『...すごいね』
「...はあ...本当に」
昼過ぎ頃、隠れている俺達の視線の先には五年生と一緒にいるあなたの天女みょうじさんの姿。
かなり、楽しそうだ。
なんだか少し、モヤっとした。俺は、何ヶ月もかけて仲良くなったのに…。デレデレしやがって…。
「ここに天女が居るってことは、六年はフリーなはず。そっちに行きますよ」
『はい』
鉢屋くんのあとについて、学園内の茂みのなかを隠れながら移動する。
四年生も廊下の天井裏にいて、俺たちの動きを見ながら同じ方向に着いてきているはずだ。
『触るって言ったけど...俺また嫌われてるかも...。めちゃくちゃ拒絶されたら、どうする?』
「話くらい出来るでしょう。私や四年みたいに、まだ毒牙にかかっていない人もいるかもしれませんし」
『毒牙』
「怪我をした、とか言えば、善法寺伊作先輩にはすぐ触れそうですよね」
『確かに...俺がここに来てすぐ、まだ警戒されてる時に穴に落ちた時も手当してくれたし。優しいよね』
「穴に?」
鉢屋くんが俺を振り返った。
『喜八郎くんの落とし穴』
「ああ...なるほど」
また前を向いて、移動を再開する。屈んで動いているから、そろそろ腰が痛くなってきた。
『あなたの天女みょうじさんは名前を呼んで触るんでしょ。俺も同じようにしたほうが良いのかな』
「まあまずは、それが良いでしょうね」
『分かった』
***
六年長屋の前に着いた。キョロキョロしていると、障子を開け放った部屋の中にいる潮江くんと目が合った。鉢屋くんの後について、近付く。
「あ!あなたの天女みょうじ!と...鉢屋?」
「鉢屋です。今ちょっと...いいですか?」
「構わんが…なぜあなたの天女みょうじと一緒にいる?そいつについて聞かされていないのか」
潮江くんは俺を何故だか困ったような顔で見た。
『えーと。潮江文次郎くん。ちょっとお手を拝借』
「はあ?」
潮江くんが不思議そうな顔をしながらも、手を差し出してくれた。握る。
「で?なんか変化ありました?」
『お、俺には分かんないよ』
「潮江先輩は?なんか、気分変わったりしました?」
「いや?特には...。いや…なんだか、胸のしこりが取れたような気持ちだ」
『それってつまりどういうこと?』
「天女のこと、どう思います?」
うわ!切り込んだ!!
鉢屋くんは涼しい顔をしている。
「天女?ああ...この間、降りてきたやつか?」
アレッ!?やつ呼ばわりしている。俺は潮江くんをみたり、「これって成功!?」と鉢屋くんをみたり、忙しかった。
『も、元に戻った?』
「さっきから何を言っているんだ。おい、仙蔵!あなたの天女みょうじがおかしいぞ!」
おかしいのはアンタらだよ。あなたの天女みょうじさんにも俺にも、簡単に心を操られすぎだろ。
「どうした…あなた!事務室にも職員室にも居ないから探したぞ!お前、天女様に向かって…」
『て、手を……立花仙蔵くん』
「手?」
思わず、と言った様子で真っ白な手を差し出してきた。二人とも素直だ。握る。
「なんだ?これは」
「さあ…俺もさっきされた」
『なんか感じない?』
「………お前とそういうつもりはないぞ」
『え!いや、そういうんじゃなくて…!』
「天女のことどう思います?」
また切り込んだ!
