丈一郎は、初めて足を踏み入れた場所に目を見張っていた。
表の【浪花探偵事務所】と雑に手書きで小さく書いてあるネームボードとは明らかに違う雰囲気のそこは“マネージャーの拠点”なんかじゃない異質な空気だった。
「ようやくお出ましか。噂の俳優くん」
丈一郎が振り返ると、
長身でどこか軽やかな雰囲気の男が、脚を組んでモニター前の椅子に座っていた。
丈一郎に向けて軽く手を上げる恭平の目は、にこやかなようでいて、どこか探るような色を含んでいた。
そしてもうひとり、部屋の隅で資料をめくっていた男がゆっくりと顔を上げる。
その低く落ち着いた声に、丈一郎の背筋が自然と伸びる。
自然と丁寧になる丈一郎の態度。
だが大吾は、笑うでもなく、ただじっと丈一郎を見つめ――
大吾の目は鋭い。だが、それは敵意ではない。
――ただ和也を守りたいという“仲間”としての本能。
丈一郎は、目を逸らさずに応える。
その瞬間、大吾の目が少しだけ柔らいだ。
恭平が、立ち上がり丈一郎に近づく。
丈一郎が言葉に詰まると、恭平はふっと笑って肩をすくめた。
丈一郎は静かにうなずいた。
――こうして、和也の仲間たちと、丈一郎の世界がつながった。
和也はどこか誇らしげにふたりを見る
それに頷くふたり。互いを信頼している感じが丈一郎にも伝わった。
”うんうん”と頷きながらにこにこ顔の和也。
ひとりで生きてきた丈一郎は3人のやり取りを微笑ましくも羨ましく思えた。
思わず漏れた丈一郎の本音に3人が柔らかく目を細める
和也が大吾に呼ばれて席を外したあと、
部屋には丈一郎と恭平、ふたりきりの空気が残された。
丈一郎は一瞬だけ戸惑ったが、目を伏せたまま静かに言う。
丈一郎の声には、僅かに感情が滲んでいた。
すると恭平が、缶コーヒーを一口すすって、ぼそりと。
丈一郎がゆっくりと視線を上げると、
恭平の目はまっすぐ自分を見つめていた。
それは、和也を憧れじゃなく、“ひとりの人”として想ってる瞳。
丈一郎は、言葉が出なかった。
こんなにも素直で、痛いほど真っすぐな感情を向けられるのは初めてで──
でも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ――胸のどこかが、温かくなった。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。