第12話

10話|戦の結末は、の段
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2025/06/06 14:51 更新


翌朝の事だった。どちらが先に攻撃するのかと互いに見合う中、山向こうに姿が見えるタソガレドキ軍の方から一つの砲火の音がしたのは。
「………伏せぇぇぇぇ!!!」
その声を合図にオレたちは塹壕や地面に伏せた。放たれた砲弾は勢いのまま地面の上を飛び跳ねて園田村へと襲いかかる。
「退避ーー!!!!!」
開始の合図でもある砲弾が一つが放たれ、ひとまず落ち着いたと思いきや、次々とタソガレドキ軍の方から砲火が打ち込まれ無数の砲弾が降り注いだ。
建物のあちこちを破壊し、軌道を変えて飛び跳ねる砲弾に当たって最悪な事にならないようオレたちは静かに時が経つのを待っていた。
一旦は止んだ砲弾の攻撃に塹壕から顔を覗かせる。その内の一つ、壁にハマっていた砲弾が地面に落ち緩やかに転がって伊賀崎先輩の方へと____
潮江文次郎「危ないッ!!」
間一髪の所で、滑り込んだ潮江先輩が砲弾を上空へとレシーブした。放物線を描いた砲弾は隣の塹壕に身を潜めていた中在家先輩に襲いかかった。が、
中在家長次「……もそ」
そこに砲弾ボールがあったからと言わんばかりの持ち前の冷静さで、両手を添え上空にトスを上げた中在家先輩に潮江先輩が身を乗り出した。
潮江文次郎「レシーブじゃないぞ!トスでもない!」
「いけどーーーーーーん!!!!」
そんな声を遮りジャンプをして、アタックの準備をし始めた七松先輩の姿にオレらの中で誰かの「あ、」と言う声が聞こえた。何となくこの結末を察したからだろうな
案の定、七松先輩は砲弾をアタックする事は出来なかった。手から鈍い音を鳴らしたと思えば、今度は手を押えて乱太郎達がいる御堂の医務室へと駆けていく
鉢屋三郎「乱太郎〜〜っ!!雷蔵が怪我をした!!泣」
七松小平太「私も〜〜〜!!!」
きり丸「……大丈夫かなぁ、先輩達」
加藤団蔵「……大丈夫なんじゃないかな?」
巻き込まれという形で、先輩が返せなかった砲弾により怪我をした雷蔵先輩に焦る鉢屋三郎先輩を見送ったオレたちは次の攻撃に耐えられるよう備えるのだった。
 
 
照星「砲身が熱くなったのでしょう……冷めるまで攻撃が止みます」
つまり、その間までに攻撃を止める方法をオレたちで考えなくてはいけない。あーでもない。こーでもない。と各々が意見を出し合う中、「若太夫」と照星さんの声がかかる。
佐武虎若「は、はい!!」
相変わらず動きが硬くなっている虎若の後ろで、団蔵達と一緒に嘲笑していると当然、オレ達も問われる。
照星「砲弾を跳ねさせない為にどうしたらいい?」
きり丸「まー、手っ取り早いのは相手の陣地を壊すだけどよー……距離があるからなぁ。要は砲弾を回避すればいいんだろ?」
皆本金吾「……もしかして、策があるの?」
きり丸「いや、策も何もさー、普通に地面をダメにすればいいんじゃねぇの?」
笹山兵太夫「バカ、それをどうするかって話」
呆れながらオレに言う兵太夫。塹壕の下では、二年の時友四郎兵衛先輩と能勢久作先輩がぬかるみに足を取られたしんベヱを助けようと引っ張っている。
きり丸「……虎若、しんベヱが塹壕にハマったから手伝って」
未だにどうすれば跳ねないのかと悩む虎若にオレは指示を出した。これでも、ヒントは与えたつもりだ。
土井半助「…!泥の層に足を取られているんだ。虎若」
佐武虎若「泥の層に…?層に、……泥?」
意図に気付いた土井先生もオレの後に言葉を続けた。何度か復唱した後、顔をハッとさせた虎若が居た。どうやら複雑に絡んでいた糸がやっと解けたようだった。
ただ、解けたタイミングが悪く丁度、塹壕のぬかるみから抜け出したしんベヱ達と勢いよく衝突する。
佐武虎若「……田村先輩、ユリコをお借りします!」
田村三木ヱ門「えぇ!?」
衝突した拍子で、痛見に悶え頭を押える虎若を心配そうに見ていた田村先輩の前で勢いそのまま宣言し、と驚く田村先輩の返事も聞く事もなく、虎若は駆け出した。
佐武虎若「皆!手伝ってくれ!」
「「「おう!」」」
きり丸「……虎若っ、あー……田村先輩、まだ何にも返事してねぇのにっ!」
虎若の後に続く団蔵達に置いてかれないように乱れていた息を整えて、オレは立ち上がって走った。
土井半助「火薬委員っ!」
加藤団蔵「っ、虎若!どうするの?」
先頭を走る虎若に団蔵が問いかける。走りながらも砲弾の弱点を使った己の作戦を話す虎若に協力すると中在家先輩と立花先輩が現れ、戦は終盤に差し掛かる。
 
