」
「俺今日、たまたま(ショッピに着せるためにいつも持ってきてる)オーバーオールと服の替え持ってるから貸すわ!!」


『いいんすか?!』
『助かります!ありがとうございます!!』

思ってもいなかった幸運に思わず笑顔になる。
ナイスシャオロンさん!!
今日たまたま持ってきとるとか運良すぎるやろ!
ほんまに助かるー!!


あのあと、シャオロンさんと一緒に同じ服でクラスに帰ると、ゾムさんに脱がされそうになった。
なんでも、

「シャオロンのはあかん!! 俺も今パーカー持っとるからこっち着て!!!」

だそうだ。

あの日は少し肌寒かったから、パーカーを借りて、シャオロンさんの服の上から着た。
それでゾムさんも満足してくれたようだった。

一緒に居たロボロさんとトントンさんも服の替えの大切さを学んだと言っていた。
俺も替えを持ってこようかな、と言うと何故か全員に止められた。

みんなは持ってくるって言っとったやん…。






一昨日は… _____________



あ!あそこに居るんロボロさんとトントンさんや。
教室以外で会うことないから珍しいな。

通りすがりの人に中庭来てって言われて来たんやけども、なかなか来んから彼らと話して待っていようかな。

遠くにいる2人に話しかけに近づこうとした時に、2人がこちらを向く。
俺に気づいたようで手を振ってくれている。
俺も手を振り返そうとしたところだった。


「キャー!!!」

とても大きな叫び声が聞こえたのだ。
それにしても、うるさすぎないか?
俺の真後ろから聞こえたような…。

そう思い振り返ると、そこには尻もちをついて、泥で汚れてしまった服を着た女性がいた。

大丈夫かな。せっかく綺麗な服なのに…。


『大丈夫ですか?』

そう声をかけて手を差し伸べる。
あ、ハンカチも渡そ。


「や、やめて!!」

『へ?』


周りがザワザワとしている。
ふと見てみると、先程の悲鳴を聞きつけた人々が中庭に集まって来ているようだった。



「ショッピくんどした?」

「なにがあったんや。」


悲鳴が聞こえ、人が集まってきたことを不思議に思ったのかトントンさんとロボロさんがこちらにやって来ていた。


『振り向いたら…』

「っ私!! この方に押されたんです…泣」
「このお洋服、お父様にもらった大切なものなのに。」


俺の話を遮って泣いている。
いやいや、押してへんよ?
俺にあたってすらなかったやん…。

まただ。周りがうるさい。
もう帰っていいかな。




「嘘つくな。お前自分でコケたやろ。」

「せや。俺ら見とったで?」


トントンさんとロボロさんだ。見ててくれとったんや。
あ、確かに悲鳴聞こえたん手振ってた時やったな。



「でも、私、押されて…!」


「そうですよ!トントン様、ロボロ様!!」

「嫌悪の象徴が押したに決まってる!」

「嫌悪の象徴に騙されてはなりません!!」



「俺らが間違ってるって言いたいんか?」

トントンさんの圧がすごい…。

「い、いえ…。でもっ!!」


「こいつがコケた時、俺らはショッピくんと向かい合って、手振ってたんや。」
「これでも、ショッピくんが押したっていえる?」

「…クッ……いえません…。」


ロボロさんが説明してくれる。
俺が説明しても聞く耳すら持たないだろうな…。

…もしかしなくても、二人が居なかったら俺、即断罪されてたのでは…?
そう考えるだけで身震いがする。

「ショッピくん、大丈夫やで。怖くないよ。」

「俺らが守るからな。」

二人がそういって安心させてくれる。
怖いわけではないんやけど…。いや、断罪は怖いか。
いまのところ、彼らのおかげで俺の首は無事らしい。

『…ありがとうございます。』


『あ、ハンカチどうぞ。』
『泥、落ちるかな…。大事な服なんでしょ?』
『ほら、立って?』

そういって俺は白い服の彼女に手を差し伸べる。

お父さんにもらった大事なもんって言ってたよな…。
泥汚れ落とされへんくて俺のせいにされても困るし。
泥ってどうやって落とすんやろか…。


『…あの?』

彼女は固まっていて俺の手を取らない。
手が疲れてきたんだけども。
いつの間にか周りの非難する声は止まっていて、とても静かだ。
隣のトントンさんとロボロさんはというと、何故か半ば諦めたような、やれやれとでも言うような表情をしていた。

「ショッピくんってそーゆーとこあるよなぁ…。」

「わかるわぁ。」



彼らがなにを言っているのかわからない。
そーゆーとこって、どーゆーとこ?

