わかるよ。
私も父さんを失ってから毎日、鏡で同じような顔を見た。
こんなに悲しくて寂しそうな顔してんの、誰?
あ、私…か。
こんなの見られちゃいけない。
私は組を引っ張る立場の人間。
弱いとこなんて見せちゃいけない。
だから必死で、隠してきた。
川西の目から透明な筋が流れ、耳を通り、地面に濃いシミを作った。
川西は腕で目を覆い、声を押し殺して泣いた。
誰からも、愛されない。
川西が今まで背負ってきたそれは、私よりもきっと、何倍も苦しくて、辛くて、寂しかっただろう。
今なら少しだけ、蓮が言っていたことが、わかった気がした。
自分には、愛してくれた人がいた。今も愛してくれる、守ってくれる人がいる。常に隣には誰かがいて、慕ってくれる部下もたくさんいる。
だから、川西の気持ちなんて、わかんない。
けど、わからないからこそ、寄り添いたいと思える。
助けたいと、思える。
けど上手く伝えられないから、相手から聞けば、無責任で、知ったような口になる。
私も、そう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!