翌日から、翡翠宮の侍女としての生活が始まった。
何処の馬の骨かも分からない女を独断で雇える
玉葉様の権力は馬鹿にならない。
身の回りのお世話を通して、
いかにこの国にとって大切で必要とされている
存在なのかがよく分かる。
壁に掛けた日付表にバツ印を付ける。
現代の私の体や心はどうなっているのだろう?
周りの人に迷惑欠けてないと良いけど、
部屋の外から猫猫の声がする。
私は髪を整えて紅碧の着物を靡かせ、扉を開けた。
食堂までの忙しない朝の道を、
猫猫と並んでゆっくり歩く。
初めて私を見つけてくれたのが怖い宦官じゃなくて
可愛くて優しくておまけに賢い猫猫でよかったな。
猫猫の笑顔が突然引き攣る。
声の方を振り向くと、無意識に体が強張った。
其処には国を傾かせかねない程の美貌と
言っても過言ではない顔立ちの男性が立っていた。
身長も体つきも良くて、威圧感に押し潰されそう。
猫猫はこの人と知り合いなのかな?
だとしても、こんなふうに権力を振りかざして
連行するのは絶対違うと思う。
実際猫猫は凄く嫌そうだし、私が助けないと…!
私のことを助けてくれた猫猫の為だ、
権力に逆らって首ちょんぱされたって悔いはない!
私は震える拳を固めて、一歩踏み出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!