写真を撮ることは好きだった
ライブの終わり
レコーディングの帰り
誕生日
何気ない昼ご飯
三人で過ごした時間は、ほとんどスマホの中に残っている
若井はよく変な顔をするし
涼ちゃんは決まって笑顔
僕は大体、目をつぶっている
そんな他愛もない写真を見る時間が好きだった
だから
あの日も
何も考えずにシャッターを切った
ライブリハーサルが終わった帰り道
夕焼けが綺麗だった
三人並んで立つ
セルフタイマーを押し、急いで二人の隣へ駆け寄る
カシャ
一枚目
普通だった
笑顔
夕焼け
何もおかしくない
カシャ
その瞬間
スマホが一瞬だけ固まった
画面が暗くなる
すぐに元へ戻った
そう思っただけだった
家へ帰り
写真を見返す
一枚目
問題ない
二枚目を開く
そこには
三人の後ろ
フェンスの向こう側に
知らない人が立っていた
白い服
長い髪
顔は影になって見えない
でも
夕焼けの時間
あの場所には
僕たち以外誰もいなかった
拡大してみる
画質が荒くなるだけ
顔は分からない
そう思って
スマホを閉じた
翌日
スタジオ
若井と涼ちゃんへ写真を見せる
三人とも
知らない人だった
でも
スタッフさんへ見せると
「三人しか写ってないよ?」
そう言われた
画面を見る
そこには
本当に三人しか写っていない
もう一度
若井へ見せる
ちゃんと見えている
スタッフさんだけが
見えていない
それから
写真を撮るたび
変なものが写るようになった
最初は
遠くに立つ人影
次は
窓の外の顔
そして
誰もいないはずのステージ袖から
こちらを覗く目
枚数が増えるたび
その人影は
少しずつ
僕たちへ近付いていた
ある日
涼ちゃんが言った
笑って言った
でも
笑えていなかった
若井も
何も言わず頷いた
それでも
僕は気になった
本当に写っているのか
確かめたくなった
スタジオの楽屋
誰もいない
スマホを構える
カシャ
一枚
誰もいない
二枚
誰もいない
三枚
誰もいない
安心しかけた、その時
四枚目
画面の隅
鏡の前に
誰かが座っていた
白いパーカー
俯いている
慌てて顔を上げる
鏡の前には
誰もいない
もう一度写真を見る
そこには
確かに
座っている
拡大する
顔が少しだけ見えた
その人物は
僕だった
でも
着ている服が違う
今日の服じゃない
何年も前に捨てたはずのパーカーだった
その夜
眠れなかった
何気なく
昔のアルバムを開く
高校時代
デビュー前
何百枚もの写真
一枚ずつ眺める
そして
気付いた
全部の写真に
あの白い人影が写っていた
遠くに
窓の外に
人混みの中に
ずっと
気付かなかっただけで
最初から
そこにいた
翌朝
三人で集まる
何も言わず
スマホを見せ合う
若井の写真
涼ちゃんの写真
僕の写真
全部
同じ人が写っていた
しかも
昨日より
近い
もう
僕たちのすぐ後ろに立っていた
誰からともなく言った
三人同時に
写真を全部削除する
アルバム
ゴミ箱
バックアップ
全部
完全に消した
これで終わる
そう思った
数日後
スタッフさんがライブ写真を送ってくれた
「いい写真撮れたよ」
そう言われ
データを開く
ステージで笑う三人
客席
照明
完璧な一枚
安心して閉じようとした
その時
客席の一番後ろ
真っ暗な最後列に
白い服を着た誰かが立っていた
今度は
完全に顔が見えた
それは
またしても僕だった
笑っていた
でも
その笑顔だけは
一度も見たことがないくらい
嬉しそうだった
そして
写真を閉じた瞬間
スマホのインカメラが
勝手に起動した
画面には
驚いた僕の顔
その後ろには
肩に手を置いた"もう一人の僕"が
ゆっくりと
笑っていた
まさか…、鈴木ちゃ(((((












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。