第6話

第4話「受け取った光」
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2026/02/28 10:00 更新
第4話  「受け取った光」

止まらなかった日から、空気が少しだけ変わった。

劇的ではない。
涙が消えたわけでもない。
舜太を思い出さない日は、当然のように一日もない。

それでも——
柔太朗の中で、何かが静かに繋がった。

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スタジオの鏡に映る、4人。

5人で立っていたはずのフォーメーション。
ひとつ分の空間は、今もそこにある。

埋めない。
無理に消さない。

でも、その空間を“穴”のままにはしない。

「ここ、もう一回確認しよう」

柔太朗が自分から言った。

その一言に、空気が揺れた。

誰も驚いた顔はしない。
けれど、全員が分かっている。

変わった。

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――あぁ。舜太のパートだ。

問題は、やはりそこだった。

マイクを持つ。
イントロが流れる。

舜太の歌い出し。

これまでは、喉が締まった。
名前を呼ぶようなメロディに、心が引き戻された。

でも今は違う。

勇斗の言葉が、残っている。

“奪うんじゃない。繋ぐんだ”

柔太朗は、ほんの一瞬だけ目を閉じた。

心の中で、舜太を見る。

いつもの笑顔。
太陽みたいな声。

——任せるよ。

そんな気がした。

息を吸う。

歌う。

震えは、ある。
でも、逃げない。

音は、まっすぐ前へ飛んだ。

歌い終わった瞬間、静寂が落ちる。

誰もすぐに何も言わない。

そして。

「……いいじゃん」

小さく、でも確かに届く声。

空気が、ほんの少しだけ軽くなる。

柔太朗は分かっていた。

これは“上手く歌えた”からじゃない。

覚悟が、乗ったからだ。

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舜太が居なくなってから半年が経った頃。

練習の合間にスタッフ達がやってくる。

「M!LKアリーナツアー決定」

大きな会場の名前が並ぶ。

アリーナ。

約半年後からスタートする。

舜太がいなくなってから、初めての規模。

拍手は起きた。
でも、その裏にある不安を、4人とも分かっていた。

——本当に立てるのか。

——5人じゃないのに。

夜遅くまで続くリハーサル。

ダンスは容赦なく体力を奪う。
フォーメーションの変更は何度もやり直す。

汗で床が滑る。

それでも止まらない。

止まれない。

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休憩中、柔太朗はひとりでステージ図面を見ていた。

大きすぎる。

広すぎる。

ここを、4人で埋める。

怖さが、ゼロになったわけではない。

でも。

「なあ」

背後から声。

「絶対いけるよな」

強がりでもなく、
無理なポジティブでもなく。

ただ、前を向いた声。

柔太朗は頷く。

「いける。
 …いや、いく」

“できるか”じゃない。

“やる”と決める。

それが、バトンを受け取るということだった。

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ある日、通しリハーサル。

最後の曲。

照明が当たる。

舜太の立ち位置。

柔太朗はそこに立った。

初めて、迷いがなかった。

歌いながら、ふと感じる。

背中が、軽い。

支えられている感覚。

振り返らなくても分かる。

3人がいる。

もう、ひとりで背負っていない。

そして。

心の奥に、もうひとつの存在。

消えていない。

無理に忘れていない。

ただ、形が変わっただけ。

―――――――――――――――――――――――――

曲が終わる。

静かな余韻。

誰かが小さく拍手をした。

それが広がる。

スタッフも、メンバーも。

柔太朗は、深く息を吐いた。

涙は出なかった。

代わりに、胸の奥に熱があった。

これは悲しみじゃない。

覚悟だ。

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夜。

帰り際のスタジオ。

柔太朗は、誰もいないステージ中央に立った。

照明は落ちている。

暗闇の中で、目を閉じる。

「……受け取ったよ」

小さく、呟く。

誰に聞かせるでもなく。

心の中の舜太に。

寂しさは、消えない。

会いたい気持ちも、なくならない。

でも。

もう“止まる理由”にはしない。

舜太の想いは、重荷じゃない。

光だ。

それを持って、前に立つ。

それが、自分の役目。

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数週間後。

アリーナ初日のセットリストが確定する。

4人は円陣を組む。

手を重ねる。

ひとつ足りない。

でも。

足りないまま、前へ行く。

「いこう」

柔太朗の声は、もう揺れていなかった。

舜太はいない。

それは変わらない。

でも、想いは確かにここにある。

心は、結ばれた。

バトンは、受け取られた。

次は——
その光を、何万人の前で証明する番だ。

――第4話・終

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