神様として目覚めた日の翌朝。
混乱もあったけど、最低限の状況整理はできた。
ボク、『博麗秦』はこの博麗神社の神だということ。
霊夢は昔からの知り合いとして接してくる。
つまり、この世界のボクとしての記憶や人間関係は、前々から存在していたということ。
矛盾が出ないように夜の間に記憶整理をしようとボクは決意した。怪しまれたくないし?
この世界は幻想郷に似てるけど、おそらく同じ名前、つくりなだけの違う世界だ。
ボクの知っている幻想郷には、博麗秦という人物は存在しないし、ね。
もちろん、誰にも話すつもりはないけど。
神社の縁側に腰掛けて、朝の空気を深く吸う。
驚くほど澄んでいて、胸の奥まで透き通るみたいだ。
縁側に座り、緑茶を啜っていた霊夢が、すっと目線だけ寄越す。
巫女服の袖が風に揺れて、赤が朝日で少し明るく見える。
理由も聞かず返事をする霊夢。
ボクがボクになる前のボクも、突拍子もなく散歩へ出掛けていたのだろうか。
そんなことを思考しながらボクは答える。
霊夢は頬をかきながら、ほんの少し困ったように笑った。
昔から__
この世界の“秦”は、霊夢のことをレイと呼んでいた。
ボクが言ったその言葉は、自然と溢れたわけじゃない。
ボクがこの世界で生きるために、あえて合わせてるだけだ。
……でも、それでも。
霊夢がそんな風に言って笑うと、ボクの心は自然と軽くなる。
きっと、この世界の“博麗秦”は、本当に霊夢にとって特別な存在なんだろう。そしてボクにとっても__。
軽く手を振り、石段を降りていく。
一段、また一段。
ここを下りることが、ボクにとっては新しい世界への入り口みたいで――。
胸の奥が、不思議と高鳴った。
幻想郷の空気を纏って歩く。いや、正確に言えば宙に浮いているのだが。
鳥の声。
木漏れ日の揺らぎ。
どこか懐かしくて、だけど初めての匂い。
ボクはゆっくりと林道を進む。
もっと派手だったり、もっと不思議だったり、もっと騒がしいと思ってたのに。
実際は、思っていたよりも静かで、綺麗で、どこか現実の田舎道みたいだ。
本物の風、本物の土、本物の木漏れ日。
全部、ボクが知ってた幻想郷とは違う。
似ているけど、似ているだけの“別物”で、現実なんだ。
ワクワクと不安が、胸の中でぐるぐると混ざり合う。
軽く笑い、歩を進める。
そう、これは 「異境逍遥」
この世界を歩く、旅の始まり。
そして、これからボクは、博麗 秦となってから初めての“異変”に出会うことになるのだと、このときはまだ知らなかった。
異境逍遥(いきょうしょうよう)
意味:見知らぬ世界を自由に歩き回ること
クリスマスプレゼントだぞ☆ByIRIS
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!