『どーゆーとこっすか?』


「いや、ショッピくんは知らんでもいいこと。」

「それに、言っても分からなそうやしなぁ…。」


いや説明してくれてもいいやん。
わかるかもしれんし!

そんな話をしている間に白い服の女性は、俺の手もハンカチも取ることなく一人で帰って行ってしまっていた。




昨日は… ________________





今日は曇天で、今にも雨が振りそうだ。
黒い雲で覆われているから窓から入ってくる光はほとんどない。

この廊下、今日は暗いだけでなく人気もないから怖いんよな…。
はやく渡りきってしまおう。



「ばあ!!!」

『あびゃー!!!!!』


『ぞ、ゾムさん !! やめてください!!!』
『心臓止まったかと思った…』


「wwwショッピくんおもろいなぁ!!」



____________________


おっと、これは嫌がらせではなく、ゾムさんのイタズラだった。

まあ、こんな風にいつも何かしらされているのだ。
今日はずっと教室にいたのでまだなにもされてない。

今は中庭を散歩しているところ。
なんかゾムさんたちは皆、用事があるらしく、誰も教室にいないのだ。
彼らが出ていく前に何回も外には気をつけろと言われたが、こんなにいい天気なのに外に出ないのは勿体ないだろう。
少しだけ。すこーしだけ散歩してすぐ帰る予定。



あ、シャオロンさんや。
なにしてるんやろ?

…ってか、外に居るのがバレたら怒られるのでは?

もう帰ろ。

そう思った時だった。
ちょうどシャオロンさんの歩いている上にある窓から人が乗り出してきたのだ。
そして、俺の方をみて、ニヤリと笑った。

え…なに。気味悪。
こっちみんな!!


あいつ…なんか上から落として…ってあれ、花瓶やない?!
あたったらシャオロンさんが大怪我してしまう!

『シャオさん!危ない!!』
『あ…』

あ、躓いた…やってもうたぁ~!!!!!
なんで俺ってやつは大事なとこでコケるんや!

ていうか、シャオロンさん普通に避けとるやん…。
そういえば運動神経よかったなこの人も。


「ショ、ショッピくん?!?!」
「ちょ、あぶっ!」

さすがのシャオロンさんでも、猛スピードで飛び込んでくる俺を受け止めることは難しいと思う。

『よけて!!』

そう呼びかけても彼は避けない。
彼は優しい人だ。きっと俺が地面と衝突しないように受け止めようとしてくれているのだ。

俺に向かって手を広げて待ってくれる。仕方ない。彼に飛び込むほかないだろう。
ごめんなさい!シャオロンさん!



「いてっ」

バリーンという花瓶が割れる音と共に、俺が彼にぶつかり、彼は尻もちをつく。



『ほ、ほんまにごめんなさい!!!』

「ええよええよ。俺を助けようとしてくれたんやろ?」

『いや、でも絶対おれいらんかった…。』

「んーん。俺のために動いてくれたん、めっちゃ
嬉しかったで!!」

『なら…よかったです。』

うまくはいかなかったけれど、社畜人生で褒められたことなんてなかったから、助けが嬉しいと言ってくれて、俺もとても嬉しい。




「……ちょ、ちょっと降りてくれへん…?」

…降りる?


『あ!すみません!! 重かったですよね…。』

ぶつかったときにシャオロンさんの足の上に乗ってしまっていたらしい。

ぶつかっておいて彼の足に座ってるなんて、図々しいにも程があるだろう。
本当に申し訳ない…。


「いや!ちがくて…。重かったんじゃないんよ。」

『え?』

シャオロンさんの上からおりようと体を捻ってみたところでそう言われて、動きが止まってしまう。
重くないなんてことある?
同い年の人間が一人乗ってるんやで?


