智花がうちにやってきた。
智花の荷物は、花と、ぬいぐるみが2体と、抱き枕。
なんとも可愛らしい。
花は思ったよりも大きかったので、私がもらったというていでベランダに置くことになった。
レースのスカートを広げたような形状の薄ピンクの花がいくつか咲いている。
「カルミアっていう花でね、お気に入りなんだ。ずっと育ててるの」
「入れ替わるまでは面倒見ててあげてね」
そう言って、智花は中に引っ込んだ。
「水あげとけばいいんでしょ?」
私も言いながら引っ込んだ。
我が家のご飯は質素なもので、ソースを温めてかけるだけのパスタだった。
前々から言っておいたのだから、もっと用意しておけばいいのに。
「あんな気の利かない親の子供でごめんね」
と思わず部屋に戻ってから言ってしまった。
私からの説明はすぐに終わった。
隠さなければならないことがある以上、ボロを出さないように事前準備をしっかりしたから、説明もサクッと終わり、「あとはマニュアルに書いたから」の一言で完結した。
おかげで、と言っていいのか、その日はぐっすりと眠ることができた。
どこにも行っていないのに慌ただしかったゴールデンウィークが終わり、また学校がやってきた。
多くの生徒がだるそうに登校する中、私たちは、この体での最後の登校。少し時間を大切に感じる。
一分一秒を大切に過ごしたはずなのに、その日は案外早くきてしまった。
智花から預かった花が、風に揺れる。
教えてもらった通りに水をあげて、「もうすぐ智花が帰ってくるからね」なんて柄にもなく話しかけたりして。
昨日書いておいた”遺書(笑)”を机の引き出しの一番上に入れておく。
問題なければ、智花が捨ててくれる。問題があったら……どうなるかはその時次第だね。
今日でこのリュックとも、自転車ともお別れ。
あまり好きではなかった親に最後の「行ってきます」の声をかける。
そういえば、「ただいま」は昨日が最後だったのか。惜しいことをした。
今日、私は、私ではなくなるんだ。
運命の針が、私の知らないところで、カチリと音を立てて動き出していた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。