それは、二人がまだ言葉を交わす前。
連絡先どころか、お互いに
「テレビの向こうの、ダンスが凄い人」という認識しか持っていなかった頃の、本当の初対面の日。
テレビ局の最も巨大なスタジオで、年末の音楽特番の全体リハーサルが行われていた。
ステージの上には、新曲の激しいダンスパフォーマンスを披露しているME:Iの姿があった。
照「(ステージの袖で腕を組みながら、じっとその動きを見つめる)」
Snow Manの出番はME:Iの次だったため、照はメンバーと共に舞台袖で彼女たちのリハを見守っていた。
数多くのアイドルやアーティストのダンスを見てきた照だったが、センターで一際キレのあるステップを踏む石井蘭の姿から、どうしても目が離せなくなっていた。
佐久間「ねえ照、ME:Iの蘭ちゃん、マジでダンスの軸がブレないよね! 体幹ヤバすぎ!」
照「……あぁ。重心の移動がめちゃくちゃ綺麗。音の捉え方が、完全にプロのダンサーのそれだわ……」
照は無意識のうちに、彼女の刻む完璧なビートに心奪われていた。
「一度、ちゃんと彼女のダンスを近くで見てみたい」
ストイックな表現者としての純粋な興味と、一人の女の子としての強烈な存在感が、照の胸に深く刻み込まれた瞬間だった。
振付師「はい、ME:Iの皆さんリハ終了です! お疲れ様でした! 続いてSnow Manの皆さん、ステージへどうぞ!」
蘭「ありがとうございました! よろしくお願いします!」
ステージを降りるME:Iと、入れ替わりでステージへ上がるSnow Man。
舞台袖の狭い通路で、二人の距離が急激に近づく。
蘭「(っ……! 圧倒的な存在感……っ)」
蘭はすれ違いざま、列の先頭を歩く岩本照の姿を目の当たりにして、思わず息を呑んだ。
画面越しでもスタイルの良さは知っていたけれど、間近で見る彼の背の高さ、鍛え上げられた身体、そして纏っている鋭くも洗練されたオーラは、新人の蘭を気圧れさせるのに十分すぎるものだった。
すれ違う、わずか1秒。
二人の視線が、バチッと真っ直ぐに交差した。
照「(蘭の目をじっと見つめ、すれ違いざまにフッと小さく口元を緩める)」
蘭「(照の綺麗な瞳に吸い込まれそうになりながら、慌てて深く一礼する)」
言葉は何も交わさなかった。
だけど、すれ違った瞬間に蘭の鼻腔をくすぐった、照のほのかに甘いシトラスの香りと、彼の熱い視線の温度が、蘭の心臓をダンスとは違う速さで激しく跳ね上げさせた。
ステージに上がっていく照の後ろ姿を見上げながら、蘭の胸には不思議な高揚感が残っていた。
(岩本先輩……いつか、あの人に認めてもらえるくらい、もっとカッコよく踊れるようになりたい――)
これが、のちに地下のリハーサル室で重なり合うことになる、二人の運命の歯車が静かに、だけど確かに回り始めた「本当の出会い」の瞬間だった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!