「…近い。」

ちかい…。
え。ほんまや。

『あびゃー!!』


近いなんてもんじゃない。
さっきは命の危険を感じていたからか、なにも思わなかったが、今言われてみて気がつく。

鼻と鼻がくっつきそうなくらい近くて、なんなら俺がシャオロンさんに抱きついてしまっていた。

普段彼とは頭一つ分くらいの身長差があるが、今は彼の足の上なのでちょうど同じくらいの位置に頭がある。


慌てて彼の上から降りようとするが、うまくいかない。
この体制からたち上がるのむずくない?
どうやったらいいん…?
もしかしてこれも運動神経の問題とか言わんよな…。


『……シャオロンさん、すみません。』
『立ち上がれません。』

「…………っ、」

シャオロンさんが固まる。
え、なに? 俺そんなにおかしいこと言った?

「……かわい……」

『はい?』

「いやなんでもない!!」

なんでもなくないやろ今。
なんか喋ってたやん。ハワイみたいな……ハワイ?
俺が首を傾げていると、 遠くから聞き覚えのある声がした。

「おーいシャオローン!さっきなんか割れ——」

声の主、ロボロはそこで止まる。

「……何しとん?」

やばい。
助けようとして、突進して、失敗した挙句、立てないなんて恥ずかしすぎて言えん…。

「言われへんようなことしよったん?」

『ちゃうんすよ!……恥ずかしくて…。』

「ちょっ、ショッピくん ?!?!」



「…シャオロン?説明してもらおか。」

「ちゃうって!誤解やって !!」

「一旦ショッピくんから離れろ!!」



俺がホントのことを言うべきか本気で悩んでいた間に話が進んでいたらしく、何故かシャオロンさんが引っ張られている。


『ちょっ!!』

まだ俺はシャオロンさんの足の上にいたので、彼自身が揺らされ、俺も体勢を崩す。


『わっ!』

「ショッピくん!?」

バランスを崩した俺を、 シャオロンさんが慌てて抱き止めてくれる。
結果、また抱きつく形になった。

『……………………。』
「「……………………。」」

空気が終わった。

『……あの。』

「シャオロン。」

「違う!!!ほんまに違うんやって!!!」


俺を受け止めてくれただけのはずのシャオロンさんが何故か責められている。
彼はなにも悪くないんやけど。

やっぱりほんまのこというべきやな…。


『あの…ロボロさん。』

「ん?どしたん?」

『シャオロンさんは悪くなくて。』
『えっと……俺が転んで……』

「うん。」

『シャオロンさんに受け止めてもらって。』

「うん。」

『立てなくて……』

「…うん?」

『今も立てません。』

「なんで???」

「いや俺に聞かれても……。」

シャオロンさんが困ったように笑う。
その顔が近くて、 なんだか余計に焦る。

『む、無理なんですって!』

「ちょ!暴れんといて!近い!!!」


「…何を見せられとるんや俺は。」
「ほら、ショッピくん。」

いつまで経っても立ち上がることの出来ない俺にロボロさんが手を貸してくれる。


『!! ありがとうございます!』 

その手を掴んで立ち上がろうとした瞬間。

『あっ』

「え。」

バランスを崩した俺は、 今度はロボロさんの方へ倒れ込んだ。

『…………。』
「…………。」


『…今日なんか重力強くないですか?』

「それはな…多分ショッピくんの運動神経の問題や。」

『そんなぁ…。』

やっぱりそうなのか。
自分で認めたく無かったが、周りに言われてしまったら仕方がない。

落ち込みつつも、シャオロンさんとロボロさんに支えられながら、なんとか立ち上がる。


『……ふぅ。』

「いや近い近い!」

『へ?』

気づけば、 また顔が近かった。

『なんで?!』

「こっちが聞きたいわ…。」


ようやくまともに立てた俺は、 二人から少し距離を取る。
……よし。 もう大丈夫やな!
そう安心して一歩踏み出した瞬間。

『あっ。』

「「え!?」」

また躓いた。

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