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第5話

#4
44
2026/03/08 06:42 更新
いつもの放課後。


図書室の奥の机には、

相変わらず本が山みたいに積まれている。

その向こうで、

石神くんがノートに何かを書き込んでいた。




石神くん
そこの青い本とってくれ。



顔も上げずに言う。

私は頷いて、本を渡す。

石神くん
サンキュ

それだけ。

いつもと全くおなじやり取り。




机の上には、

ロケットの図。

計算式。

メモ。

石神くん
これ見ろ。




石神くんは
ノートをくるっと私に向ける。

石神くん
この推進力なら理論上――
 
私は頷きながら聞く。
本当は、
言わなきゃいけないことがあるのに。


ポケットの中で、
メモ帳を握る。

あなた
『――引っ越すことになった。』


その一言が、
どうしても書けなかった。
もし書いたら、
この時間が終わる気がして。


だから、
何も言わないまま、




いつも通り
実験をして、


いつも通り
本を運んで、


いつも通り
隣に座っていた。










そして、最後の日。


石神くんは相変わらず
本を積み上げていた。




石神くん
よし、今日はここまでだな


そう言って、
ノートを閉じる。




私は、
机の上にメモ帳を開いた。
ペンを持つ。

今なら書ける。




そして私は書こうとしたけど、

手が震えた。




あなた
『ひっこす』



その言葉だけは、

どうしても。



だから私は震える手で、


『ありがとう、‪”‬千空くん‪”‬。』


と書いた。





石神くんはそれを見て、

なんで急にとでもいいたげな顔をした。


私は『急に言いたくなった』と書いて、

最後に石神くんに手を振って帰った。










私は明日の夕方にこの町を出る。

今日と明日、引越しに向けて準備をする。





だから学校には行けない。

大樹くんには、

今日の学校の帰りにこっそり伝えた。



大樹
なんでだぁぁぁぁぁあ!!(泣)

と叫んで号泣された。


その声に私もうるっと来て泣きそうになった。




私は大樹くんに

『まだ石神くんには言わないで。』

と伝えて、大樹くんと別れた。







石神くんの家から帰ったあと、

私は泣きじゃくった。




石神くんたちと卒業したい。






これからもずっと一緒にいたい。
 


そんな願いは叶うはずもなく私は、





石神千空くんと出会った町を離れた。

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