都内某所で、立ち止まった。
目の前にはゴミ箱…の中にある私のポーチ
数日見ないと思ったら捨てられていたらしい。
はぁ、とため息をついてそれを取り出す。
正直、これにはもう慣れた。いつもやられている訳では無いが、週に一度は必ず私物が消える。
が、別に怒っている訳でもなければ悲しくなっている訳でもない。
俗にいえば、これはいじめに該当する。
普通の人なら、悲しんだり、怒り狂ったりするのだろう。
でも、私はそれを感じるほど感性豊かでは無い。
怒るだけ無駄、悲しむだけ無駄
心の中では、どこか諦めていたのだ。
ぱんぱん、とポーチに着いた埃や汚れを払う。
自分で作ったポーチは、所々糸がほつれていて、「修繕しなきゃ」と時間を確保する為に今日のスケジュールを確認する。
確か、今日は同期と公式番組の収録をして、その後案件ものの説明、その後は先輩との歌収録、ショートにあげるための動画作り、レコーディング…
我ながらハードスケジュールだと思った。
ても、高校とこの仕事を両立するためにはしょうがないなと思いもする。
斜め上を向いて考える素振りをする。
すると、ある人の視線に気づいた。
同期の葛星さんがこちらを不思議そうに見ていたので名前を呟いた。
彼女は私のポーチが無くなったということをひとつも知らない素振りをする。葛星さんじゃないか。
…私はなんで容疑者探ししてるんだ
心のなかで突っ込む。
別に怒ってるわけじゃないだろ。
とニコニコする葛星さん。
その笑顔は無垢で、いかにも天真爛漫の子供のようであった。
若干の皮肉も込めた気持ちで葛星さんを見る。彼女はデビューしてまだ1年しか経ってないものの、絶大な人気を誇っている、まさに、才能の塊。
私とは違っていい人生を歩んできたのだろう。その言動には私の中の理想郷を当たり前のように語っているものもある。
やっぱ人気者は違うなぁと考えていると、葛星さんの後ろから、ある視線を感じとった。
彼ははぁ、と気だるげに溜息をつき、葛星さんの隣に来た。その姿はまるで牽制をしているように見え、少々苦手意識を持ってしまった。
腰に手を回して肩に顎を乗せる。まさにホストの所業と言うか…なんだか面倒臭い男のような気もする。
不破先輩の行動に顔をあからめる葛星さんを横目に見ていると不破先輩がこちらを睨んでいるような視線を感じた。
いや、なんで??
まぁ、取り敢えずここのおアツを身の前で見るのもなんだと思ったので撤収することにした。
手をヒラヒラとしながら、不破先輩の真横を通り過ぎる。
まあ、多少の煽りも伝えながら。
あのポーチ、妙に香水とお酒の臭いがした。そして、そのふたつの臭いを兼ね備えているのは、知り合いの中でも一人しかいない。
十中八九、この推理はあっているだろう。
まぁ、不破先輩がこんなに歪んだ顔をしているのが決定的な証拠なのだが。
スタジオの入り時間の十数分前に入ると、中ではマネージャーと誰かが話をしていた。
片方の人は私に気づくと焦った様子で近寄ってきた。
あぁ、そういうことか。と納得する。
相手も相手だ。もう開き直っているようで、その目には反省の色がない。いや、この行動は意図して行ったものなのだろうか。
取り敢えず、この状況を打破すべく、私のすべきことを聞く
それもそうか。彼女はその予定を知らないのだから伝える必要がある。
あれ、ちょっと待った
…じゃあ私あの戦場に突っ込まなきゃ行けないの???












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。