第15話

想い
576
2025/07/13 14:58 更新
丈一郎を無事に自宅まで送り、初めて大吾と恭平に紹介した夜。

任務を終え、少し肌寒いビルの屋上で、ふたりきりになった和也と大吾。

缶コーヒーを手にした大吾が、夜景の向こうを見つめながら口を開く。
大吾
大吾
……アイツ、ほんまに“狙われる理由”わかってへん顔しとったな
和也
和也
せやな
和也も隣に立ち、缶を開ける。
和也
和也
けどな、大吾。あいつ、案外強い
大吾
大吾
…めっちゃ惚れとるやん
少し笑いを含んだ声。
けれど、視線はまだ夜景のまま。
その軽口の奥にある、“本気の確認”に和也は気づいていた。
和也
和也
任務中なんに…良くないよな…
大吾
大吾
……あの顔と声で、あの不器用さやろ?
あんた、昔からそーいう奴に弱かったもんな
大吾の言葉に、和也は小さく笑う。
和也
和也
……見透かされすぎててムカつくわ
大吾
大吾
そりゃ、何年の付き合いや思てんねん
少し誇らしげに笑う大吾。
大吾
大吾
けどな、はっすん。
和也
和也
ん?
大吾
大吾
俺は任務の“失敗”より、
あんたが“心”まで持ってかれる方が怖い
大吾の視線がようやく和也に向いた。
大吾
大吾
はっすんが“自分”を見失わへんこと。それが俺の願いや
和也は黙って、大吾の目を見る。
その中には、任務以上の“友情と信頼”があった。
和也
和也
ありがとな、大ちゃん。
……俺、ちゃんと見極めるわ。あいつを、そして……自分を
大吾
大吾
ま、もし間違えそうなときは
大吾は軽く缶コーヒーを和也の肩にぶつける。
大吾
大吾
俺がぶっ飛ばしても戻したる
和也
和也
……怖。味方で良かったわ
ふたりの笑い声が、ビルの夜風に混ざって静かに響いた。

任務報告を終えて少し遅れて屋上に向かった恭平。
いつもならふたりがどこにいようと気にせず顔を出すのに、今日はなんとなく、足が止まった。

聞こえてきたのは、和也と大吾の声。

それは思った以上に、近くて、深くて、…優しかった。
大吾
大吾
「俺は任務の“失敗”より、
あんたが“心”まで持ってかれる方が怖い」
恭平は思わず足音を潜めて、その場に立ち尽くした。
“心を持ってかれる”──
それは今の和也にとって、丈一郎のことを指しているのだろうと察してしまったから。
和也
和也
「ありがとな、大ちゃん。
……俺、ちゃんと見極めるわ。あいつを、そして……自分を」
心の奥が、じくりと痛んだ。
恭平
恭平
(……大橋くん。
やっぱ、丈一郎のこと……本気なんや…)
わかってた。
任務のフリして、いつかこうなる気がしてた。

でも──
それでも和也に憧れて、追いかけて、隣にいられるように努力して。
「スパイ」としての誇りだけじゃない。
そこには、男としての気持ちが確かにあった。
恭平
恭平
(俺には……“大橋くんの心”はもらえへんのやろか)
ギリ、と唇を噛んだとき。
屋上の風が吹いて、ふたりの笑い声が耳に届く。
大吾
大吾
「俺がぶっ飛ばしても戻したる」
和也
和也
「……怖。味方で良かったわ」
和也と丈一郎、和也と大吾…そこの絆に、入り込む隙間なんて、最初から無かったのかもしれない。

けど──
恭平
恭平
(それでも俺は、大橋くんの“隣”にいたい)
屋上のドアの陰に身を寄せながら、恭平はそっと目を伏せた。
その胸にある気持ちを抱えたまま、誰にも見つからないように屋上を後にする。
ビルの屋上から静かに離れた恭平は、ひとり非常階段の踊り場に腰掛けていた。
手すりにもたれ、深くフードをかぶって──目を閉じて、ただ夜風に当たっている。

「……なぁ、恭平」

不意に聞こえた声に、ビクリと肩が揺れた。

振り返ると、そこにいたのは──大吾。
恭平
恭平
……なんや、大吾くん。びっくりさせんといてや
大吾
大吾
びっくりしてええのはこっちや。
あんなとこでこっそり立ち聞きして……あんた、顔めっちゃ寂しそうやったで
大吾はため息まじりに微笑んで、恭平の隣に腰を下ろす。

恭平は何も言わず、手すりに視線を向けたまま。
大吾
大吾
……聞こえてたんやろ、和也の言葉
恭平
恭平
……うん。聞くつもりなかった。けど、聞こえてもうて。
あんな優しい顔、俺には見せたことないのに──って思ってもうてさ
かすれるような声。
そこに、少しだけ自分自身への悔しさが滲んでいた。

大吾はふっと笑い、缶コーヒーをポケットから取り出して、トン、と恭平に渡した
大吾
大吾
……まぁ、あんたも頑張っとるの、俺は知ってる。
けどな、和也は“任務”に入り込むと、自分でもわからんくらい感情置いてくんねん
恭平
恭平
……じゃあ、あれも、任務やから?
大吾
大吾
それは……あいつにしかわからん
大吾の言葉は冷静だったけど、同時に優しさがあった。
大吾
大吾
でもな、恭平。
あんたが“和也のこと好き”やって気づいてへんフリしてたけど─
恭平はびくりと目を見開く。
大吾
大吾
ちゃんと見てるで。
悔しいなら、傷つくくらいぶつかってええんや。
……ただな、見失ったらあかん。
恭平自身を…
恭平の目にじんわりと滲むものがあって、フードの影に隠すように俯いた。
恭平
恭平
……なんか、ずるいよな。
俺、ちゃんと気持ち伝えたこともないのに、こんな気持ちだけ暴れてさ
大吾
大吾
ええやん。恋って、そういうもんや
大吾の手が、ぽんと恭平の肩を叩く。
大吾
大吾
……あんたは強いで。そして優しい。
それだけは忘れるな
その言葉が、どれだけ救いだったか──
その夜、恭平はずっと胸の奥で大吾の言葉を噛み締めていた。

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