ふと、魔人に言われた言葉を思い出した。
確かに、“誰かのために動くこと”は
“大切なこと”なのだろう。
だけど、やっぱり私にはそういうものだという
ことしかわからなくて、少し胸が苦しい。
きっと私はこの先もずっと
こんな私から変わることは出来ないのだろう。
私は“光の世界”に向いてない。
コナンくんが身の危険を承知して暗殺を阻止したことが“眩しい”と感じてしまうほどに私は狂っている。
青い光は眩しすぎて、“怖い”と感じてしまう。
ドンッ!!ドンッ!!と“扉をノックする”
というよりかは扉を破りそうな音が聞こえている。
怒鳴るような口調で脅しては扉を叩き、
扉を叩いては怒鳴ってを繰り返している。
大きな音が頭に響いて少し頭が痛い。
今は鍵をかけているけれど、
開けられてしまうのも時間の問題だろう。
出入口の扉はひとつ。
だけど、それは塞がれてしまっている。
なにも知らない無垢なふりをして「こんにちは!」
とかいって見逃してもらえるわけもない。
となると、残された手段はひとつしかない。
私はコナンくんの手を強く握り、
そのまま勢いをつけて窓から飛び出した。
私は躊躇いなくそう告げ、
意識を空気中の酸素へ向けた。
雨粒が降っているせいで少し扱い辛い。
異能で空気中の酸素の結晶を作り出し、足場にする。
雨の日は酸素が薄いため、
然程強度のある足場は作れない。
そのため、私はビルに沿うように足場を作り、
強度の底上げを行った。
その時、パリーン!と足場の一部が割れる音と共に
シュッ!と私の顔の横辺りを何かが突き抜けた。
水の矢だ。恐らく、『水を操る異能力者』が
私たちに気がついて攻撃を始めたのだろう。
此処は遮るものが一切ないため、
相手にとって非常に狙いやすいのだろう。
早く敵の死角へ行かないと…!
いくつもの水の矢が斜め下の方角から
飛んでくるのを避けながら進む。
ビルの角を曲がれば安全だろう。
その時、シュッ!と水の矢が
方向を変えて私の頬を掠めた。
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なんとか無事敵の死角へたどり着いた頃には
私たちはかなりへとへとになっていた。
…こんな悠長なこと言っている場合じゃない。
まだあの演説者が狙われる可能性はある。
早く、対策を考えなければならない……
おかしい。耳に膜がかかっているみたいに
コナンくんの声が遠退いて聞こえる。
立ち上がろうとしても平衡感覚を掴めなくて、
そのまま倒れてしまった。
どうしよう。意識が遠退いていく。
まだ敵が、近くに…居るかもしれないのに……。
そんなことを他人事のように考えながら
私はいつの間にか意識が途絶えてしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!