懐からハサミを取り出して、透の髪を切ろうとする慊人を見たツクヨミが、ようやっと動いた。
ツクヨミがルビーの手を優しく撫でると、ルビーが苦しげな顔をして、首を締め付けるその手を離す。
そして、揉み合いになっている透と慊人達を見た。
ツクヨミが右手を天に掲げた瞬間、大量のカラスが慊人へ襲いかかる。
鴉たちが慊人の全身を包み込むように取り巻き、大きな鳴き声を上げる。
すると、徐々に慊人の顔つきが弱々しいものへ変わっていった。
そして、その場にへたり込む。
慊人から怒りが消え、その代わりとなった感情は──
──深い悲しみと、虚しさだった。
慊人がその場で蹲る。気力が全て、ツクヨミによって削がれた為、怒りによって隠されていた感情が露になる。
ボサボサになった髪を気にせず、透が蹲る慊人を一瞥し、ツクヨミを見た。
ツクヨミがそう言って、クスリと笑う。
──直後、校門前で車が急停車し、中から三人の男が出てきた。
そう言って紫呉がヤレヤレと首を振る。
その言葉を聞いた紫呉の表情が、怒りに満ちたものへと変わる。
そう言いながら紫呉が、壊れ物を触るように慊人の頭を撫でる。
紫呉がツクヨミを指さし、見下ろした。
透の顔を見て、ツクヨミが目を細め、続ける。
その言葉を聞いたアクアとルビーが、目を大きく見張った。
『だから…元気になって、帰っておいで』
つい先日、この少女から言われた言葉を思い出す。
ツクヨミが淡々と言った後、各々が目を丸くした。
夾一歩後退る。
アクアが目を丸くしたまま頭を抑えた。
紅葉と春が頷いた。
紅葉が走って、撥春は早歩きで、花島は優雅に校内へ戻る。
──そして、一行は慊人が乗ってきた黒のリムジンに乗って、紫呉の家へ向かった。
山の中にポツリと建つ家に戻って早々、ツクヨミが笑顔を見せた。
怒気を含む声のツクヨミが手をパンッと軽く叩くと、目の前に白髪の、高貴な着物を着た男性が現れた。


































編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!