私は意を決して、瞳をそっと閉じた。
目を開いている時よりも、
耳から拾う音が一層研ぎ澄まっているように聴こえる。
30m右側、インクを踏む音、
21m左側、地を蹴りあげる足の音、
10m正面、傘を握る音、
5m──────攻撃が来る!!
まずい───そう思って目を開ける。
するとそこは、宙だった。
黒インクをぶちまける彼女の全身が上から見えてしまうくらいの高さ。一応アリスの腕が私の腰に巻きついていて、落ちないように支えてくれているらしい…が。
…いつの間に空中に?
アリスとアリスに抱えられた私は、そのまま重力に任せて落ちていく。必死にアリスにしがみつきながら、ひとりでずっと呟いているアリスに声をかけた。
ジャンプの高さは軽く見ても建物3階分くらいだろう。…やはり彼女は常人ではないと改めて思い知らされる。
アリスはさぞ当たり前のように重力の衝撃を和らげ、すとん、と私を抱えたまま着地した。
──────その瞬間の攻撃をアリスは見逃さない。
着地したその隙を狙ったチーターの攻撃をするりと避け、後ろに飛び距離をとる。私を抱えながら。
アリスは私を抱えたまま、
満面の笑みで私の言葉を遮る。
その言葉も千怜と同じで、
驚きを隠せなかった。
アリスは笑顔のまま続ける。
そんなの一目瞭然。カサは1体1を強みとするブキだ。
これは、いいニュースなのだろうか。
アリスはふっ、と微笑む。
さすが、世界1位保持者。そんなことも容易くこなしてしまうというのだろうか。アリスは私を優しく地に下ろし、右手のH3チェリーを握りしめ、キキョウさんに向かって走り出した。
チュイン───!!
その音は、すぐに鳴り響いた。H3特有の"あの音"。1発も外さず、3発命中した時にのみ鳴る───
倒れたキキョウさんを悲しそうに見つめた後、アリスはこちらを振り向いて微笑んだ。
キキョウさんの今にも消えてしまいそうな細い声。アリスを呼ぶ声だった。アリスはキキョウさんのもとに駆け寄り、しゃがみこむ。
私たちは目を合わせる。
───ああ、この言葉で、
"最悪の可能性"が生まれてしまったのだ。
NEXT▶第19夜「深更」














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。