第14話

浪花探偵事務所
602
2025/07/09 16:00 更新
丈一郎は、初めて足を踏み入れた場所に目を見張っていた。
表の【浪花探偵事務所】と雑に手書きで小さく書いてあるネームボードとは明らかに違う雰囲気のそこは“マネージャーの拠点”なんかじゃない異質な空気だった。

「ようやくお出ましか。噂の俳優くん」

丈一郎が振り返ると、
長身でどこか軽やかな雰囲気の男が、脚を組んでモニター前の椅子に座っていた。
和也
和也
紹介するわ。俺の弟分、高橋恭平
恭平
恭平
……高橋です。ども
丈一郎に向けて軽く手を上げる恭平の目は、にこやかなようでいて、どこか探るような色を含んでいた。

そしてもうひとり、部屋の隅で資料をめくっていた男がゆっくりと顔を上げる。
大吾
大吾
…丈一郎くん。やんな。”初めまして”
その低く落ち着いた声に、丈一郎の背筋が自然と伸びる。
大吾
大吾
西畑大吾。和也とは長い付き合いや。……今日は俺たちのこと、知ってもらお思て連れてこられたんやろ?
丈一郎
丈一郎
……丈一郎です。この間はありがとうございました!
ご挨拶、遅れました…
自然と丁寧になる丈一郎の態度。
だが大吾は、笑うでもなく、ただじっと丈一郎を見つめ――
大吾
大吾
和也にとって、大事な存在らしいな
丈一郎
丈一郎
…!
大吾
大吾
俺は、お前のことまだ信用してへん。
けど、和也が……
せやから、知っておきたかった
大吾の目は鋭い。だが、それは敵意ではない。
――ただ和也を守りたいという“仲間”としての本能。

丈一郎は、目を逸らさずに応える。
丈一郎
丈一郎
正直、訳も分からんまま巻き込まれて……でも、和也に命を救われた。俺も、和也を信じてる。それだけは……本音です
和也
和也
丈くん...//
その瞬間、大吾の目が少しだけ柔らいだ。
大吾
大吾
…なら、ええわ
恭平
恭平
丈一郎さん
恭平が、立ち上がり丈一郎に近づく。
恭平
恭平
……俺。ちょっと嫉妬してます
丈一郎
丈一郎
えっ?
恭平
恭平
ずっと和也くんの背中、追いかけてきたんで。でもあんたがその隣におるの、なんか…悔しいっす
丈一郎が言葉に詰まると、恭平はふっと笑って肩をすくめた。
恭平
恭平
でも、信じてみます。和也くんが認めた人なら
丈一郎は静かにうなずいた。

――こうして、和也の仲間たちと、丈一郎の世界がつながった。
和也
和也
このふたりが裏で俺と丈くんを支えてくれた大切な仲間や
和也はどこか誇らしげにふたりを見る
それに頷くふたり。互いを信頼している感じが丈一郎にも伝わった。
和也
和也
大吾はこう見えて変装も上手いし、頭脳明晰?…とにかく頭がキレる!
あ、女装もするんやで笑…めっちゃべっぴんさん!
大吾
大吾
その紹介、ヤダわぁ…
それだと俺が”女装男子”みたいやん!趣味とちゃうからな?!
和也
和也
ごめんごめん!…んで!恭平はこう見えてめっちゃ凄いハッカーやねん、な?!
恭平
恭平
…雑やなぁ笑
ま、和也くんを支えるのが俺の役目っすから
”うんうん”と頷きながらにこにこ顔の和也。
ひとりで生きてきた丈一郎は3人のやり取りを微笑ましくも羨ましく思えた。
丈一郎
丈一郎
……なんか、ええなぁ…
思わず漏れた丈一郎の本音に3人が柔らかく目を細める
和也が大吾に呼ばれて席を外したあと、
部屋には丈一郎と恭平、ふたりきりの空気が残された。
恭平
恭平
……でも、あんたみたいに“真正面から和也くんに向かってく人”って、正直、ずるいっす
丈一郎は一瞬だけ戸惑ったが、目を伏せたまま静かに言う。
丈一郎
丈一郎
俺もな……最初は“任務のために近づいた”んやと思ってたんよ。
けど気づいたら、和也を探してる自分がおった
恭平
恭平
……
丈一郎
丈一郎
強くて、優しくて、でも心の中にはずっと何か背負ってる顔してて。
それを黙って支えてるのが、あんたらなんやなって今日、分かった
丈一郎の声には、僅かに感情が滲んでいた。

すると恭平が、缶コーヒーを一口すすって、ぼそりと。
恭平
恭平
……それでも俺、負けたくないって思ってますよ
丈一郎
丈一郎
……
恭平
恭平
和也くんは、あんたを選ぶかもしれへん。
でも、俺はまだ諦めへん
丈一郎がゆっくりと視線を上げると、
恭平の目はまっすぐ自分を見つめていた。

それは、和也を憧れじゃなく、“ひとりの人”として想ってる瞳。
丈一郎
丈一郎
…和也に…その想い。…伝えないんか?…
恭平
恭平
……正直、むっちゃ悔しい。
でも俺も、ちゃんと和也くんの“隣”を目指したいんです。
俺が出来ることは全部して上げたい。
俺、和也くんも大吾くんも大事なんすわ…
丈一郎は、言葉が出なかった。

こんなにも素直で、痛いほど真っすぐな感情を向けられるのは初めてで──
でも、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ――胸のどこかが、温かくなった。

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