第11話

9話|髪紐と準備の段
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2025/05/18 13:39 更新
 
※捏造のオンパレードです。次回、園田村編終了。近いうちに軍師です
 
潮江先輩に起こされた後、瞼を擦る。眠気覚ましといわんばかりの冷たい空気と外で、既に集合している先輩達の声が四方八方から耳を通して飛び込んできた。
土井半助「きり丸、起きていたのか。早速だが兵助の所が人手不足なんだ。頼めるか?」
きり丸「分かりましたよ」
主に学園から運ばれてきたという火薬等といった火器の確認と配置の指示をしている土井先生に促され、俺は俺で銭の為に一日中、園田村を駆け回る。
きり丸「銭〜!銭銭ッ〜!!!!」
山田伝蔵「全く…そのやる気を授業でも発揮してくれんかね」
目を銭の形に変えながら、とにかく俺は無我夢中に動いた。逆茂木作りや村を囲む柵作りの木材搬入、設置も全部終わらせた時には山田先生に驚かれ、土井先生はあまりの速さに唖然とし、腰を抜かした。
きり丸「銭ある所に俺っスから!!」
思い出を忘れる為に、いつか来るかもしれない銭の使い道の為に駆け回っていたから、俺は気付かなかった。
いや、気付けなかった。中在家先輩に言われるまでは
中在家長次「珍しいなきり丸が…髪を下ろしているのは」
きり丸「何を言ってるんですか〜、中在家先輩。俺は結んでいるでしょう?」
冗談を言うはずのない先輩からの言葉に笑いながらも、俺の視線は下の方、肩に動いていた。そして気付く。
きり丸「……っ、は?」
いつの間にか、解けていたらしい俺の髪は柔らかな風が吹き抜けていて、口から引き攣るような息が出た。
きり丸(なんで?いつから、?どこで……)
紙紐が無くなっている。あれは、お姉さんが俺にプレゼントしてくれた唯一の髪紐宝物なのに
きり丸「な、中在家先輩…俺の髪紐って見てないっすか?」
中在家長次「…もそ、見てはいないが……戦の準備と同時並行で探しておこう」
きり丸「いやー、もういいっすよ!……古くなってきて変えなきゃなと考えてた、所…だったんで」
__ああ、どうして神様は、俺の大切な物拠り所をこうも綺麗に潰して、目の前から消してくるんだ。


きり丸「いっ、痛え〜…!」
乱太郎「きりちゃん張り切りすぎ笑」
唇を噛み締め、痛みに耐える。それでもお構いなしに乱太郎は力を入れた。手ぬぐい越しに俺の肩が鈍い音を立てる。
時間を見つけては、慌ただしく動き回り、視線を何度も髪紐の色に似た場所に走らせ、探してはいたが、結局、髪紐は見つからなかった。
きり丸「っ〜〜!!!と、ころで虎若達は?」
加藤団蔵「虎若なら照星さんの所に行ってるよ」
きり丸「それって怪我はねぇんだろ?」
加藤団蔵「うん、無いって」
きり丸「なら良いけどさ…皆から聞いた時には、びっくりしたけど」
乱太郎「そうだよ、早速包帯を使う出番が無くて安心した…」
俺は現場に居なかったから知らなかったが、柵作りの途中で園田村に乗り込んで来たタソガレドキの一人が銃を手に近くに居た虎若を狙った。
幸いなことにその銃弾が撃たれる前に照星さん達、佐武衆が到着し、虎若を守った。だから、虎若に怪我はない。

そう安堵する一方で、俺は精神面の方が心配で仕方が無かった。
人間の欲や汚い嘘は、昔からよく目にしていて、その中には向けられる殺意や憎悪もあった。
きり丸(それを今回、目の当たりにした虎若が折れなきゃいいけどな)
なんて考えてはいたが、離れた場所から微かに聞こえてくる照星さん!と嬉しそうに名前を呼ぶ虎若の声に、心配は要らなかったと判断した俺は今度、団蔵達の会話に意識を向けた。
乱太郎「団蔵、佐武村には清八さんが?」
加藤団蔵「うん、手潟さんが援軍を依頼していたんだ」
援軍、依頼。手潟さんが言い、引き受ける前に俺が吐き捨てた言葉に違うと即座に否定した。あの人なりの抵抗が、ここにあったのだと手に取るように分かる。分かるのだが…
きり丸「……園田村ってお金持ちなんだな」
そう言わずにはいられなかった。戦にはお金がかかる。何百万、何千万、何億といった金が動くのだから
俺がお金持ちだったら、お姉さんは俺を捨てなかったのかな。離れなかったかな。ずっと居てくれたかな。

