ぴたりと足を止めた。
一理あるけどそこまで説いてほしかったわけじゃ...うん。
テレビに向き直り、ヒロインのトーニャが叫ぶ直前で一時停止していた映画を再生する。
すると、少しばかり口を尖らせた弟が私の左隣に座った。
***
映画鑑賞を再開して3分、私の寝間着の袖が左側だけ伸びるどころか千切れそうだ。
無論、シックスパックがご自慢の弟が引っ張っているからである。
あれだけ言っときながら、結局怖いんじゃん。
てか、か弱いヒロインのトーニャが主人公のダグラスに引っ付くのはわかるよ?
でも握力ゴリラの弟が終始私にひっついてヒロインポジションに落ち着くのはちょっとよくわからない。
試しに弟の左側、誰もいないはずの方からつっと弟の服を引っ張ってみると、案の定肩を揺らして飛び上がった。
そういえば昔、視聴者から寄せ集めたホラー動画を放送する番組を見て、眠れなくなったんだ。
しかも運が悪いことに次の日はお父さんとの訓練の日で、でも二人とも寝不足でダメダメで、大目玉食らったんだっけ。
明日も学校で早いし、このまま怖くて寝れないとかになられたら困るな。
顔を覗き込みながら尋ねると、弟は小さく首を振る。
どうやらそれは嫌らしい。
こんな時だけ意固地になるなよお父さんそっくりだな。
元はMサイズなのにね。
すると弟は服を掴むのをやめて、代わりに私の左腕にぎゅっと抱きついてきた。
もしこの映画の第二弾があるならヒロイン枠いけると思うよ、君はトーニャになれる。
___ようやく後半に差し掛かった、その時だった。
ぺたり、という足音が、再び耳に飛び込んできた。
映画が静かなシーンだったから、鼓膜にまとわりつくようにその音がよく聞こえて、揃いも揃って肩をビクつかせる。
作り物の世界は大丈夫でもリアルで起こると怖いのだ。
___じゃあ、いったい誰が。
私たちは青ざめていく互いの顔を見つめ合う。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。