第144話

家族
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2023/11/09 16:34 更新



楠井夜
犠牲を払う必要なんてなかったはずだ!
楠井夜
こんな事しなくても!個性が無くなったところで犯罪は減らない!
お父さん
そうだ。犯罪は減らない
お父さん
でも、個性による犯罪は減るだろ




父さんの言っていることが全て間違っているのか、と言われると否定できない





確かに個性が消えれば個性による死はなくなる




でも、逆に個性で助かる命だってあるはずだ




そんなの、どちらも間違ってるなんて言えるわけない




俺だって小児科で働いてヴィランによって怪我をして怪我を負ったり、亡くなった子供を何人も見てきた




その度にヴィランを恨んだよ


なんでたった一人の為の犯罪で、罪のない人が命を落とさなくちゃいけないんだって



ヴィランがいなくなってそんな被害が無くなるのも悪くないかもしれないけど





それ以上に、今こいつがしている事が許せない


お父さん
お前は今まで何をしてきた?
お父さん
あぶくを守る為に最善を尽くした?
お父さん
あぶくを守る為に頑張ってきた?
お父さん
なら、今そこに倒れてるあぶくはなんだ?
お父さん
守れてないじゃないか





お父さん
お前は所詮医者だ
お父さん
ヒーローや呪術師なんかになれるはずがない
お父さん
気が済んだのならさっさと目の前から消えてくれ
お父さん
お前はあぶくの邪魔をする
お父さん
目障りだ






そうだ





俺はあぶくを守ってきたつもりだったけど、本当はそうではなかったらしい



今ここであぶくを守れていない事が事実を裏付ける




嫌んなるわ



今まで五条さんや朔太さんに助けられて、面倒を見てもらってきて、強くなったつもりでいた



でも本当は全然そんなことなくて、俺はヒーローでも呪術師でもない医者に過ぎない



逃げ出したい



今ここで全てを投げ出して泣いてしまいたい



もうやめだ、って全てを投げ出せば俺は多分全てにおいて諦めがつくんだ


家族にも、この世界にも、俺の人生にも諦めがつく




俺はここで人生に終わりが来てもいいと思う



ただしそれは、俺が大切にするあぶくや、勝己達、小児科の子供達、皆が安全に暮らして行けるのなら、こんな俺っぽっちの命幾らでもくれてやる



でも、ここで俺が全てを投げ出したとて、世界が平和になる訳でもないし、増してやあぶくの傷口が塞がるわけでも、オールフォーワンが倒されるわけでもない



俺自身に五条さんや世界を救えるような存在意義はないから





少しでもいい未来を迎える為に、医者らしく細部まで診てやる







楠井夜
お前みたいなカルテに残す価値もねぇ糞野郎
楠井夜
俺が治療してやる




そこからは自分が何をしていたのか、まるで自分自身が別人であるかのように、第三者視点から見ているように、世界が、自分がよく見えた




父さんの個性の裏を見て動き、その度に俺の記憶の中にある朔太さんの技、悟さんの体術と術式の応用術、ホークスの個性に活用法を繰り広げた



思うように動ける喜びの裏には必ず怒りがあって、



いくら父さんに攻撃を入れても個性で弾かれることに苛立ちを覚えながら



ただただ、気が済むまで動き回った






10分くらい経った時だろうか、どこからか銃声が聞こえたかと思えば、同時にそれは俺の腕へ当たった




痛くは無い、





当たったものを拾い上げると、父さんはそれを見て『解薬』と言い放った


お父さん
これで個性は使えない
お父さん
どうする?




なるほど




俺が薬を拾い上げたところで解薬って言うことで、手に触れている薬は溶け、薬の効果が発動する訳だ



流石、とも言える






だが俺はそれを聞いてポッケに手を突っ込み口角を上げた
笑みがこぼれそうになるのを必死に抑える








こいつは、やはり人の成長を知らないんだろうな







俺が、あぶくと離れ離れの数ヶ月間何もしてないはずがないだろう



この俺がただただ無駄な数ヶ月間を過ごしていたはずがないだろう







俺はあの数ヶ月、あのくらい部屋で、母さんが作った薬の解毒剤を作っていたんだ






結果、奇跡的に対となる薬を作り出すことには成功はした


が、薬が聞くまで5、6分ほどかかってしまう




それまでは個性が使えない



薬を口に放り込み、また立ち上がった
楠井夜
野菜が美味しくなければ、野菜炒めも美味しくない
お父さん
なんの事だ


楠井夜
これって続きがあるんだよね










全身が痛い、寒い、力が上手く入らない



今何が起きてる?



今ここはどこだ?



どれくらいの時間が経ってる?