「天女……天女…?そうだ、天女。また頭が痛くなって…おい、また私たちはやらかしたのか?」
「あ!なるほど!そういう事か!!」
「六年生みんなやらかしてます。おい!出てきていいぞ」
四年生が鉢屋くんの一声で降りてきた。
「立花先輩、大丈夫ですかあ」
「潮江先輩も…体調とか、平気ですか!?」
問題ない…とふたりが気まずそうに頷く。
「すまん。またおかしくなっていたみたいだな」
「でも、あなたさんのお陰でまだ何日も経っていませんよ」
「そうか……結局、何がどうなってるんだ?」
かくかく、しかじか。
「……つまり、天女の力にあなたの力で対抗出来るんだな?」
「今、先輩たちが戻ったみたいなんで、そうなんじゃないですかね」
鉢屋くんが言いながら、「でもな」と首を傾げた。
「なんだ?鉢屋」
「うーん……いいえ、なんでもないです」
話をしていると、滝夜叉丸くんが七松小平太を連れてきた。
「七松先輩、これで治りますよ!」
「え、なに?あ!あなた!!お前、学園から出て行けと天女様に言ったらしいじゃないか!!ショックで泣いていたぞ!!」
逆ぅ。そして嘘泣きだと思う。
『七松小平太…くん、ちょっと腕相撲しない?』
「…なんだ?いいけど、大丈夫なのか?」
全然大丈夫じゃない。ミスった。でも触らないといけないから、廊下に座って、腕を組む。
『いっててててて、ギブ!』
「弱……」
「弱いですね…」
「弱いな…」
「……あ!私、また天女の言う事を聞いてしまっていた…!」
***
出会った三人を元に戻すことが出来て、味方が増えた。
善法寺くんと食満くんは外に出ているらしい。
『中在家くんは?』
「この時間なら図書室だろう」
文次郎くんが床下から行くのを提案したが、立花くんに却下されていた。俺も嫌だ。
「あなたが居るからな。天井も使えん。普通に廊下から行くしかないだろう」
『ありがとう立花くん。足手まといは助かります』
「そこまでは言ってない」
図書室へと三人と一緒に周りを見ながら歩く。#天女1#さんが現れたら、三人は逃げるか、まだ解けてない風を装って、俺に疑念が向かわないようにする予定だ。
四年生は近付かれただけでもぼーっとするって言ってたけど、大丈夫かな。
ちなみに四年生は相変わらず天井裏、こんどは鉢屋くんをリーダーとして移動中である。
『術が掛かっている間って、どんな気持ちなの?』
「いやあ、私はあんまり覚えてないな。とにかく、あなたを学園から出すという事ばかり」
『俺?怖』
「天女の近くにいたり天女のことを考えると、いい気分がしたものだが…それ以外は、ぼんやりしているな…ただ、確かに天女があなたのことを話していたのは強く覚えている」
『それ悪口?』
「文次郎と小平太もか。私もだ」
うーん、と首をひねった七松小平太が俺を見る。
「お前は平気なのか?」
『なんともないよ』
「そもそも、お前に掛けられた術もあなたが解いてくれたんだぞ」
「え!そうなのか!ありがとうあなた!」
『ど、どういたしまして』
図書室に着くと、七松小平太が中に呼びかけた。
「長次!私だ!」
ぬっ、と本棚の影から中在家くんが顔を出す。ちょっと笑っている。ちょ、声がデカかったって。
『や、やあ、中在家長次くん』
「もそ」
「連れ立ってどうした?と長次が言っている」
『ちょっと、手を…』
「?」
中在家くんの手を握る。彼は不思議そうにした後、他の六年生を見た。
「どうだ、長次。天女のことはどう思う」
「もそ…私は、術に掛かっていない」
「え!そうなのか!」
また中在家くんがニヤッと笑った。声がデカいって。
「お前たちが、おかしくなるのを見て……回避した。不破たちは間に合わなかったが…ここで、どうしたものか、考えていた…」
「そうだったのか。不甲斐ない姿を見せたな」
立花くんがそう言ったら、笑みが深くなった。怒っているらしい。でも、少ししたら真顔に戻った。怒りのターンは過ぎたらしい。
「私たちもいます」
上から鉢屋くんと四年生が降りてきた。図書室はわりとミチミチだ。
「わりと、人数が集まったな」
「あとは伊作と留三郎、それから五年か」
「どうします?」
「そうだな…一旦、先生たちのところへ行った方が良いのではないか」
少しの間みんなで話し合って、図書室に中在家くんと潮江くん、そして四年生を残し、立花くんと七松小平太、俺が職員室へ向かうことになったのだった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!