第24話

ツクヨミの想い
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2026/02/25 11:19 更新
懐からハサミを取り出して、透の髪を切ろうとする慊人を見たツクヨミが、ようやっと動いた。
ツクヨミ
ツクヨミ
…気は済んだ?
星野ルビー
星野ルビー
ツクヨミがルビーの手を優しく撫でると、ルビーが苦しげな顔をして、首を締め付けるその手を離す。
そして、揉み合いになっている透と慊人達を見た。
ツクヨミ
ツクヨミ
……責任はしっかり果たさないと…ね
ツクヨミが右手を天に掲げた瞬間、大量のカラスが慊人へ襲いかかる。
草摩慊人
草摩慊人
何だ…っ…
鴉たちが慊人の全身を包み込むように取り巻き、大きな鳴き声を上げる。
すると、徐々に慊人の顔つきが弱々しいものへ変わっていった。

そして、その場にへたり込む。
ツクヨミ
ツクヨミ
うん、落ち着いたようで何より。随分と気の短い当主様かみさまだね
慊人から怒りが消え、その代わりとなった感情は──
草摩慊人
草摩慊人
──深い悲しみと、虚しさだった。
本田透
本田透
…!!
草摩慊人
草摩慊人
もう嫌だ…死にたい
慊人がその場で蹲る。気力が全て、ツクヨミによって削がれた為、怒りによって隠されていた感情が露になる。
本田透
本田透
…慊人さん…?
本田透
本田透
一体…何をしたんですか?
ボサボサになった髪を気にせず、透が蹲る慊人を一瞥し、ツクヨミを見た。
ツクヨミ
ツクヨミ
…君は、つい先程まで暴力を振るっていた相手に対しても同情するんだね
ツクヨミ
ツクヨミ
君達も、この世界も、表面上はともかく、本質はとても温かい。世界は世界主に似るとはよく言ったものだ
ツクヨミがそう言って、クスリと笑う。
──直後、校門前で車が急停車し、中から三人の男が出てきた。
草摩紫呉
草摩紫呉
慊人が行方不明っていう紅野からの電話と、紅葉からのメールで駆けつけてみれば…
草摩紫呉
草摩紫呉
ガラにもなくぐったりして涙まで流しちゃってる慊人さんと、由希達、おまけに散歩に行っていたはずの双子と、新キャラの女の子…
そう言って紫呉がヤレヤレと首を振る。
草摩はとり
草摩はとり
慊人…何があった
草摩綾女
草摩綾女
由希!怪我は無いかい?
草摩紫呉
草摩紫呉
ねぇ、どういうこと?慊人さんも何か言ってくださいよ
草摩慊人
草摩慊人
…ろしてくれ…
草摩紫呉
草摩紫呉
はい?
草摩慊人
草摩慊人
僕を、殺して…紫呉…
その言葉を聞いた紫呉の表情が、怒りに満ちたものへと変わる。
草摩紫呉
草摩紫呉
草摩はとり
草摩はとり
紫呉、落ち着け。まずは本家に戻るぞ
草摩紫呉
草摩紫呉
こんなしおらしくなっちゃって…
そう言いながら紫呉が、壊れ物を触るように慊人の頭を撫でる。
草摩紫呉
草摩紫呉
で?誰?そいつ
紫呉がツクヨミを指さし、見下ろした。
ツクヨミ
ツクヨミ
(……温かいという言葉は撤回しよう)
ツクヨミ
ツクヨミ
彼女には少しの間、静かにしていて欲しかったからね
本田透
本田透
あなたは…誰、ですか?
ツクヨミ
ツクヨミ
ツクヨミ、でいいよ。本田透さん
本田透
本田透
名前…
透の顔を見て、ツクヨミが目を細め、続ける。
ツクヨミ
ツクヨミ
…君達に、一つお願いがある
ツクヨミ
ツクヨミ
ルビーとアクアを、これからもずっと、彼らが老いて死ぬまで、そばに居てやって欲しい。この世界で、この世界の住人として
その言葉を聞いたアクアとルビーが、目を大きく見張った。
星野ルビー
星野ルビー
……は
星野アクア
星野アクア
…何を、言っている?
 
『だから…元気になって、帰っておいで』

つい先日、この少女から言われた言葉を思い出す。
 
星野アクア
星野アクア
お前言ったよな。元気になって帰ってこいって
ツクヨミ
ツクヨミ
うん。でも、帰ってくるのが数日後なのか、数ヶ月後なのか、はたまた数十年後なのかは、何も言っていないよ
ツクヨミ
ツクヨミ
元気になって帰ってくるのは、君達の〝魂〟だ
星野アクア
星野アクア
星野アクア
星野アクア
お前は…俺がなんの為に今まで生きてきたのか、知らないはずがないだろ
ツクヨミ
ツクヨミ
…うん。彼を殺す気なんだろう?
ツクヨミが淡々と言った後、各々が目を丸くした。
本田透
本田透
ころ…え…?
草摩由希
草摩由希
(どこか闇を感じるとは思っていたけど…まさか…)
草摩夾
草摩夾
(人殺そうとしてたのかよこいつ…まじか……ヤベェやつじゃねぇか)
星野アクア
星野アクア
そうだ。知っているなら何で
草摩夾
草摩夾
(しかも淡々としすぎだろ…サイコパス…サイコパスなのか?)
夾一歩後退る。
ツクヨミ
ツクヨミ
君達の母親が心配していたよ。復讐になんて囚われて欲しくないって
星野アクア
星野アクア
…は?
ツクヨミ
ツクヨミ
星野アイ、今、彼女は二人の行動を天と地の狭間から見ている。
ツクヨミ
ツクヨミ
正確には彼女の未練だけど
星野アクア
星野アクア
待て……頭が…酷く混乱している
アクアが目を丸くしたまま頭を抑えた。
ツクヨミ
ツクヨミ
うん。私も言うつもりは無かった。言ったところで会うことは叶わない。君達にあの日を思い出させるだけだから
星野アクア
星野アクア
じゃあ何で
ツクヨミ
ツクヨミ
…私は自分の願いに貪欲なんだよ
星野アクア
星野アクア
…答えになってないだろ
草摩はとり
草摩はとり
おい、ともかく場所を移動するぞ。ここでは目立ちすぎだ
草摩はとり
草摩はとり
紅葉と春、教師や生徒達を、適当に誤魔化せるか
草摩紅葉
草摩紅葉
……うん
草摩撥春
草摩撥春
了解
紅葉と春が頷いた。
本田透
本田透
花ちゃんも、魚ちゃんに心配しないでと伝えてくれませんか?
花島咲
花島咲
任せて透君。話の捏造は得意よ
紅葉が走って、撥春は早歩きで、花島は優雅に校内へ戻る。
──そして、一行は慊人が乗ってきた黒のリムジンに乗って、紫呉の家へ向かった。
ツクヨミ
ツクヨミ
さて…
山の中にポツリと建つ家に戻って早々、ツクヨミが笑顔を見せた。
ツクヨミ
ツクヨミ
いい加減出てきたらどうなのかな?私はこの世界の子供達まで相手にするつもりはないよ
_@_
怒気を含む声のツクヨミが手をパンッと軽く叩くと、目の前に白髪の、高貴な着物を着た男性が現れた。

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