第20話

龍骨と花たち 2
45
2026/04/12 22:44 更新
その日家に帰る道中で、私はメッセージ画面を開いて逡巡した。
『桜、明日風鈴高校に行っても良い?』
そういう旨のメールを送ると、すぐに既読がつく。
『なんで』
とてもシンプルな何でが送られてきた所で、私は言葉に迷った。
直球にKEELについてのゴタゴタを話すべきなのか。いや話すべきではある。でも、1つ懸念があった。
あなた
(もし物語に全く関係ないいざこざだった時の場合が…)
風鈴高校に在籍する安西と長門、その両者間での確執なのだから物語に付随する出来事なはず。
でも、その確信が持てないから悩んでいた。
少人数ならまだしも、長門曰くKEELはここ最近でかなり規模を広げ、今や数十人は優に超えると言っていた。
あなた
それだと、喧嘩っていうか抗争になるよね
流石にそれは私でも渋る。だからと言って長門を放置するのも間違いだ。それは分かってる。
『少し面倒事が起きて、ある人が危険な状態なの。でも、もしかしたら大きな戦いに巻き込まれるかもしれなくて』
『厄介なことってなんだ』
『そこの説明も含めて本人を風鈴に連れて行きたいけど、流石に危険だから迷ってる。級長の判断を仰ぎたい』
あなた
(桜だけじゃなくて多聞衆、引いては先輩も巻き込む大惨事になるかもしれないし)
だから渋っているのだ。桜にだけ聞いても判断しようがないかもしれないし、ダメそうだったら最後の手段として、ことはちゃんと一緒に梅宮を説得しよう。
だいぶ下卑た作戦を練っていると、通知音が鳴った。
『連れてこい』
あなた
………すんなり通った
流石にこれは驚いて、街灯の下で止まった。
桜の独断で決めても良いのか、まだ不安ではあったけど。それでも、私はほっと息をついて画面をタップした。
『ありがとう。また明日ね』
そう送ると、桜は元々アプリに入っている『OK』と書かれた初期スタンプを送ってくれた。おそらく同級生のメールの使い方を見て真似したのだろう。少し可愛かった。
次の日は学校が休みだったけど、いつも通り制服を着て待ち合わせ場所に来た。
一応他校に足を踏み入れるのだから、TPOの観点からそうするべき……という堅苦しい理由で。
あなた
(とりあえず、事情の説明と説得。それから事態の重大さを1から説明して…)
私は絶望的に頼み事が下手だ。悩みなんて勿論のこと、「助けて」なんて言える質じゃない。
それでも、長門が大変だと思えば相談くらいなら出来るはず。
長門
………あなたの花宮さん…
長門の声がして、私は話の流れをメモした紙をポケットに仕舞う。
あなた
長門、おはよう。今日は……
後ろを振り返ると、そこには顔に沢山の傷を作った長門が立っていた。
周りにはKEELの構成員が複数人立っていて、漏れなく全員が歪な笑みを作っている。
長門
逃げて…!
私に手を伸ばした長門の髪を鷲掴みにすると、KEELの男はこう言った。
KEELの構成員
勝手に喋るんじゃねぇよ。ちょっと気抜いてたら、女に助け求めてたのかよ。ダッセーなー
KEELの構成員
ノルマ達成してない分際でよ
長門を殴ろうとする男の拳を手のひらで受け止めると、私は首を横に振った。
あなた
ここまでやって来たということは、私に用事があるんですよね?
男は口角を上げて私の腕を掴む。
KEELの構成員
着いてこい。もしかしたらお前も……ヤツら風鈴を誘き寄せる餌になるかもなぁ
背中に隠したスマホを操作して、何とか手探りでメッセージを開く。
メールの友達は桜しかいないから、誰かに間違えて送るという失敗はしないはず。
あなた
(SOSの3文字だけで良い。最悪、めちゃくちゃな単語でも危機だけ伝われば)
KEELの構成員
おっと、仲間に連絡しようとしても無駄だぜ
私のスマホを奪うと、男は画面を勝手に見物した。
KEELの構成員
なになに……桜遥? あぁ、風鈴の生徒か
KEELの構成員
お楽しみはこれからだからな。今すぐに仲間呼ばれちゃ準備が間に合わねぇ
何か操作しているのは分かった。
男は「出来た」と楽しげな声を出して、私にスマホの画面を見せる。『もう解決したから助けは要らない。安心して遥』と、そう書かれていた。
KEELの構成員
ククッ……これでもう助けは来ねぇなァ…?
私は相手を睨みながら、気付かれないように深く呼吸をする。
あなた
早く貴方たちの根城に連れて行って
くすくすと取り巻きが笑う。今見えるのはざっと4人。長門と私が相手だから、油断して人数を最小限にして来たのだろう。
……たぶん、勝てる。単純な喧嘩の強さなら、の話だけど。
でも、相手はバットに角材を装備しているし、今は歩くのもやっとな長門が居る。
あなた
(辺りに潜伏してる可能性も無くはない……何より、万が一長門がバットや角材で殴られたら)
死んでしまうかもしれない。そう判断して、私は身体の力を抜いた。
今は、言うことを聞くのが最善。私はKEELの男に腕を強く引かれながら、震える身体を何とか震え立たせた。
あなた
(桜がメールの違和感に気付けば……もしかしたら助けが来るかも)
今はそう、祈るしかなかった。

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