入学式が終わった翌日、俺達のアパートに夏樹が来た。サークルをどこにするか決めたいからと三人で話し合うことになった。
俺とかぐやの関係はお互いに相思相愛とはいえ、以前と変わっていない。普段通りだった。十一年も同棲しているのだから、特に意識することはないだろう。
「まずは、勧誘チラシの束に目を通す必要があるな」
俺はそう言って、コタツテーブルの上に山盛りの勧誘チラシを眺めた。
これは骨が折れそうだ。
「何か面白そうかもしくは興味のあるサークルがあったら言ってくれ」
夏樹とかぐやは何に興味があるのか知りたかった。
「テニスはどうだ?面白そうだぜ」
夏樹は手で素振りをしている。シュッシュッと声まで出していた。
「テニスはやめてくれ、ナンパの人がいる」
夏樹から『誰だそれ?』と言われたが、あえて説明するつもりはなかった。
かぐやはクスクスと微笑していた。
「天文同好会はどうだ?春彦、お前にぴったりじゃないか」
夏樹からチラシを手渡された。
「彦星様のことを言ってるのか?悪いが、俺が敬愛してるのは彦星様で他の星のことは知らないぞ」
俺は星をみることは好きだが。それ以上に深く追求することはなかった。
「彦には織姫さまも敬愛してないのかしら?そういえば、入学式で織姫様を助けたものね」
あの時、かぐやがふてくされていたのは嫉妬していたと、今になって気づいた。
「織姫がうちの大学にいるのか!?」
「いや名前だけだと思う。彼女には力はないよ。それに織姫様がいるとは聞いたことがないからな」
「天文同好会は良いかもしれないわね。チラシを見てよ。キャンプとか天体観測とかバーベキューとかするみたいよ」
かぐやが説明したことは大きな文字で書いてあった。
この同好会の一押しなのかと思った。
「夏は良いな。冬は寒そうだな」
俺はかぐやの心配をしていた。俺にくっつきたがるほど、寒がりだからだ。
かぐやはげんなりした顔をみせた。
「かぐやに耐えられるかな?」
「だ、大丈夫よ」
「同好会の人数はどれくらいだろう?」
「実際、見学してみないとわからないわね」
どうやら天文同好会に話が進む方向になった。
「選び難いわね。こうなれば私が目を閉じて、選んだチラシにする」
「そんな決め方で良いのかよ」
なんてお粗末な話だと思ったが、正直に言えば、かぐやが見学したい所ならどこでも良かった。
そう言ったかぐやは勧誘のチラシを次々にゴミ箱へ捨てた。
残ったのは天文同好会だけだった。
「はい、目を閉じるわ。選ぶわね」
そういうことで、俺達は天文同好会に見学することになった。
「お友達はできるかしら」
「かぐやさん、俺はもう友達だよね?」
夏樹がどこか不安げに聞いてきた。
昨日、夏樹が堂々と話をしていたのが嘘みたいに思えた。
でも、かぐやと仲良くしたいのだろう。
俺からもかぐやのことを知って欲しいと思った。
「もちろんよ。だからいつでもアパートに来て欲しい。人が増えることは楽しいわ」
夏樹は『良かった』と胸をなでおろしていた。
俺も賑やかになるのに越したことはなかった。
それに俺は十年以上前の夏樹しか知らない、もっと夏樹と話をしたかった。
「ところで、かぐやさんの苗字はどうなってるの?今まで苗字がなかったよね」
「それはあれよ、竹取かぐやよ」
「えぇ!」
「俺も初耳だ」
「竹内かぐやよ」
「良い名前だなぁ」
かぐやの大学生活の目的の一つは友達作りだった。
彼女にとって良い友達ができるようにと俺は心から願った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!