静まり返った廊下を歩きながら悶々と考える。
ゾムを知るためには、まず俺自身もβの火事事件について調べた方が良いのだろうか。
それともβ国出身の商人を洗いざらい調べる…?
いや、それでは時間がかかり過ぎるし、そもそも俺一人じゃ調べ切れる自信が無い。
かと言って総統に頼むのも気が引けるし、第一それではゾムの身分までは分から_
噴火した勢いでそいつの胸ぐらを掴む。
動揺しながら汗を浮かべる鬱先生を数秒間睨み付けてから、俺は我に返る。
口角を上げながら手の力を緩めると、鬱先生は床に座り込んだ。
か細い声を上げながら震える鬱先生の傍にかがみ込む。
いつもの調子を取り戻した鬱先生を見て自然と笑い声が漏れる。
情緒が分からんわ、と溜息を吐きながら立ち上がった鬱先生は、その深い蒼をこちらに向けた。
みんなが施設に戻る中、俺だけが森の方へと駆けて行ったのを鬱先生は見ていたらしい。
それに、ここ最近俺が決まった時間に軍を抜け出している事を幹部らは心配しているのだとか。
首の骨を鳴らしながらそう答えると、鬱先生は一瞬眉根を寄せた。
昔から細かい事にまで口出ししてきて、自分より俺の事を優先しようとする此奴が気に入らなかった。
今だってそうだ。俺より何倍も顔を青くしておいて、自分は休まずに他の“幹部”の心配ばかり。
その憎たらしい表情を、威圧する様に目を見開いて睨み付ける。
鬱先生は俺を睨み返していたが、直ぐに顔を背けると小さく呟いた。
ただでさえお前考え事なんてしないんやから、と付け加えた鬱先生をじっと睨む。
その言葉に目を見開く。
いつからか、此奴は俺の事を相棒と呼ぶようになったが、その言葉に俺は何度も救われていた気がする。
俺が何か失敗した時も、此奴は相棒と呼んで、助けてくれた。
「相棒はそんな事しない…!」
いつだったか、俺がスパイだと怪しまれた時も、此奴だけは最後まで俺の味方でいてくれたな。
自身に決着を付け、鬱先生の目を見つめ返す。
俺は…初めから些細な事でさえ疑う性格だった。結局今でも信じた振りをし続ける事が多い俺だが、此奴に対しては真摯に向き合う事が多くなった気がする。
それ程此奴に関与されて、散々信頼関係を要されたから。
それでも、此奴の事を認めている自身がいる。
認めてしまった…と言うべきか、俺も此奴に堕ちたのかもな。
そんな事を足らない脳で考えるが、まずは答えを示すべきだと相棒に向き直る。
思えば、俺が此奴の事を相棒と呼んだのは初めてだったかもしれない。
相棒は目を見開いた後、嬉しそうに微笑んでくれた。
この事件に関わる事は、国家を敵に回す事になるかもしれない。
_総統を、敵に回す事になるかもしれない。
それを伝えた上での快諾。心底感心した。
まあ、あの総統がこんなくだらない事に手を回しているとは考えにくいが。
俺は再び、心強い相棒と共に廊下を歩き出した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。