───『健啖家と狩人の記憶』
酸化臭の蔓延する 、 とあるマフィアの製作所。
重く、固く閉ざされた扉の先にある其処には 、
𝙕𝙖𝙗𝙞𝙠𝙖・𝙙𝙚𝙨𝙖𝙧𝙧𝙤𝙡𝙡𝙤 と呼ばれる開発部門の幹部が身を構えているらしい。
コツコツコツ……
コツコツ……
猫背で常に足元ばかりを見つめている 此奴の名前はメロメラ。つい最近、この神秘の楽園にやってきた新入りである。ざんばらに切られた長髪の黒髪に、重苦しいぱっつんの前髪。コチラまで卑屈になってしまいそうだ。
気分良さそうに声を弾ませる女の名前はルキア。神秘の楽園の首領である。吸い込まれそうな銀の瞳に腰近くまである濃紺の髪。 星々を想起させる輝きだ。
長廊下に響き渡る、スーパーボールの様に弾んだ声と 今にも壊れてしまいそうな硝子の様な声。陰陽にも思える二人の足音は 只 直線的に、排煙手招く鉄扉を標的として歩みを進めていた。
ゴンゴンゴン……
─────────『危険-立入禁止』────────
彼女の身長からして、その貼紙は見えなかったのであろうか…?はたまた、理解しての事であろうか。
ドゴォォォン!!!
鉄扉がいとも容易く 爆発による衝撃波で解き放たれた。
噴煙により、辺りが良く見えない…
卵殻膜の様な薄い膜が 微々たる青を帯びて彼女等を取り囲み、身を守る。これはおそらく、ルキアの異能であろう。やがて、膜は役目を終え、溶ける。暫く経てば、噴煙が晴れ 辺りの輪郭がハッキリと して来る頃だろう。
男の声。
パッと、表情が明るくなる。
腕を大きく振り上げ ザビカと呼ばれる人物に、彼女は手を振った。
首領に縋り付いていた者が 震え声を挙げる。
其れを認知したのか、彼は──
熟れ初めの梨の様な瞳に メロメラを映す。
腰に手を回し 姿勢を屈めてまじまじと。
その様子に首領はくすりと笑い、 交流の輪を作り始めた。
白磁器の様な指でザビカの手を絡める。無意識だと言うのだから 恐ろしい。
足早に二人は 製作所の中に入っていった。
瓦礫 砂埃 を物ともせず 。
タッタッタッタ…
ゴトンッ…
───In Factory
用件…其れは、メロメラの新たな武器を作る事。
開発部門幹部にはうってつけの仕事を 依頼しに来たと言う訳だ。
ガタッ!!
ゴトゴト…!!
メロメラに向かって 小声で呟く。
ひんやり冷たい手で 彼女を安心させるように、包み込むように 手を繋いで…。
「 じゃあねー! 」と、軽い身のこなしで退出。そうして この談話室には新入りと幹部の2人きりとなった。
気不味く 重苦しい空気が漂いはじめる。
くるくるとスパナを回しながら こう続ける。
ガタッ!!
頭上からピコンと光を放つ電球が出てこんと言わんばかりの態度で、 突如として椅子から飛び上がる。彼女をビビらせるのには充分だ。
ぼーっとしている様でぼーっとしていないこの男。口元にスパナを当てながら その瞳は只メロメラだけを見つめていた。
「ハルバード」
其れは、槍・斧・槍の機能を併せ持った、長柄武器である。斬る・突く・断つ・払うといった様々な攻撃が可能。その一方、使いこなすには熟練の技術を要するため、騎士の花形武器とされた。主にヨーロッパで使われた、古い武器。
目の色が変わった。
ぽんぽんと肩を叩き…
ピッ………
メロメラは、やにわに指を3本立てた。
この取引はあまりにも可笑しい。釣り合っていない。何より ザビカがこの条件を受け入れる必要が無い上に やろうと思えば 他の幹部からの協力を仰いで情報を吐かせる事も可能かも知れない。…然れども この男は違った。
此奴は 開発部門の幹部だぞ?
そうして 二人の話し合いが始まったのだった。条件を飲むことを取引に。武器製作を…。
──Side ルキア
遠くから…彼の声が聞こえる。…居るみたいだね、 綴くん。私が君の所に来たのには理由がある…。早く 彼の元に行かなくては。
そう言って、綴くんは私の手を引いて 情報部門幹部室へと 向かっていった。いつ見ても思うけど…この部屋はメカニックだ。無機質な音が響いている。
この革製のソファ。こんなこと言っちゃあいけないけど この部屋には似合っていないと思うんだ…。言えないケド。
私は苦笑いをするしかなかった。だって、そんな大事では無いのだから。君から見たらきっと、下らないと思ってしまうだろうか?
彼は なんだ そんな事か と言わんばかりの笑顔を作った。柔らかい笑みだ。
ジー…ジジジ……
ガガガッ…ピッ!!
すぅ…と大きく息を吸う。深呼吸だ。きっと、首領から言われた通りにする事で気持ちを保てると考えている…そんな所であろう。
顔にぎゅっと皺が寄る。ギリっと 歯軋りの様な音も聞こえた様な気もする。
今度は舌打ちも聞こえた気がした。
いつの間にか ザビカの顔がメロメラの直ぐ近くまで肉迫していた。其れはもう、目をキラキラと輝かせながら。その姿は宛ら クリスマスプレゼントを開ける子供の様であった。
だから… と、ザビカはメロメラの背中を押して 出口まで連れ出した。
押されながらチラチラと後ろを向いてザビカの顔の様子を伺う。本気みたいだ。鶴の恩返しみたいなシチュになってきてしまった。
───Sideルキア 再び
ツー…ツー…
ザザザザザ…ガピー…
不安そうな言葉とは裏腹に、綴くんの表情はやけに明るかった。研究者らしい 未知への興味に満ちた顔。こうなってしまっては、彼を止められるものは居ないな…私…どうしようか…。
この言い回しは恐らく 一旦出ていって と言うことだろう。
バタン……
製作所の直ぐ近く、壁に凭れて微睡みかけていた彼女の目を覚ましたのは 紛れもない、開発部門幹部の声であった。
排煙のニオイに、燃えたニオイ…彼女の大好きな香りのその先にある物の姿が今、お披露目される…。
メロメラの身長179cmに対する、其れよりも大きい 約2m程のハルバード。之は、平々凡々な代物ではない。彼女の為だけの特注品だ。この武器には炉が組み込まれており、見た目は香炉に瓜二つである。
口元を手で覆った。
ぎゅっと、ザビカの手を握る。感動の想いを態度で伝え 感謝を示す為に。
コツコツコツコツ……
ギュッ…
ガバっと、我に返ったかのようにルキアから離れる。嬉しさのあまりに、安心感が溢れたばかりに…故の行動である。
チラリと、ハルバードに視線を移す。
ドドドドド…
その音はどんどんと、大きくなっていった。足音と認知出来る様になるまで そう時間は掛からなかった。その正体を視認するのにも、そう時間は掛からなかった…。
その後、どうなったのかは語るまでも無い…。
綴は何故情報を知っているのかと問い詰められ、其れを弁明するルキア。より熱が入ってしまい武器の改造に着手し始めるザビカ…諸にカオスである。
……チャンチャン

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!