この寒さからして、自分自身大量の血流してるな


どっか怪我してんのか




足首……は、痛いけどまだ何とかなる







頭も打った感じだけど、特に意識とかも異常なし




一番重症は、多分、お腹の左側に空いてるであろう大きな穴




そろそろ止血しないと貧血で死にそうだけど、あと40分ちょっと、いや、1時間弱は持つか




自分で自分を診察し終わったところで現状把握を行った




地面の揺れ方からして、多分戦ってる



お兄ちゃんと、お父さん……かな



尖鋭……は起きてないことを祈るしかない




私は果たしてどれくらい気絶してたんだろう


数秒ならまだしも、数十分もなってると私も、お兄ちゃんも色々やばい




動こうにも、貧血と怪我の痛みのおかげで起きられないし力が入らない





とりあえず目をうっすら開けてみると、少し離れたところにいるとてつもない速さと技を繰り広げているお兄ちゃんがいた




物凄く速くて、私なんかとは日になならない、身体の作りをよく理解している動かし方だ




加勢に行きたいところだけど、体が上手く動かなくて、体のどこにも力が入らない



ただただ見てることしか出来ない私は、もういいか、なんて半ば諦めていた







だって私は、今回こそ本当のヴィランになってしまったのだ



ヒーローなんかとは程遠い




自分のお母さんを殺しておいてまたこの上にお父さんを殺すだなんて無理だ




頑張ったところで私は私で


みんなの為だなんて言い訳をして、何回も何回もみんなを危険な目に遭わせて


今回だってどうにかしてお母さんを助けられたはずだ


殺す必要なんてなかった





なのに





自分自身がやっぱり汚く見えて






もう、嫌だ





消えてしまいたい






もう死んでしまいたい





楠井 夜
野菜が美味しくなければ、野菜炒めも美味しくない




ああ、そんなこと良華先輩が言ってたな





この言葉が私の体術を磨く希望になったんだ








あれ、なんでお兄ちゃんがこれ知ってるんだろう




これも朔太さんの受け売りだったのかな





まあ、もうどうでもいいんだけど
楠井 夜
これって続きがあるんだよね







楠井 夜
調味料に負けない野菜が出来たんだ







楠井 夜
もう最後の仕上げしてもいーんじゃねーの?!









その時、キーーーンという耳鳴りがした




自分はとうとうおかしくなったのか




見えるはずがないのに




なのに、朔太さんの影が見える



もちろんハッキリではなく、面影というのだろうか




なぜか、どこか、お兄ちゃんがお兄ちゃんでは無いみたい










その面影を見せたまま、お兄ちゃんはまた別の呪具を取りだして、お父さん達の元へと走り出した







なんで、お兄ちゃん




もうやめて





そんなに攻撃しても




どんなに頑張っても




あいつには勝てないんだ






個性複数持ちのほぼオールフォーワンみたいな野郎には




どう頑張っても、体術は当たらないし、呪具も当たらない


増してや私たち二人の個性では到底かないっこない



効くと思ってた領域展開だってもう出せない




無理なんだ







無理なんだよ、お兄ちゃん











そんな時、お兄ちゃんの蹴りがいいタイミングでお父さんの横腹に入った




片膝を着いたお父さんにチャンスと思ったのか、お兄ちゃんは攻撃の速度を早めた





息を着く暇もなく、ただただ攻撃を入れてるお兄ちゃんは、これが朔太さんなんだって朔太さんが闘ってる姿を見た事のない私に思わせるほどだった







しばらく攻撃を入れ続け、お父さんがボロボロになった時、今度はお父さんの身体に異変が起こった





お父さんが何かをしたかと思えば、いつかのハイエンド脳無のように姿はみるみるヴィランらしい格好に変わった




あれでもお父さんは全力ではなかった






絶望を感じていると当時にお兄ちゃんが攻撃を受け、体の至る所に怪我をおった









何が起きたのか



そんなこと考える暇もなく、俺は地面に叩きつけられた





受身を上手くとれなかったか?


右腕ポッキリ折れちゃった



それに、咄嗟に手を出したから、右手の指、2、3本も折れてる





呪具を持つにしても、反対方向に指が曲がってるお陰で持てない




包帯かなんかで固定出来ればいいんだけど、まさかそんな時間は無い




左手で戦うしかない





ってゆーかそもそも、父さん今まで本気じゃなかったのか?



嘘だろ





今まで守備に徹してたのはそういうことか?




これから攻撃バンバンしかけてくるってことか?







