第8話

終わった昨日と、やってくる明日
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2019/05/06 07:15 更新
智花がうちにやってきた。

智花の荷物は、花と、ぬいぐるみが2体と、抱き枕。
なんとも可愛らしい。

花は思ったよりも大きかったので、私がもらったというていでベランダに置くことになった。
レースのスカートを広げたような形状の薄ピンクの花がいくつか咲いている。


「カルミアっていう花でね、お気に入りなんだ。ずっと育ててるの」

「入れ替わるまでは面倒見ててあげてね」

そう言って、智花は中に引っ込んだ。

「水あげとけばいいんでしょ?」

私も言いながら引っ込んだ。



我が家のご飯は質素なもので、ソースを温めてかけるだけのパスタだった。
前々から言っておいたのだから、もっと用意しておけばいいのに。

「あんな気の利かない親の子供でごめんね」

と思わず部屋に戻ってから言ってしまった。


私からの説明はすぐに終わった。
隠さなければならないことがある以上、ボロを出さないように事前準備をしっかりしたから、説明もサクッと終わり、「あとはマニュアルに書いたから」の一言で完結した。

おかげで、と言っていいのか、その日はぐっすりと眠ることができた。





どこにも行っていないのに慌ただしかったゴールデンウィークが終わり、また学校がやってきた。
多くの生徒がだるそうに登校する中、私たちは、この体での最後の登校。少し時間を大切に感じる。

一分一秒を大切に過ごしたはずなのに、その日は案外早くきてしまった。
智花から預かった花が、風に揺れる。
教えてもらった通りに水をあげて、「もうすぐ智花が帰ってくるからね」なんて柄にもなく話しかけたりして。
昨日書いておいた”遺書(笑)”を机の引き出しの一番上に入れておく。
問題なければ、智花が捨ててくれる。問題があったら……どうなるかはその時次第だね。

今日でこのリュックとも、自転車ともお別れ。
あまり好きではなかった親に最後の「行ってきます」の声をかける。
そういえば、「ただいま」は昨日が最後だったのか。惜しいことをした。

今日、私は、私ではなくなるんだ。

運命の針が、私の知らないところで、カチリと音を立てて動き出していた。

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