黙想 さまからのリクエストです!
病院の玄関は、午後の陽射しを受けて白く光っていた。
碧海は小さなリュックを肩に掛けたまま、
受付で名前を告げる。定期検診の日ではない。
けれど、ここ数日の体調はどうにもおかしかった。
「なんか……胸がぎゅーって苦しいねん。
家でもしんどい思てんけど……」
診察室で碧海が言うと、蓮はすぐに表情を引き締めた。
聴診器をあて、モニターをつけ、
血液検査とレントゲンを指示する。
結果が出るまでの沈黙が怖くて、
碧海は落ち着きなく足を揺らした。
「碧海、症状が進んどる。
無理して帰ったらもっと危ないけん、
今日からまた入院しよか」
「……また?」
碧海の声は小さく震えた。
⸻
入院してからの日々は、思ったよりも
早く体調が悪化していった。
点滴の針跡は腕に増えて、歩くと息が上がる。
ベッドの上で天井を見つめながら、碧海は
「このままどんどん悪くなるんちゃうか」
と何度も考えてしまう。
そして、ある夜。午前2時を回ったころ、
胸の奥から強い不安がせり上がってきた。
「しんどい……息できへん……!」
呼吸は浅く速くなり、頭が真っ白になる。
指先が冷えて、しびれてくる。
ナースコールを押すこともできずに
うずくまっていたとき、病室のドアがそっと開いた。
「碧海?」
白衣の裾を揺らして入ってきたのは、
夜勤をしていた蓮だった。
「せ、先生……っ、苦しい……息できへん……!」
蓮はすぐにベッドサイドに膝をつき、碧海の背を支える。
胸の上下を確認しながら、落ち着いた声で語りかけた。
「過呼吸やね。碧海、今ちゃんと息は入っとるけん。
命に関わる苦しさやなかよ。
これは“怖い”って気持ちが体を追い込んどるんや」
「こわい……! 俺、死ぬんちゃうかって……!」
「死なんよ。俺が隣におるけん、安心してよか」
蓮は自分の胸に碧海の手をあてさせる。
「ほら、先生の呼吸と一緒にしてみよ。
吸って……吐いて……。そう、ゆっくりな」
震える肩を包むようにさすりながら、
何度も「大丈夫」と繰り返した。
やがて碧海の呼吸は少しずつ落ち着き、
涙で濡れた頬が枕に沈む。
「……先生、おれもう怖いのいやや」
弱々しい声が暗闇に溶けた。
「怖かときはな、黙っとかんで言うてよか。
俺は碧海の先生やけん。どんな夜でも隣におるよ」
そのまま蓮は椅子をベッドの横に引き寄せ、
眠りかける碧海の髪をそっと撫で続けた。
モニターの小さな電子音と、安定した寝息が、
やっと病室を満たしていった。
「おやすみ、碧海。」











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。