アイドルたちにチョコを渡すべく、ES中を歩き回り
これで10人目。
業者並みに詰め込まれた、全く同じチョコレートの包装たち。
量産するのに時間はかかったけど、
やっぱりみんなの笑顔を見ると用意して良かったと思える。
そ、そうだけど…なんでバレてる!?
だって、チョコの形が違うだけ。
特別に過剰なデコレーションは施してない。
それを数多くある義理チョコの中から見つけるって…。
キリッと桜河くんが椎名くんを睨むと、
椎名くんは弱々しく「なはは〜…」と笑った。
何としてでも、今日一彩くんに渡さなきゃ。
それなら早め早めがいいに決まってる!
桜河くんからの情報を元に、私はレッスン室の方へと急いで向かった。
ノックは三回。レッスン室のドアノブに手をかける。
この部屋には一彩くんがいて、
一彩くんに会ってしまえば、チョコを渡すしかないわけで。
それは即ち、告白を意味するもので…!!
いや、一彩くんのことだし、本命って気づかないかも。
でも、それならそれでいい。
義理だと思われても、受け取ってくれるなら…
手が汗ばんで、やけに滑るドアノブを握り留め
いつもより重く感じるドアを押した。
左からマヨイくんの分、一彩くんの分、藍良くんの分、巽くんの分
と渡していく。
なるべく態度は変わらないように、平然を装ったし。
一彩くんにだけしれっと本命を渡したこと
気づかれてないよね…?
各々が嬉しそうにチョコレートを見つめてくれる中。
ただ一人、一彩くんだけが不思議そうにチョコレートを見つめていた。
見た目、変だったかな?とか
チョコレートは好きじゃなかったのかな?とか
マイナスな方へと思考はぐるぐる回る。
少しだけ言葉を躊躇うものの、言いにくそうにする様子はなく
首を傾げると、あどけない眼差しで覗き込んでくる。
名前を呼ばれた藍良くんが反応する。
もしかして渡し間違えた…?なんて思って見ても
一彩くんが持ってるのはハート型のチョコ。
本命チョコだ、何も間違えていない。
うそうそうそ!?!?
思わぬ方向に誤解が進んで、開いた口が塞がらない。
一彩くんのバカ…!!!
なんて言えばいい?
もうこの誤解をとくには「本命です!」って言うしかないのかな…!?
言えないよ、そんなこと……
言えないから、チョコレートに頼れる今日を選んだのに。
もういいです、穴があったら入りたい…。
そもそも、バレンタインという文化に疎い一彩くんに
バレンタインで気持ちを伝えようとした、自分がバカでした。
恋に疎い一彩くんを好きになった時点で
期待は禁物って、何度も自身に言い聞かせてたもん。
でも、最後にこれだけ
私の精一杯を込めて言わせてほしい。
今すぐにでも沸騰しそうなほど、顔は真っ赤。
一彩くんの返事を待つ沈黙すら、耐えられなくて
「失礼しました!レッスン頑張って!!」と。
有り余った体内の空気を、勢いで飛ばした。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。