リコは被っていたお面を、
口が少し見えるくらいまでずらす。
一気に静まったこの場を満喫するように微笑み、
ゆっくりと息を吸って───言い放った。
その馬鹿にしたような話し方が心底気に食わない。
何の力もないお前が、自分一人でなんでもできると本当に思ってるのかァ?──────3年前、あいつに言われた言葉が一字一句はっきりと頭の中で再生される。
何事かと集まってきたイカタコ達、そしてアリス、かぎ、つぐの、息を飲む声が聞こえた。
私はもう"何の力もない私"じゃない。
私はつぐに耳打ちする。
パァン───
乾いた音が静まり返ったこの場に響いた。
私はバランスを崩して、そのまま尻もちをつく。
自分の右頬が───ジンジンと痛んでいた。
地べたに座る私の前に立つ、つぐがはっきりと言い切った。私はつぐにぶたれたんだと、今更気づく。
いつもはチーターに向けているはずの、
つぐの怒りの灯った瞳が、しっかりと私を捉えていた。
もう…手は借りない?
なんで?私は───悪くないでしょ?
つぐの言っていることがわからない。
私はつぐを守るんだって。
つぐだってそう言ってたじゃん。なのに───?
震える唇から、微かにこぼれ落ちた言葉。
つぐは表情を一切崩さずに、冷たく言い放った。
私は、チーター達と一緒?
つぐは私に背を向け、リコと対峙する。
その小さな背中がとても、怖いと思った。
私なんか、チーターの中の1人に過ぎない、
同罪だ───と言われているようで。
暗闇の中、たった1人置いていかれるような気がして、手を伸ばす。
私のその手は───真っ黒に染まった。
その光景が、信じられなかった。
呆然と立ち尽くすイカタコ達。
息を飲むかぎとアリス。
本当に楽しそうな笑顔を浮かべるリコ。
苦しそうな声と共に、前へ倒れていくつぐ。
真っ黒なつぐの背中。
つぐへ伸ばした私の手に滴る───黒いインク。
どさっ、という音と共に、かぎとアリスが走り出す。
2人は動揺と恐怖を浮かべた顔で、
倒れたつぐに駆け寄った。
目の前の状況を理解した途端、
心臓がどくんどくん、と動き出す。
上手く、呼吸が出来ない。
私に、黒インクを使う力があったなんて。
その力で───つぐを傷つけてしまったなんて。
そんなこと───!!
倒れたつぐは、肩で苦しそうに息をしていた。
はぁ、はぁという、か細くて小さな子供の声が、
微かに聞こえる。
リコはこれが見たかったと言わんばかりに、
悪笑を浮かべ、あははっ、と笑い続けていた。
こいつのせいだったのか、なんて
そんなこと気にしている余裕は無かった。
私の目に映るのは、倒れたつぐと、自分の手。
真っ黒な闇に染まった、自分の───
周りのイカタコが、私を非難し叫び出す。
こいつチーターだ、あんな小さな子供を…、酷すぎる!!…
そんな声が、重荷になって私にのしかかる。
自分の犯した罪を再認識させるかのように。
私がチーター達と同じだと…認めさせるように。
12歳の子供のか細い声は、
闇に溶けだし掻き消されていった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!