 
激しい爆発音と共に池の堤が崩壊した。用具委員会が運んで来たという臼砲のキューちゃんを使って閃火した震天雷の勢いに驚きながらも行方を見守る。
「すっ、げー……」
静かな空間にその声は、やけに響いた。池の堤の水の勢いは衰えることなく、あっという間に村の畑地一面を水浸しにさせたのだ。
土井半助「成功だ!!!」
再び、無数の砲弾が園田村へと撃ち込まれるのだが、泥によって止まった。虎若の作戦は成功したのだ。
佐武虎若「やったあ!やったあ!!」
きり丸「良かったな、虎若!」
念の為に塹壕の中に避難していたオレたちの一つ前の塹壕で飛び跳ねて喜ぶ虎若に気付けばそう言っていた。
その直後にこちらに向かってくる軍隊が銃を放つ前に佐武衆が反撃の狼煙を上げる。次々と繰り出される攻撃にやがて、為す術もなくなった軍隊達は目の前に立ちはだかる立花先輩や七松先輩に「参った…」と降伏したのだった。
 
 
「______確か、きり丸くんでしたか?忍術学園には随分興味深い子がいるようで」
特に忍びもせず、卓袱台を広げお茶会をしているタソガレドキの忍者はニヤリと笑いながらその名を口にした。
土井半助(きり丸との接触は無かったはず…!!)
一方で土井は焦りはあるものの影からの視線は鋭く、厳しいものにへと変貌させ、相手の出方を伺っていた。
「初めて見ました。一年生とは思えない程、回る頭脳と圧倒的なセンスをお持ちなようで……あれが数年後世に出回ると考えると……将来が怖いね」
「っ、!」
それは自分も薄々感じていた事だった。逆に今回ので、それをより深く、皮膚感覚で感じ取ってしまった。
「そんなに心配しなくとも、手出する予定はありませんよ」
それはどうだか、と疑惑を抱きながら、包帯の男が雑炊を啜る様子を眺める。傍に座っていた年若い忍者がこちらを凄い形相で睨みつけるが今はどうでも良かった。
「でも……彼は危険な状態にいるね。あれは既に壊れかけている」
淡々と、さも当たり前のように語った男に動揺してしまった。何を言っているんだと激しく問い詰めたかった。
包帯の男は、そんな土井の様子を好奇心旺盛な赤子を見守るかのように微笑んでは、昨夜の出来事を追憶した。
御堂で一悶着あった帰り道、誰も使っていない廃屋の縁側で少年を見つけた時は肝を冷やしたものだ。尾けられている時は周りから一つ抜けた少年だと関心していた。
それがどうだ。あの日、縁側の隅で座り佇んでいた彼は別人だった。瞳は闇のように暗く、生き物も、自然さえも映していなかった。まるで全てを諦めてしまったかのように、そこに彼はいた。
「君は、何を抱えているのかな?____きり丸くん」
彼の内に秘めている感情は、どんなに複雑なのだろうと考えるのには充分すぎるくらいだったのだ。


逆茂木が打ち上がり、空を華麗に舞う。火花が散っては花火のように夜空を照らす。そんな光景に皆は視線を上へと釘付けにしている横で、静かに後ろへと下がって俯く。いつの間にかオレの目には涙が溢れていた。
きり丸「……おわったよ、お姉さん。」
この景色をお姉さんと見たかったなぁ、お姉さんが教えてくれた知識で、助ける事が出来たんだよ。
「………これはお前さんの物か?」
きり丸「っ、!?」
背後から聞こえた声に驚いて、袖で涙を拭い後ろを振り向いた。声の正体は手潟さんだったが、手に持っていた物に見覚えがあった。
きり丸「これ……オレの、」
失くしたはずの髪紐が、どうしてあるのかと口をはくはくとさせていると手潟さんは言った。
「池の堤に落ちてたのを預かっていたんだ。お前さんは古いからと気にしてないよう強がっていたが……紐の切れ方から大事に使っていた事は分かる」
きり丸「………!」
「老いぼれの言う事は信用するなとよく言われるが、これは独り言じゃ…大事にしていたのを簡単に手放すのは辞めんさい。これはお前さんとその人を繋ぎ、記憶を思い返すものじゃないのか。覚えてられるのはお前さんとその人だけじゃよ」
何も言えず立ち尽くしているオレの手に手潟さんは優しい手つきで髪紐を置き、ゆっくりとその場を去った。
最初こそオレは手潟さんの事を最低な人だとばかり思っていた。けれど、今は違う。誰よりも人のことを考えて動ける心優しい人なのだと気付いた。
きり丸「…………手潟さん、見つけてくれて…ありがとうございます」
手潟さんに向けた感謝の言葉は、花火の音にかき消されて、周りの賑やかな声も消えてしまった。
きり丸「………簡単に手放すな、か」
掌に置かれた髪紐を強く握り締め、オレは____
 
お姉さんはオレを手放したけど、オレ自身は離れるつもりなんて無いんだよ。だから、覚悟してくださいね。
ねぇ、お姉さん?と、花が咲いたようにして笑った。
__この物語のラストは、もう既に決まっている。


2週間近く放置させてしまって申し訳ございませんでした泣

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