まぁ、ここで絶望したところで勝てるわけじゃないんだから、俺はどうにかしなくちゃならない





左手に呪具を持ち替えた途端、俺は膝を着いて、口から血を流してた










なんだ、何が起こった


今の速いのはなんだ






また気づけば左手に痛みを負って、今度は背中に痛みを受けてた





両膝を着いて、何が起きているのか分からない俺は立ち上がれなかった





今の速いのは間違いなく父さんだ





なんであんなに早く動けるんだ







立ち上がろうとした瞬間に、いい所に攻撃が入り、口からも追加の大量の血が流れた













お父さん
知っているか?
お父さん
どれだけこの計画に全力を捧げていたのか
お父さん
あぶくの力がわかってから、あいつの力を無駄にしないように何でもした
お父さん
医者として極めるために、医者としての英才教育を受けさせた
お父さん
その度にお前が邪魔をしてきたな




お父さん
昔からお前が邪魔でしか無かった
お父さん
母さんはお前のことが気に入ってたから良かったものの、母さんがいなかったらとっくにお前のことは殺していた
お父さん
それにあの爆豪とかいう餓鬼
お父さん
あいつのお陰であぶくは変な道に進もうとしたんだ
お父さん
ヒーローだなんてなれる訳が無い
お父さん
だから足を折った





お父さん
あいつに後遺症が残るよう骨を折って、しばらく気づかないように仕向けた
お父さん
案の定あいつは生活面では馬鹿だから、気づくのは遅れ、足に後遺症を持った
お父さん
なのにヒーロー科なんかに進みやがって



お父さん
全ての計画が水の泡になるかと一時は肝を冷やしたが、今見てみろ
お父さん
あぶくのあの顔は諦めてる顔だ
お父さん
このまま死のうがどうでもいい
お父さん
あいつが持ってる薬の情報さえ手に入ればゴミだ







お父さん
お前には散々邪魔されたからな
お父さん
タダで済ませる気は無い





俺の元から離れ、1歩、1歩とあぶくの元へ向かう父さんの足を少しでも止めたくて、



咄嗟に痛みが走る手で父さんの足首を掴んだ




もちろん振り払われた







全身が痛い





回らない口を開いた
楠井夜
父さん
楠井夜
俺、父さんを尊敬してたんだ





楠井夜
いつも病院に来る人は
楠井夜
辛そうな顔をしてて
楠井夜
でもそんな患者さんに



楠井夜
『大丈夫』って声をかけて
楠井夜
父さんのその言葉だけで何人もの人が安心できて
楠井夜
勿論俺も



楠井夜
まだあぶくが産まれる前とか、あぶくがまだ本当にちっさかった時
楠井夜
俺が医者に興味を持って
楠井夜
何か学んで、父さんにそれを見せるたりするとさ
楠井夜
よくやったな、
楠井夜
すごいな、
楠井夜
って頭撫でてくれただろ?







楠井夜
あれがめちゃめちゃ
楠井夜
嬉しかったんだ




楠井夜
尊敬してるスゲェ人が俺を応援してくれてるみたいで
楠井夜
他の人のどんな言葉よりも
楠井夜
オールマイトが助けに来る映像なんかより
楠井夜
俺の励みになったんだ








楠井夜
父さんはさ、俺の事要らねぇと思うかもしんねーけど
楠井夜
俺は今でもあんたの腕を尊敬してるよ
楠井夜
今だって、あんな短時間で、
楠井夜
しかも見ただけで何がなにか全てわかるんだろ?





楠井夜
俺にはできねぇよ。そんなこと








楠井夜
あぶくも高校生なって、ヒーロー科で頑張ってんだ
楠井夜
小学校も中学の時もまともに体育参加してなくて
楠井夜
持久走なんて1キロも走れなかったあぶくが
楠井夜
今じゃ何キロも走り回ってる




楠井夜
おれさ、こんなあぶくみて感動したんだ、マジで









楠井夜
俺は、この間まで
楠井夜
家族なんてバラバラになってもいい
楠井夜
あぶくさえ守れれば、それでいいと思ってたんだ




楠井夜
そりゃ、お前らのことを許そうとは思わない






楠井夜
でも、俺は
楠井夜
心のどっかで
楠井夜
家族がまだ続いてて欲しいって思うんだ
楠井夜
物理的じゃなくていい
楠井夜
まだこれから成長していくあぶくの心の支えになれる
楠井夜
あぶくが困った時に足枷にならないような
楠井夜
そんな家族がいい







楠井夜
家族を思い出して、嫌な思い出しか出てこないことが嫌なんだ
楠井夜
まだこれから長いこと使っていく『楠井』って名前が
楠井夜
あぶくにとって少しでもいい物になるようにしたいんだ









楠井夜
父さん






楠井夜
個性犯罪による死者数抑えるための対策
楠井夜
一緒に考えよう





楠井夜
俺もこの短期間で沢山学んだ





楠井夜
少しは父さんの力になれるはずだ






楠井夜
俺もあぶくも手伝うから、
楠井夜
今も、未来も守れるような対策立てようぜ



な、父さん






そういう前に、目の前にいた父さんに向かって俺の横を銃弾が通った






まずい、父さんに当たる












間に合わない




楠井あぶく
ソリッドシャボン









弾丸の前にシールドのように張ったのは肩で息をしているあぶくだった



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