第263話

No.263
10,883
2023/01/29 02:30
あなた
焦凍、こういうの苦手?








ぴたりと足を止めた。







轟焦凍
怪奇現象なんて科学的根拠のないハッタリだろ
あなた
あ、そういう考えの人?
轟焦凍
人間の脳は点が3つあれば人の顔に見えるくらい単純だ。特に恐怖を感じている時は幻覚・幻聴を引き起こしやすい。もっとも、幽霊なんかよりも生きてる人間の方が時に非情で残忍でおぞましい一面を持ってる








一理あるけどそこまで説いてほしかったわけじゃ...うん。







あなた
なんか冷めてる。つまんない








テレビに向き直り、ヒロインのトーニャが叫ぶ直前で一時停止していた映画を再生する。





すると、少しばかり口を尖らせた弟が私の左隣に座った。









***









映画鑑賞を再開して3分、私の寝間着の袖が左側だけ伸びるどころか千切れそうだ。





無論、シックスパックがご自慢の弟が引っ張っているからである。





あれだけ言っときながら、結局怖いんじゃん。





てか、か弱いヒロインのトーニャが主人公のダグラスに引っ付くのはわかるよ?





でも握力ゴリラの弟が終始私にひっついてヒロインポジションに落ち着くのはちょっとよくわからない。





試しに弟の左側、誰もいないはずの方からつっと弟の服を引っ張ってみると、案の定肩を揺らして飛び上がった。





そういえば昔、視聴者から寄せ集めたホラー動画を放送する番組を見て、眠れなくなったんだ。





しかも運が悪いことに次の日はお父さんとの訓練の日で、でも二人とも寝不足でダメダメで、大目玉食らったんだっけ。





明日も学校で早いし、このまま怖くて寝れないとかになられたら困るな。







あなた
見るのやめる...?








顔を覗き込みながら尋ねると、弟は小さく首を振る。





どうやらそれは嫌らしい。





こんな時だけ意固地になるなよお父さんそっくりだな。







あなた
でも私の寝間着が袖だけ3Lサイズになっちゃうよ








元はMサイズなのにね。





すると弟は服を掴むのをやめて、代わりに私の左腕にぎゅっと抱きついてきた。





もしこの映画の第二弾があるならヒロイン枠いけると思うよ、君はトーニャになれる。





___ようやく後半に差し掛かった、その時だった。





ぺたり、という足音が、再び耳に飛び込んできた。





映画が静かなシーンだったから、鼓膜にまとわりつくようにその音がよく聞こえて、揃いも揃って肩をビクつかせる。





作り物の世界は大丈夫でもリアルで起こると怖いのだ。







あなた
...あんたここ来る前、誰かとすれ違った?
轟焦凍
いや、すれ違うこともなかったし、誰もいなかったぞ








___じゃあ、いったい誰が。





私たちは青ざめていく互いの顔を見つめ合う。

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