会議の準備のために、6席ある大きなテーブルにそれぞれ参加者が腰掛ける。
そんな中、山中というマネージャーの男は
誰よりも早く上席ポジションに腰掛け、
ノートPCをカタカタと叩いていた。
恐らく、議事録の仕上げをしているのだろう。
浩二はそう言うと彼女の肩を人差し指で
ツンと叩く。千賀子ははにかみお礼を述べた。そんな姿に揺さぶられたのか、
山中は咳払いを小さくしたのだ。
山中が半期の目標達成率を読み上げる。
その間、
カタカタとPCのタイプ音が鳴り響く。
しばらくして、読み終わると同時に参列者である岩永主任が挙手した。
山中は、紀伊ほどフランクではないが、
それでも、普段は親しみやすい性格だ。
よく、部下の定期的な面談の担当にもなり
話しやすいと評判で、支持も厚い。
しかし、今日は何やら会議の序盤から不機嫌である。
岩永主任の企画書を読み終え、ふぅとため息を着く。見た所、内容に文句なしという所か。しかし、千賀子は岩永と方向性の異なる
企画書を作成していた。
数枚の紙を束ねた企画書。
山中は手を伸ばし受け取る。
その瞬間、千賀子の指先に触れ、
不本意だが、雑に奪い取ってしまう。
参列者の間に居心地の悪い空気が漂ってしまう。気まず過ぎる。
数秒間の沈黙の末、
ドタバタと小走りする様な足音が近づいて来る。…そう、もう1人参列者がいたのだ。
ジャスティス橋田だ。
「ガチャ」
橋田は、バレエダンサーの様にクルクル回りながら、両手を背中に回してんやわんやしている。
山中は先程の千賀子に対する、
幼稚な行動に大恥をかいていた。
顔を信じられない程に赤らめ、俯きながら
足早に会議室を後にしていった。
まさかの恋のライバル登場。
先行きはどうなるかはまだ分からない。
けど、紀伊の朗らかさに千賀子は
少しばかり安堵した。
─岩永主任も既婚者であり、
社内で昔は恋多き女だったらしいが。
10年目で実った愛。
山中の不器用な恋心。
某大手企業は今日も恋に仕事に大忙しであった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!