ベッドの上。
翔太の指先が、私の頬にそっと触れた瞬間。
微熱はあるのに、背筋だけがひどく冷たくなる。
怖い。
でも、離れたくない。
小さく呟いた翔太の声音は、泣きだす寸前みたいに震えていた。
謝りたいことも、言いたいこともいっぱいあるのに、
喉はぎゅっと閉じて言葉が消える。
翔太はゆっくり顔を近づけてくる。
部屋の空気が一気に熱を帯びた。
――コン。
唐突に、部屋のドアがノックされた。
翔太が反射的に距離を取る。
体温が離れていくのが、やけに切なかった。
『……俺。入っていい?』
低い声。
聞き慣れた、大好きな、でも今は苦しい声。
辰哉だ。
翔太は眉を寄せ、唇を噛む。
私は慌てて返事をしようとするけれど、声が出ない。
代わりに、ドアがゆっくり開いた。
辰哉が、部屋の中に翔太がいることを一瞬で理解する。
目が合った瞬間、空気が張り詰めた。
柔らかく笑うくせに、その奥で牽制し合う男同士の眼。
私の心臓は、ドンドンうるさく鳴り続ける。
辰哉は私に近づき、体温計を手渡した。
優しい声。
さっきまで隣にいてくれた温度。
翔太とは違うあたたかさ。
翔太が一歩、私に近づく。
辰哉も一歩、私に近づく。
気付けば、私は両側から挟まれるみたいに座っていた。
翔太が低く問う。
私の呼吸が止まる。
翔太が顔を歪め、ぎゅっと拳を握った。
辰哉が、私の手を取った。
翔太が、私の肩に触れた。
どちらの熱も、強くて
どちらの想いも、痛いほど真っ直ぐで。
二人の声が重なるたび、
胸の奥で何かが張り裂けそうになる。
私が選べば、片方を傷つけてしまう。
どちらの涙も、見たくない。
だけど――
私は震える声で言った。
……
二人は黙る。
苦しい沈黙が、部屋中に広がった。
だけど次の瞬間、
辰哉が静かに微笑んだ。
翔太も、深く息を吐きながら言う。
二人の視線がぶつかる。
火花が散るみたいに、熱い。
私の鼓動は、限界を超えているのに
息をすることすら忘れそうだった。
まだ結論なんて出せない。
だけど――
こんなにも強く求められている。
それが、少しだけ嬉しい自分がいる。
罪悪感さえ、恋に溶かされていく。
弱い声でそう言うと、
辰哉が私の髪を撫で、
翔太は私の額にそっと口づけた。
触れたら、終わり。
触れなければ、戻れない。
そんな夜の真ん中で、
私は二人の間に座り続けていた。
――明日、また傷つけることになるとしても。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!