キーボードを叩く音と、珈琲の香りが充満する真っ白な部屋に、一矢とエディはいた。
味気ない部屋に呼ばれた理由は不明。二人は何かをする訳でもなく、インスタントの珈琲をマグカップに注いでは飲み干していた。
二人の間に流れる気怠い雰囲気を払拭するかのように、部屋の扉が開かれる。
扉の向こう側には、秘書を一名連れた男――アレクシス大佐が立っていた。
アレクシスは黙ったまま、近くのソファーに腰を降ろす。
一矢やエディの言葉には一切耳を傾けるつもりはないと、明言されたような気がした二人は、ムッとした表情を隠さず彼と向き合う。
一矢は苛立ちながらため息をつき、アレクシスの隣に立っている秘書に視線を向けた。
――マリア・ベル中佐。彼女は人形のように整った表情を崩さずに、一矢を見つめ返した。
彼女は何も言わず、脇に抱えていたクリップボードを手渡してきた。
一矢は「どうやら伝わったか」と内心ほっとしながら、それを受け取った。
マリアは眉一つ動かすことなく、淡々と告げた。
彼女の目には一切感情が乗っておらず、仮面のように”取って付けた”ような違和感があった。
一矢の新しい機体「ET-01」。その名前を聞いた時、彼は妙に安心感を覚えた。
彼はこの感覚を以前も味わったことがある。
――ヴァーミリオンを乗機として与えられた時だ。一矢は「ああ、そうか」と一人頷くと、アレクシス大佐の脛をさりげなく蹴り飛ばしてから部屋を出ていった。
戦闘機が所狭しと並ぶ格納庫にて、一矢はコクピットに乗り込みシステムの最終チェックを行っていた。
大掛かりな改修が必要になるだろうと覚悟をしていたが、思いの外中身は従来の乗機と変わらず、事は順調に進んでいた。
一矢は機体の電源を落とし、狭いコクピットから身を乗り出し外へと出た。
皮のブーツがコンクリートの床を踏む軽い音が響き、彼はすっと地面に下り立った。
出撃までは残り三十分。そろそろパイロットスーツに着替えたほうが良い時間帯だ。
一矢は笑みも見せず、ロッカールームへと足を運ぶ。
傍から見れば、戦場に赴くことを自覚し覚悟を決めた兵士のようだが、彼の親友であり仲間のエディの目にはそう見えなかった。
一矢の表情は「無」に等しい状態で、目の焦点もあまり定まっていないように見える。
何よりも恐ろしいのは、彼の左手の動きが無意識の内に“操縦桿を動かす動作”を行っていることだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!