第6話

【第3話】彼の気持ち─後編
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2024/01/07 05:14
会議の準備のために、6席ある大きなテーブルにそれぞれ参加者が腰掛ける。
そんな中、山中というマネージャーの男は
誰よりも早く上席ポジションに腰掛け、
ノートPCをカタカタと叩いていた。
恐らく、議事録の仕上げをしているのだろう。
山中
山中

(よし、もう少しか。)
浩二
浩二
(…。山中は議事録作成中か。)"山田さん、本日の議事録は?"
千賀子
千賀子
はい、終わっています。
浩二
浩二
(流石、仕事が早いな。というか、次回のミーティング資料まで…!?)
流石だ。ありがとう。
千賀子
千賀子
いえいえ///
ありがとうございます。
浩二はそう言うと彼女の肩を人差し指で
ツンと叩く。千賀子ははにかみお礼を述べた。そんな姿に揺さぶられたのか、
山中は咳払いを小さくしたのだ。
山中
山中
ヴッヴン。
…それでは、始めましょう。
最初に、チームの目標達成率ですが、━━━
千賀子
千賀子
(ふぅ、いけないいけない。気を取り直さなきゃ。)
山中が半期の目標達成率を読み上げる。
その間、
カタカタとPCのタイプ音が鳴り響く。
しばらくして、読み終わると同時に参列者である岩永主任が挙手した。
岩永主任
岩永主任
はい、山中マネージャー。
1点、気になったのですが…。
目標達成まで、例年も同様に
あと少しで届かずと言った所です。
業務効率上昇の為に企画書を立案しました。
後で目を通して頂けますか?
山中
山中
ああ。岩永主任。
承ります。そうだねぇ。
確かに、数字としてはまだまだだな。
毎年クライアントの目標数達成には程遠い。
浩二
浩二
(岩永主任は…。数字が全ての様だな。まあ、目に見えて取れるといえる。企画書だって立案自体は容易かもしれないが…。それじゃないんだよなあ…)
千賀子
千賀子
(今日の山中さん…。なんかいつもより明らかに不機嫌ね。うぅ…。やっぱりさっきの、紀伊さんとのやり取りが癪に障るのかな?)
山中は、紀伊ほどフランクではないが、
それでも、普段は親しみやすい性格だ。
よく、部下の定期的な面談の担当にもなり
話しやすいと評判で、支持も厚い。
しかし、今日は何やら会議の序盤から不機嫌である。
山中
山中
ふぅ。なるほど。
岩永主任の企画書を読み終え、ふぅとため息を着く。見た所、内容に文句なしという所か。しかし、千賀子は岩永と方向性の異なる
企画書を作成していた。
千賀子
千賀子
(…よし、!)
山中さん。私も企画書を作成しておりまして。目を通して頂けますか?
山中
山中
わかった。
どれどれ?
――
数枚の紙を束ねた企画書。
山中は手を伸ばし受け取る。
その瞬間、千賀子の指先に触れ、
不本意だが、雑に奪い取ってしまう。
参列者の間に居心地の悪い空気が漂ってしまう。気まず過ぎる。
岩永主任
岩永主任
…?
(あらあら?)
千賀子
千賀子
…。
浩二
浩二
っ…
(まじかよ…。あいつ、本気で千賀子の事…)
山中
山中
くっ…///
(うわぁぁあああ…!!!)
数秒間の沈黙の末、
ドタバタと小走りする様な足音が近づいて来る。…そう、もう1人参列者がいたのだ。

