梶原昂希side
球場に着いて、すぐ彼の姿を探す。
そっと声をかけると彼は顔を上げて、弱いけれど、俺にだけ向けるみたいな笑顔を見せた。
荷物を置いて来ようと、彼の元を離れようとする。
そこで言葉を切り、周りを気にするように視線を動かした。
そして俺の袖をそっとつまんで小さな声で言った。
そう言うと彼はほっとしたように微笑んだ。
彼の家。
ドアを閉めると、外の空気が遮断されて彼の緊張が静かに伝わってくる。
靴を脱ぐ時、彼は何も言わずに俺の袖をつまんだ。
その言い方が甘く、弱く、胸が締めつけられた。
廊下を歩く間も彼は俺の袖をつまんだまま。
歩幅を合わせるように少しだけ俺のほうに寄ってくる。
リビングに入った瞬間、彼はソファの前で足を止めた。
まるで、そこに座ったら胸の奥に押し込めていたものがこぼれてしまうのを自分でも分かっているみたいに。
彼は甘えられるタイプじゃない。普段は強がって何でも独りで抱え込む。
でも今はその強がりが薄い膜みたいに透けて見えて弱さが静かに滲み出でいた。
俺はそっと彼の横に立って少しだけ身体を傾けて声をかけた。
ただ、ここにいていいよという意味だけを含む。
俺が先に腰を下ろすと彼は倣うように隣に座った。
互いの肩が触れそうで触れないその距離が、甘えたいけど甘えられない…そんな彼の心をそのまま表していた。
俺は言わず、ただ彼のほうに身体を向けた。
彼は甘えられない性格だから、こっちから手を伸ばすと逆に緊張させてしまう。だから触れないまま触れられる距離だけをそっと差し出した。
その距離に気づいたのか、彼は躊躇いながらもそっと俺の手の甲に指先を触れさせた。
甘えるつもりなんてない。でも離れたくない。そんな弱さが、静かに伝わってきた。
聞くのが怖かった。でも聞かないわけにもいかなかった。
彼は唇を噛み、しばらく言葉を探していた。
やがて絞り出すように言った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。