なんて__夢物語は、もう。
きり丸「今の俺にゃ、関係ねぇ話か」
乱太郎「きりちゃん……」
ケラケラと笑う俺の言葉に一瞬、戸惑った乱太郎が苦し紛れに発した名前は、たちまち風の中に消えていった。

 
火薬委員会が、裏と園田村に続く橋を爆弾で破壊していた頃、タソガレドキの忍軍は大勢を引き連れて、園田村の付近に接近していた。
照星「連中、城でも攻める気か」
夕焼けが空を染める中、望遠鏡を使い、タソガレドキの動向を探っていた照星さんが鷹のような鋭い眼光で獲物を捕らえる。
田村三木ヱ門「この距離ではカノン砲も届きませんよ。橋を落としたので砲を近づけることも出来ませんし……」
照星「それでも、カノン砲の弾丸は園田村に降り注ぐ」
田村三木ヱ門「届かないはずの弾丸砲が何故?」
きり丸「……地面、ですっけ?」
望遠鏡から視線を外し、首を傾げながら照星さんに問いかける田村先輩の言葉を遮って、俺は口を開いた。
照星「……ほう」
そんな俺の言葉に、照星さんは驚きと戸惑いが入り混じった表情で、俺を真っ直ぐ見つめる。そして、言った。
照星「流石だね……君は若太夫と同じ歳だと言うのに、この原理に気付いたのか。一方で田村くん……君は石火矢などの過激な武器が得意だと聞いたのだが…まだまだのようだ」
皆本金吾「凄いじゃん、きり丸」
加藤団蔵「授業でまだやってないはずだけど……何で知ったの?」
きり丸「前にちょっと……教えてもらった」
加藤団蔵「教えた人もだけど、それを覚えてるきり丸も凄いね」
きり丸「団蔵、俺のこと馬鹿にしすぎじゃね?」
手を握って、小さな拳を作り、不敵な笑みで団蔵に近寄ると、大袈裟に笑いながら金吾の方に逃げられた。
きり丸「ったく、喧嘩は売るなよな」
乱太郎「ねぇ、きり丸。さっきのって、もしかして……お姉さんに?」
きり丸「………まあな、お姉さん頭良いから」
無数の視線が俺と乱太郎に向けられている事に気付いているが、俺はそれを無視して、柵の先を見据えていた。
田村三木ヱ門「何だよ!一年坊主!!そのガッカリした顔は!!!」
「「「ごめんなさ〜い!!!」」」
いつの間にか視線は俺と乱太郎から田村先輩へと変わっていたようで、先輩はそんな様子に不満だと言うかのようにグワッと勢いよく、声を張り上げている。
山田伝蔵「攻撃開始は明朝になるようだ」
土井半助「明朝ですか……」
山田先生の言葉に周りから、ざわめきの声が上がる。ふと、何も言わず静かになった虎若の方を見たら瞳に揺るぎない意志が宿っていた。
佐武虎若「照星さん、明日は僕に薬込役をさせてください」
息を呑むような、張り詰めた空気が周りを満たす中、田村先輩と俺らの驚きが不自然な音として響いた。
きり丸(虎若が薬込役、?)
田村三木ヱ門「っ……」
各々が複雑な気持ちを抱えたまま、照星さんの出方を伺っていると、照星さんは後ろの方に視線を動かして、虎若の方へと戻した。
照星「しっかりやるんだぞ」
佐武虎若「はい!」
そして、明朝に向けての話し合いは進み大体の作戦の詳細まで決まった。体力を温存する為に手潟さんが用意した部屋へと戻る途中で、乱太郎が不安げに呟いた。
乱太郎「皆、怪我しなきゃいいけど」
きり丸「そりゃあ、そん時にならねぇと分かんねぇよ」
そんな戦の結末は、想像を遥かに超える愉快な事になる。


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