その日家に帰る道中で、私はメッセージ画面を開いて逡巡した。
『桜、明日風鈴高校に行っても良い?』
そういう旨のメールを送ると、すぐに既読がつく。
『なんで』
とてもシンプルな何でが送られてきた所で、私は言葉に迷った。
直球にKEELについてのゴタゴタを話すべきなのか。いや話すべきではある。でも、1つ懸念があった。
風鈴高校に在籍する安西と長門、その両者間での確執なのだから物語に付随する出来事なはず。
でも、その確信が持てないから悩んでいた。
少人数ならまだしも、長門曰くKEELはここ最近でかなり規模を広げ、今や数十人は優に超えると言っていた。
流石にそれは私でも渋る。だからと言って長門を放置するのも間違いだ。それは分かってる。
『少し面倒事が起きて、ある人が危険な状態なの。でも、もしかしたら大きな戦いに巻き込まれるかもしれなくて』
『厄介なことってなんだ』
『そこの説明も含めて本人を風鈴に連れて行きたいけど、流石に危険だから迷ってる。級長の判断を仰ぎたい』
だから渋っているのだ。桜にだけ聞いても判断しようがないかもしれないし、ダメそうだったら最後の手段として、ことはちゃんと一緒に梅宮を説得しよう。
だいぶ下卑た作戦を練っていると、通知音が鳴った。
『連れてこい』
流石にこれは驚いて、街灯の下で止まった。
桜の独断で決めても良いのか、まだ不安ではあったけど。それでも、私はほっと息をついて画面をタップした。
『ありがとう。また明日ね』
そう送ると、桜は元々アプリに入っている『OK』と書かれた初期スタンプを送ってくれた。おそらく同級生のメールの使い方を見て真似したのだろう。少し可愛かった。
次の日は学校が休みだったけど、いつも通り制服を着て待ち合わせ場所に来た。
一応他校に足を踏み入れるのだから、TPOの観点からそうするべき……という堅苦しい理由で。
私は絶望的に頼み事が下手だ。悩みなんて勿論のこと、「助けて」なんて言える質じゃない。
それでも、長門が大変だと思えば相談くらいなら出来るはず。
長門の声がして、私は話の流れをメモした紙をポケットに仕舞う。
後ろを振り返ると、そこには顔に沢山の傷を作った長門が立っていた。
周りにはKEELの構成員が複数人立っていて、漏れなく全員が歪な笑みを作っている。
私に手を伸ばした長門の髪を鷲掴みにすると、KEELの男はこう言った。
長門を殴ろうとする男の拳を手のひらで受け止めると、私は首を横に振った。
男は口角を上げて私の腕を掴む。
背中に隠したスマホを操作して、何とか手探りでメッセージを開く。
メールの友達は桜しかいないから、誰かに間違えて送るという失敗はしないはず。
私のスマホを奪うと、男は画面を勝手に見物した。
何か操作しているのは分かった。
男は「出来た」と楽しげな声を出して、私にスマホの画面を見せる。『もう解決したから助けは要らない。安心して遥』と、そう書かれていた。
私は相手を睨みながら、気付かれないように深く呼吸をする。
くすくすと取り巻きが笑う。今見えるのはざっと4人。長門と私が相手だから、油断して人数を最小限にして来たのだろう。
……たぶん、勝てる。単純な喧嘩の強さなら、の話だけど。
でも、相手はバットに角材を装備しているし、今は歩くのもやっとな長門が居る。
死んでしまうかもしれない。そう判断して、私は身体の力を抜いた。
今は、言うことを聞くのが最善。私はKEELの男に腕を強く引かれながら、震える身体を何とか震え立たせた。
今はそう、祈るしかなかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。