毎日、それなりに充実していた
友達は多い方ではなかったけど、
親しくしてくれる人もいて
学校に行けば友達がいて、
家に帰れば家族が暖かく迎えてくれる
何一つ、不便なんてなかったのに
突然、癌に罹った
脳の一部にできる、浸潤しやすい癌で
すでにステージ4、って
何も不自由なんてなかった
気づきもしなかった
夢か何かを見ているようで、
それなのに、目の前に佇む医師の表情は
これまで見たことがないほど暗かった
その表情が、夢じゃないって突きつけてくるようだった
綺麗な看護師さんがお医者さんと交代して、
入院の説明や部屋の仕様を紹介してくれた
長く長く、白い廊下を通る
健康優良児だった私は、
こんなところドラマでしか見たことがなくて
やっぱ、なんか現実味が湧かないなぁ
一年後、私がこの世にいないなんて
618、と書かれた札が付いている
男女で相部屋か、そんなことあるんだ。
と、言われても、だ。
いきなり一年後に死ぬ、なんて言われて
入院させられて、私もいっぱいいっぱいだ
看護師さんはくるりと踵を返していってしまう
私は、その背中をぼーっと眺めていた
ただでさえ、余命が言い渡されたばかりだというのに
男性と相部屋、仲良くしてやって欲しいだなんて
消毒液のような香りが漂う病室の扉を、
そっと握り、開いた
返事は、ない
病室の中は綺麗で、誰も住んでいないようだった
ただ、ぴっちりと閉ざされたカーテンだけが
世界の何かを遮断しているようで。
とても、話しかけられるような雰囲気ではなかった
薬は目の前で飲まなきゃいけないみたいで、
どの薬にどんな作用があっていつ飲むのか教えてくれた
…けれど、全く覚えられない
看護師さんが立ち上がって、カーテンの方へ向かい
閉ざされたそれをシャッ、と勢いよく開けた
そこには、窓の外を眺める綺麗な男の子がいた
その人は、とても綺麗だった
柔らかそうで綺麗な黒髪、病的に白い肌
形の整った唇と、その近くのホクロ
それから、シュッと通った輪郭に
消えてしまいそうな儚さを纏う瞳
紡ぐ声は低くて綺麗で、少し切なさを帯びていた
差し出された薬を、慣れた手つきで取り出して飲み込む
その仕草さえも美しくて、見惚れてしまうほど。
看護師さんが帰った途端、
シャッと音を立ててカーテンを閉められた
寂しい気もするけど、しょうがない
距離を詰めたいなら急にグイグイ行かない方がいいし
やることがなくて、ベッドに横になり天井を眺めた
何もかも急すぎて頭が追いつかない
それなのに
死ぬんだ、ってことだけは冷静に理解できてしまって
残された時間の短さに押しつぶされそうな気になる
ふと、思っていたことが溢れた
17年間しか生きてない、まだまだこれからなのに
こんなにすぐ死を受け入れないといけないなんて
急に怖くなってきて、涙が出そうになったそのとき
突然声をかけられた
びっくりして声のする方を見ると
さっきの綺麗な人がいた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。