ジャスティス橋田だ。
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
ひゃあああああぁぁあ!!
うぉおおおおおおおぉぉぉ…
「ガチャ」
浩二
浩二
おいおい。
なにも変な奇声まで発することないだろうよ(笑)
(ジャスティス橋田っ!!助かったぞ!ジャストタイミングだ)
山中
山中
!?
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
チョットちょっとーーっ!
聞いてよ〜ぉ!アタシが会議行こうと思って、資料とPC持った時サア!
シャツの隙間にコバエが入ってきたのよんもぉー!!
浩二
浩二
あー、そりゃー、大変だなあ!
ハハハハッ!…。
(山中、心ここにあらずってか?とにかく気まずいよな…。)
橋田は、バレエダンサーの様にクルクル回りながら、両手を背中に回してんやわんやしている。
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
っ〜ー!!
あ、虫、取れたみたい。
あー〜っ!良かっター!
千賀子
千賀子
ふぅ…。
(やっぱり山中さん、私に好意ある…?いやいや…。考えすぎよね。)
浩二
浩二
橋田、ほら早く座って。
(やれやれ…。お騒がせな奴だ。しかし、場が取り持って少し感謝するよ。)
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
ヨイショっと。
ふーっ。…なあに。なんか揉めてる感じ?
岩永主任
岩永主任
揉めてはないけど~。
…山中さん、…ね?
企画書拝見なさって、意見が真っ二つ。
山田さん(千賀子)、
いつから考え方が変わったのかしら?
山中
山中
ああ。
山田さん、昨年は…~
数字視点で企画書作ってたでしょ?
方向性を変えたみたいだけど、
なにか理由があるの?
千賀子
千賀子
いえ、
直近5年間で数字が達成できないのには
何かしらの理由があるはずだと思いまして。
例えば、人員不足は勿論ですが…。
それ以外にも、新人教育のやり方だったり、
過程に目を向けるべきだと考えましたが…
いかがでしょうか?
山中
山中
うーむ。
浩二
浩二
仰る通りかと。
まあ、一概には言えないのは分かりますが…。やってみるのもありではないですか?
山中
山中
そうだな。新人教育の仕切り直し。
試してみる価値はあるかもしれないね。
いや、しかし…。うーん。。
(やっぱり、紀伊と同意見になったとすると…。ッ…あいつら――)
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
ピーッ!!
アンタたちっ。
もーっ、やってみよーじゃなあい!
両方ともっ。行動してみなきゃ
分かんないわヨ!
しかもっ、あと5分でミーティング終わんなきゃ!良い物は取り入れ、悪いものは捨てる!これよこれっ。
山中
山中
…は、はあ。そうだね。よし、
決まりだ。決まり!
同時進行してみよう。
(これ以上は、気まずいから橋田に任せておこう。…はぁあああ///なんてあんな事///
千賀子…。)
山中は先程の千賀子に対する、
幼稚な行動に大恥をかいていた。
顔を信じられない程に赤らめ、俯きながら
足早に会議室を後にしていった。
浩二
浩二
さあ、俺たちも戻ろうか?
岩永主任
岩永主任
そうね。
まあ、なるようになるわよ。
ね、紀伊さん?
…上手くやってよー??
浩二
浩二
あー、分かってる。

…岩永さん、山中さんのあの行動。
もしかして、察してました…?
岩永主任
岩永主任
ふふっ。
私が気づかないで誰が気づくのっ。
そんな顔しないで。
恋なんて日常茶飯事よ。私も引っ掻き回すようなことはしない。…私だって経験者だし?
千賀子
千賀子
えっ///、そうなんですか?
岩永主任
岩永主任
そーよ。
暗黙の了解なんてあってないものよ。
"ましてや恋愛なんてね"
強いて言えば、山中さんよ。
今の状況だし?好かれてるし。
千賀子
千賀子
っえ!///
はぁ…やっぱり。
(困ったなぁ。)
浩二
浩二
大丈夫。
なんとかなるさ。
山中だって浮くことはしないさ。
"好きなのは俺だけだからさ。"
千賀子
千賀子
っ…///
ジャスティス橋田
ジャスティス橋田
…紀伊浩二。開き直ってんわね。
まあ、いい事よ。
応援してるんだから!
まさかの恋のライバル登場。
先行きはどうなるかはまだ分からない。
けど、紀伊の朗らかさに千賀子は
少しばかり安堵した。
─岩永主任も既婚者であり、
社内で昔は恋多き女だったらしいが。


10年目で実った愛。
山中の不器用な恋心。

某大手企業は今日も恋に仕事に大忙しであった。


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